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狂気の使徒  作者: ひょうすい
1章 学園襲撃編
17/24

17人目 魔法基礎学 その1



 アグロス魔法魔剣一貫学園内に存在する超巨大円形型闘技場『コロシアム』。ノースタリッドにある『コロッセオ』を模しており、周囲への被害も考慮して、強力な防御結界魔法が貼られている。また、コロシアム内での戦いが終わり次第、戦闘前の状況を魔法で自動的に戻るシステムが構築されている。そのため、前回戦ったリーレとゴーンの戦いの被害も完全に元通りになっている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 波乱の初日を終え、学園生活2日目が始まった。七曜で表すと今日は火曜日であり、入学式は月曜ということになる。休日は土曜と日曜の2日あり、公立高校と大して変わらない感覚であるため、元日本人の私にとって、非常にわかりやすくてありがたい学校となっている。魔界もこの感覚なのかな……?

 昨日あったこと、特に私の事はゴーンには内密にするように言ったけど、私自身もそれは隠さないと意味がない。というわけで今、何事もなかったかのような澄ました顔で校門を通り、校舎へと歩いて向かう。校舎に入ると、そのまま階段を昇って2階へ向かう。魔界には靴を履き替えるという文化はなく、基本的にほぼ全ての家屋でのドアは内開きである。

 2階に上がって廊下をしばらく進むと、Dクラスの教室を示す側面型の表札が見えた。この廊下、やっぱりデカイし長いから、同じ景色が続いて退屈な上に距離感が掴みづらい。国立なんだから、ちょっとでもオシャレにはしてほしい。

 そんな戯言を言ってると、いつの間にかDクラスの教室の目の前に着いていた。吊り戸のドアを開けると、そこには既に30人ほど登校しており、その中にはハイジュもいた。ハイジュは私に早く座って欲しいのか手招きしており、仕方なく私は座る。



 「おはよう」


 「おはよ」



 私は軽く挨拶して、机に鞄を置いて席に座ると、ハイジュは早速話しかけてくる。よっぽど話したかったんでしょう。……そんなに話したい?



 「今日から早速授業ってなんだよね」



 ハイジュは確認程度の質問をしてくる。昨日貰った時間割には今日からしっかり授業が始まると書いており、その上、明日から魔法と魔剣の実技の授業が始まるとも書いてあった。結構忙しいのでは……?



 「まあ、そうだね。確か魔法基礎の授業なんだっけ?」


 「実技の授業は明日から始まるとかどうとか……」



 今日は普通科も受ける座学に加えて、魔法基礎という科目の授業がある。魔法基礎は学園が休みでなければ5年間欠かさず行うため、これから死ぬほどやるであろう地獄の時間が、今日から始まるということだ。



 「魔法基礎は文字通り、魔法の基礎的なものしかやらないって聞くけど、実践的な授業内容もあるのかな……?」



 実践的な授業内容。恐らく実験とかそういう感じだろう。魔法は使ってこそ初めて魔法として成立する。もちろん、使わなきゃ「この学校は何をしているんだ!」とアグロスの国王がお怒りになるでしょ。



 「実践的なものは多いと思うよ。何せ、魔法って実践してみないと培われないものもあるし」



 その瞬間、チャイムが鳴り魔法基礎を教える先生が入ってくる。ハイジュは前を見て授業を聞く姿勢になる。すると、教室中がざわめき出す。



 「え? 待って待って」


 「リースリングさん!?」



 現れたのは黒髪ロングヘアーに黒い瞳を持つ、150cm前半くらいの身長のただの女性。何を驚くのかと思って前のハイジュを見ると、ハイジュは口に出さないにしても、顔には出ていて驚きを隠せずにいた。何せ、目の前にいる女性はリースリング・シャルロット。アグロス随一の魔法士だからだ。



 「Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラスの魔法基礎、並びに魔法応用の授業を担当することになりました、リースリング・シャルロットです。Cクラスの担任をやってますので、質問があればCクラスか職員室に来てくださいね」



 私はこの瞬間に、リースリング・シャルロットの存在を思い出す。私は過去にこの女と面識がある。スターベン一家殺害事件の後、事件の捜査に来た女がまだ若かったこいつであり、魔界を知るための放浪の旅が半年止まった理由もこいつだ。

 リースリングはそんな私を覚えてはいなく、ただ全員に平等に授業を進めるために話していた。



 「まずは……、魔法ってどういうイメージを持ってる?」



 リースリングは全員に魔法に対するイメージを聞く。魔法に対するイメージは大したことないと思われることがほとんどだが、魔法というものはかなりイメージに左右されるものである。

 生徒達は「かっこいい」だの「便利」だの「人助けに使えるもの」だの、どんどん独自のイメージを思い浮かべ答えていく。確かにそれは間違っていない。だが、魔力というものはもっと根本的なものである。



 「じゃあ次、リーレさんは?」


 「かっこいいものですね。圧倒的に」



 ……これは適当に流しただけ。本来の魔法とは、何にでも取って代わるもの。このイメージさえあれば、基本的に何でもイメージすることができる。恐らく、リースリングもそう答えるはず。



 「みんな答えてくれてありがとう。確かに、かっこいいとか便利とか、そういうイメージを持ってくれるのは非常にありがたいし、そういうイメージを持ってくれていた方が教える側からしても嬉しいの。けど、魔法っていうものはもっと簡単に考えるものなの」



 「それを説明するには、まず魔力について説明するね。教科書3ページを見て」



 私含め生徒達の手元にある教科書。その教科書の表紙を見ると「魔法基礎」と書かれており、魔法基礎の教科書であるのだとひと目でわかる。

 生徒達は魔法基礎の教科書3ページを見ると、こんなことが書かれているのが目に入る。



 『魔力とは、この世界に住む全ての生命が生まれ持ったものであり、それを使うことで生活を豊かにすることができる。生命の体内にある魔力が「魔力」と呼称され、大気中にある魔力を「魔素」と呼称される。

 魔力を持つものは必ず適正属性を持っており、火属性、水属性、木属性、光属性、闇属性、風属性、特属性の7つの何れかが該当する』



 「魔力っていうのは、こういうものね」



 リースリングは手のひらを上に向けて楽な体制になると、魔力を手から大量に出す。全員がリースリングが魔力を出した瞬間、教科書から目を離してリースリングの方を見る。リースリングが放つ魔力量は圧倒的であり、その魔力の圧に皆が押されるほどである。



 「これが魔力で、みんなの中にも必ずあるもの」



 すると、リースリングは何もなかったように1つページをめくり、次のページの内容を見て話す内容を頭の中でまとめる。話す内容が決まったのか、次は1番後ろのページを開いて話し始める。



 「次は教科書の1番後ろのページを開いてください」



 1番後ろのページを開くと、そこには魔法の属性相性相関図と各属性にある魔法の種類がズラっと書かれていた。



 「これは応用魔法を使う時に必要となる、属性相性相関図と、応用魔法の種類を大まかに書かれているものです。後で応用魔法などの基本的なことは教えますので、この表を1週間後までに、大まかでいいので覚えておいてください」



 リースリングは軽くそう言うと、黒板に3つ、違う魔法陣を書き始める。



 「この3つの魔法陣は『基本魔法』と呼ばれる、魔法を使う上で基礎の要素が詰まっている魔法陣です。詳しくは教科書の4ページを見てください」



 生徒達は教科書のページをめくって、4ページに書かれている内容を見る。



 『魔法とは、ある特定の魔法式を意味する魔法陣の通りに魔力を配置し、そこに魔力を流し込むことによって発生する特殊現象である。知的生命体は、この現象を応用して沢山の魔法を行使している。

 魔法には基本魔法、応用魔法、展開魔法、固有魔法の4種類が存在する。それぞれが違う役割を持ち、適材適所で使う必要がある。

 基本魔法とは、名の通り全ての魔法の基本となる魔法であり、身体強化、防御、回復が該当する。基本魔法の魔法式は応用魔法、展開魔法に必ず使われる程重要で基本的な魔法式であるため、使えなければ応用魔法、展開魔法を使うことは基本的にできない』



 すると、リースリングは黒板に書いた魔法陣を一瞬で、魔力で大きく空中に書いた。



 「黒板に書いた魔法陣は、基本的に魔力で作っていきます。明日に実技があると思うけど、実技では多分……、魔力で魔法陣を作ることをすると思う」



 リースリングは、最初に言ったイメージについてもう一度話す。



 「結局はこの魔法陣を作るっていうのもイメージで、どのように魔法式を魔法陣に当て嵌めたら魔法を放つことができるのか。より綺麗に魔法陣を作るかっていうのが、イメージ力に依存するものなの。だから、魔法基礎の授業外ではイメージ力を磨いてほしいの。瞑想とか」



 最初に言っていたイメージの重要さを、ここでしっかり話すことによって、生徒達の頭にしっかり焼きつかせた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 約50分の授業が続き、一限目終了のチャイムが鳴り響くと共に授業終了となった。生徒達は廊下へ出ていき、他教室の友達と話しに行ったのだろう。



 「イメージか……」



 私が席を立って教室の外に出ようとした時、ハイジュはイメージ性の重要さを心に留めていた。大丈夫。結局は魔力の解釈次第だから。



 「ハイジュ。いいこと教えてあげる」


 「いいこと? 何?」



 思いの外食いついた。私はとりあえず、ハイジュが心に留めたイメージについて話しだす。



 「イメージって大事って言ってたじゃん」


 「うん。教科書にもイメージは大事だって書いてるし……」



 教科書4ページの左端に「イメージは魔法において1番大切なものである」と書いている。じゃあこの教科書、魔力に対する本質を理解していない。



 「確かにイメージは大切。けど、みんな魔法……、いや、魔力に対する解釈に決定的な間違いがあるの」


 「間違い……?」


 「そう。魔法をイメージするんじゃなくて、魔力の動かし方自体に意識を持っていくの」



 リースリングは「魔法を使う時、どのような魔法式を思い浮かべて、その通りに魔法式を並べて組み立てるか」ということを言っていた。が、私含め魔法の神、ヘカテーの意見は違う。「魔力の動き方さえ理解できれば、正直魔法式なんぞそんなに必要じゃない」と、考えている。魔法式という固まったもので考えるのではなく、魔法陣の中でどのように魔力が動いているのか。というわけだ。



 「魔力っていうのは固体じゃない。だから魔法陣の中でも魔力って言うのは必ず動く。んで、魔法陣ごとに魔力の動き方っていうのは絶対にちょっとは変わる。そこさえイメージできれば、最低限の魔法式だけで魔法は使える」



 最低限の魔法式だけで魔法は使えると言ったため、それを証明しなければならない。



 「リースリングが書いていたあの魔法陣。例えば回復だとしよう」



 私はリースリングが書いた魔法陣と全く同じ魔法陣を空中に魔力で書く。



 「これがさっき書いてた魔法陣なんだけど……」



 私は、リースリングが書いた魔法陣の最低限だけを切り取った魔法陣を同じように書く。魔法陣の中にある魔法式の量は10分の1にまで減り、かなりコンパクトな形となっている。



 「これも同じ効果なの」


 「魔法陣の中での魔力の動き方が、この2つは同じってこと……?」



 流石満点入学。理解が速い。



 「これは余分なものが多すぎる。んで、無駄を省いた最小限の魔力で放たれるのが、この魔法式って訳」


 「イメージするものが違うだけでこんなに変わるんだ……」


 「イメージって大切でしょ?」


 「確かに……」



 理解はしたんだろうけど、実感が未だ湧いてないって感じか……。



 「……リーレってさ、他にも魔法には結構詳しい感じ?」


 「ま、まあ……」



 他にも教えてって感じ……? そのくらいなら全然いいけど……。私が魔法詳しくて何があるんだ……?



 「じゃあ、ひとつ聞いてほしいことがあるの」



 聞いてほしいこと……? まだ話し始めてから2日目だけど……。逆にこのタイミングで話しておいた方がいいのか……?



 「聞いてほしいこと? まあ聞くけど……」


 「ありがとう。その前にひとつ、質問いい?」


 「いいよ」


 「私達って、友達っていう解釈でいいよね」



 ……なるほど。そういうことね。面倒事、乗ってあげましょう。



 「逆にさ、友達じゃなかったら何だと思ってる?」


 「ありがとう。これで遠慮なく話せる」



 ハイジュが話し始める空気を出した瞬間、いつもの陽気な雰囲気とは違う、私が前世で死ぬ程味わった闇深い雰囲気を感じた。どの世界も、人というものは闇深い要素を持っている。それを話してくれるだけでも、ありがたいものだ。



 「いいよ。話して」


 「これは私が6歳の時……」



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