15人目 入学初日 その3
国立アグロス魔法魔剣一貫学園。その中には色々な学科が存在する。魔法魔剣総合科、魔法科、魔剣科、普通科、体術科、冒険科、音楽科、美術総合科、美術絵画科の9つが存在するのだが、それたち全てに色々な特徴がある。
・魔法魔剣総合科。魔法と魔剣についてかなりハイレベルで学ぶことができる、アグロス国が全面支援している学科。講師は国の中で重役を務めている者たちである。
・魔法科。魔法について専門的に学ぶことができる、アグロス国が全面支援している学科。講師は魔法界でかなりの地位を持っている者や実力者が担当する。
・魔剣科。魔剣について専門的に学ぶことができる、アグロス国が全面支援している学科。講師は魔剣界でかなりの地位を持っている者や冒険者が担当する。
・普通科。文字通り普通の学科。この世界の一般教養やアグロスの歴史、芸術など、浅く幅広く学ぶことができる。
・体術科。体術について実践的に学ぶことができる学科。対人戦に関してはかなり専門的に授業をしており、アグロス国の地域警察の6割は体術科出身である。
・冒険科。姉妹国である「冒険国家ロステラス」との協力で成立した学科。ロステラスの一留冒険者が講師であり、5年生の最後には冒険者試験を受けることができ、受かれば冒険者免許を取得することができる。
・特進科。一般教養について深く学ぶ学科であり、魔法を使う職業以外を目指すなら、経歴として基本的に1番有利な学科である。
・音楽科。音楽について専門的に学ぶことができ、プロの音楽家の目に留まれば課程を全て飛ばして卒業することができる。
・美術総合科。絵画や教会のステンドグラス、その他諸々ほとんどの美術に触れることができる学科。
・美術絵画科。絵画について専門的に学ぶことができ、プロの美術家の目に留まれば課程を全て飛ばして卒業することができる。
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何事もなかったかのように教室に歩いて現れた私を見て、ハイジュは困ったような顔をして私に問う。
「あの代表2人って……、一体何者なの?」
その質問は至極真っ当な反応であろう。今さっき私はゼフュロスに「新入生代表の2人が魔王の子孫と勇者の子孫」ということを知らされたため、あの挨拶をしたことにも納得がいく。だが、ハイジュは何も知らない。それは学園中の生徒達も同じであり、特徴的な挨拶から「あの2人は一体何者なのか?」と噂になっている。だが、この話の広まり方的に本人達は関与していないように見える。仮に本人達が関与しているんだったら、あの演説内容的に確実にクソガキみたいな性格してる。じゃあ絶対に魔王の子孫だの勇者の子孫だの絶対に言うはず。
話を戻すとして、今の私にはハイジュに比べて明らかに大量の情報を有している。その大量の情報を、私が何者なのか疑われない程度にうまく使わないといけない。例えば、私が魔王の子孫と勇者の子孫であることを断言してしまえば、あの2人の次に何者なのか疑われるのは私。じゃあ、私が情報の発信源だと気づかれないように伝えればいい。
「教室に戻ってくる時に誰かが言ってたんだけど、魔王の子孫と勇者の子孫なんだって。どっちがどっちかとかはわかんないけど」
どっちがどっちかも知ってる。けどそれは曖昧にする。
それはそうとして、魔王の子孫と勇者の子孫がいるAクラスの場所を知っておきたい。暗殺する時にいっぱい計画は立てておいた方がいいし、最初にどんな奴と仲良くなるのか見ておきたい。
「へぇー……。もうそんな情報持ってる人いるんだ……」
ハイジュは私の作りだした架空の人物に向けて言う。まあ、私もゼフュロスから言われなかったらただのクソガキで終わってたし、実際帰ってくる時にもうっすら聞こえたような気がしたし。そういう情報を集める奴って、本当にどこから手に入れてるんだろ……。
「私、今からその2人の教室に行くんだけど……、一緒に来る?」
ハイジュはAクラスに行くらしく、私を誘ってきた。私も行く気ではあったし、ハイジュの誘いをわざわざ断る理由はなかった。それに、Aクラスに行く途中にはアグロス王の第2王女であるザリレア・アグロスがCクラスにいるらしいし、その顔も見ておきたい。
「行く」
私とハイジュは共に廊下に出て、Aクラスがある方向に歩いていこうとすると、隣の教室に人集りができていた。男子生徒と女子生徒の比率は1:1であり、200人くらいだろうか。その教室の前の廊下の半分を占める人集りの原因は、Cクラスのザリレア・アグロスだった。人集りのせいでよく顔が見えなかったが、腰くらいまでの黒髪を真っ直ぐ伸ばした、水色の円な瞳を持つ女の子だった。体はよく分からなかったが、多分ちっちゃいと思う。ジャンプしてそこまでの情報しか得られなかったのは少し悔しいが、見れただけ良しと思おう。
Bクラスには特に目立った人集りがなく、そのまま素通りして次はAクラスだと言ったところで、Aクラスの前にあるCクラスより大きい人集りから数人の男子生徒が2人走って出てきた。何かに怯えたような顔で走るためなんのことかと思うと、その人集りから短めの紫髪と黒眼を持った180cm位の身長の男子生徒、魔王の子孫、ブラーヴ・ミリセントが現れた。ブラーヴは眉間に皺を寄せて逃げた2人の男子生徒を見て、怒鳴り声を上げる。
「お前ら舐めたことしてんじゃねェ!! 次やったらぶっ殺すからなァ!!」
新入生代表挨拶の時とは比べ物にならないほど凶暴な性格を顕にしたブラーヴは、逃げる男子生徒達を追いかけようとする。
「あれ、うちのクラスの生徒じゃない?」
「ん?」
ふと後ろを振り返って確認すると、なんとなく思いつく奴らが2人。……あの阿呆達か。仲良くなったのね。ま、私がこいつを止める理由はないし、そのまま行かせてもいいか……。
ブラーヴは阿呆達を走って追いかけ始めると、Bクラスの前を通過し始めた位で減速を始めた。流石に減速にしては早いだろうと思ったが、Cクラスからザリレアが現れた。どうやら彼女もまた、偽善の質らしい。けどまあ、一般の人からしては異常なくらいの魔力量を前にして微動だにしないのは感心するけど……。
「邪魔だ。どけ」
「嫌です。何があったにせよ、手を出そうとするのは良くないです」
2人は無言の圧をかけ合う。周りにいる生徒達はその空気で萎縮して何もできない状況であり、ハイジュは辛うじて動けるくらいだった。……仕方ない。
『空間転移』
『空間転移』は特属性空間系魔法であり、指定した物を移動させる魔法である。指定した物の大きさと移動距離に応じて必要な魔力量が変化する。
空間転移を使ってたまたま近くに通っていたゴーンをここに転移させた。ちなみに神術ではなく魔法を使った理由は「これほど人が密集していた場合、誰かしらこういう感じの魔法を使いそうだから」というものと、「神術を不用意に使うと、この学校中に仕掛けられている魔法センサーに一切反応せずに魔法が発動されるのはおかしいから」というもの。魔力隠蔽は特属性や固有魔法には使えないため、神術を使えば別の何かしらの力が働いたと誰かしらに勘づかれる。そのためである。
「……何をしている?」
転移された事に驚きながらも、目の前で2人が無言の圧をかけあっている現状を見て適切に対処を行う。タワー第5席ともなれば、こんな現状すぐに打破できるのだろう。声をかけられた2人はゴーンがいることに驚きながらも顔を向け、質問に答える。
「男子生徒2名に暴力を加えようとしていたので、止めようとしていました」
「なるほどな。合ってるのか?」
ザリレアがゴーンに経緯を説明し、ゴーンはブラーヴに事実確認を行う。
「合ってます」
「暴力が別に悪いとは俺は言わん。だが、使い所をしっかり考えて力は使え」
ゴーンはブラーヴの肩を2回軽く叩くと、Dクラスに向かってゆっくり歩き出した。後ろを向いていたため顔は分からなかったが首を傾げており、転移したことがまだ気になっているのだろう。
一悶着はあったが、私とハイジュは気にせずにAクラスの前に着いた。魔王の子孫であるブラーヴ・ミリセントは確認できたので、もうひとつの目標は勇者の子孫であるエヴァーメリー・ベントレイル。少し長めの金髪と赤眼を持った170cm後半位の身長の男子生徒が、教室で女子生徒に囲まれていた。女には慣れているように女子生徒と話し、それがさぞ当然のようにしている。私とハイジュはその姿を見て少し固まった後、すぐに教室に戻った。
「変な人達が新入生代表だったんだね」
「あれを『変な人』としか言えないこの言語に文句を言いたい」
教室の自席に座ると、ぞろぞろとDクラスの生徒達が戻ってきた。あの阿呆達は既に帰ってきており、仲良さそうに話している。さっきの喧嘩はなんだったのか。
チャイムが鳴ると早速ゴーンが話を始める。
「今日は入学式の日だから授業はない。だから、この時間を使って色々この学園についての話をする」
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午前までだった学園は終わって家に帰った私は、学園のことで新たに確認したいことが沢山あった。そのうち1つである「ゴーン・ムナメスの実力」についてだ。基本的に生徒と戦うことはないことが、ザリレアとブラーヴの件の時にわかった。実力差がありすぎるから逆らう者が現れないということである。まあ、仮にもタワーの第5席だし。舐められた態度で来られれば、それ相応の対応をすることができる前提なのだろう。
ゴーンの実力についてどれほどのものなのか調べたくなった私は、これまでゴーンが関わった事件や内乱、戦争について調べることにした。
「水属性と闇属性の二重属性で、極火力まで使った記録があるのね。今年の測定更新では魔力量5218と……。魔法はほとんど使わずに強化した斧による斧術が主戦術、身体強化と治癒が滅茶苦茶精度高い。まあ、私個人としては相手にしやすい感じかな」
あまり強いようには感じないが、戦績としては滅茶苦茶強くとんでもない戦果を挙げている。魔法を使ったにせよ、何故教師をしているのかわからないくらいに強い。文面上だけだけど。とりあえず、ゴーンの強さがどれくらいなのか、学園の最高戦力がどのくらいの実力なのか、この学園にいる以上知っておかないといけない。
「とりあえず、あいつが1人になるまで時間を置きますか……」
すると、私の家にゼフュロスが何の前触れもなく現れた。
「よっ」
「何?」
「学園初日、終わってどうだ?」
ゼフュロスは私に学園について色々聞きたいんだろう。だが、私にはまだやることがある。
「いや、まだ終わってないよ」
「どういうことだ?」
ゼフュロスは、「まだ学園が終わっていない」と私の口から聞いた瞬間疑問に思った。
「お前、勝手に帰ってきたのか?」
「いや、そうじゃない」
「じゃあどういうことだよ」
「タワー第5席、ゴーン・ムナメスの強さを図りにもう1回学校に行く。だからまだ、学園は終わってない」
すると、ゼフュロスは何となくわかったような顔をして頷く。
「なるほどな。何を思ってその決断になったかは知らんが、お前が解決しなければならないことは恐らく多そうだ」
「え? どういうこと?」
「いずれわかる」
なんとなく私はゼフュロスの顔をじーっと見つめる。ゼフュロスは私の目をただじーっと見て、追加で言う。
「……っていう勘だ。気にするな」
「じゃあ最初っから言うな……っ!!」
私はゼフュロスのいる場所まで物凄いスピードで走り、ゼフュロスの腹を思っきし殴った。殴った後にすぐ拳を戻すことで、一瞬で全てのエネルギーがゼフュロスの体に伝わるようにしたため、ゼフュロスは殴られた瞬間からとても痛そうに悶えた。
「お前……、2回目だぞ……」
「しょうもないこと言うから。あんたが悪い」
四つん這いになってるゼフュロスの背中の上に座って、ゼフュロスの頭を何回も軽く叩きながら言う。けどあくまで神だから背中の座り心地は悪く、すぐに立ち上がった。
「私、ゴーン・ムナメスの監視があるから」
そう言って、私は生命界への扉を開いてミレアスへ向かった。