14人目 入学初日 その2
ゴーン・ムナメス。アグロス魔法魔剣一貫学園の1年Dクラスの担任であり、タワーの第5席である。物事を瞬時に見極め、臨機応変に対応するところはかなりレベルが高いが、力の方だけをよく見られる。正義感が強いが、メリハリはある。
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「Dクラスの担任、ゴーン・ムナメスだ」
ゴーンが自己紹介を始めるとクラス中の生徒は緊張感に包まれ、身動きひとつ取れずに話を聞き始める。それほどの威圧を放ち、存在感をアピールするゴーンだが、そんな奴を見て私は「めんどくさそうな人間じゃないだろうか?」と少し思ったりしている。
「さっき見た通り、俺は人が迷惑している姿が嫌いでとてもムカついてしまう人間だ。まあ、人に迷惑だけはかけるなよ」
めんどくさいやつ確定だなこいつ。てかそんなことでムカつくんなら教師失格だろ……。周りのやつも絶対面倒くさがってるだろと目を動かしてみるものの、威圧に圧倒されたそんなどころではないようだ。ちなみに、さっき喧嘩していた生徒は完全に存在感がなくなっており、空気的存在と化していた。
ゴーンはカンペと呼べる紙を見て、これからの予定について話し始めた。
「まず、これから体育館で入学式が執り行われる。入試成績順に2列で並んだ状態で着いてこい」
そう言うと、ゴーンは私達を廊下に出席番号順に並べさせられる。私の入試成績順は2番で、ハイジュが1番なためかなり近く、ゴーンの真後ろを歩いているような感じだった。ちなみに喧嘩していた奴らは学力が近かったようで、23番と24番だった。喧嘩は同レベルの間でしか起こらないらしい。
「私語は慎め」
ゴーンは私達に一言だけ伝えると、体育館に向かって足を運ぶ。
「この先生ってさ、リーレ的には強い雰囲気出てるの?」
ハイジュは可能な限り首だけ振り向け、前で先導しているゴーンにも聞こえないくらいの極小量の声で話しかけてきた。しょうもない質問だったら無視を貫こうとしていたが、予想通りめちゃくちゃしょうもない。けどまあ、この男……。強い雰囲気は出てないけど潜在能力はまだあるって感じかな……?
「バッカ弱い感じしか出てない」
ハイジュと同じくらいの声で返すと、ハイジュは横顔でもわかるくらいに驚いたような顔をして「えぇ〜?」と更に小さな声で言っていた。と言うよりかは、声が漏れていたという方が近い。
「次元が違う存在なんだってことがすぐにわかった……」
「まあ、私強いし」
すると、ハイジュは何か儚い顔をして俯いた。過去に何かあったのだろう。けどまあ、それに自分から首を突っ込むほど優しい心を持ってるわけじゃない。それに、地道にだけど奴らも殺さないといけない。それらを踏まえて考えるなら、よっぽどのお願いをされない限り関わる気はないかな。まずは自分の力でどうにかするべきだし。
私がそう考察していると、ハイジュは私の顔を不思議そうに見ている。今の顔がそんなにおかしいのだろうか。
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
ハイジュにも何かしら重い過去を背負っているのだろう。私もバレたくない隠し事のひとつはあるからね、それでトントンと行こうじゃないか。
「エアス・ハイジュ。Cクラスの入り方を見て覚えておけ」
「あ、はい」
「エアス・ハイジュの後ろを続いて歩き、順番に席があるからその席の前で立ち、合図が出るからそれに従って座れ」
どうやら、現在Cクラスが移動しているためその動きと同じ動きをして私たちは移動するらしい。集団行動のひとつだろうね……。洗脳していくんだわ怖いわぁー。
ハイジュが入る番となったため、Dクラスの全員はそれなりに綺麗な姿勢で歩き始める。この学校のほとんどが何かしらの貴族なため、基本的な動きは皆できる。私も一応貴族出身地なんだけどね、どっかの誰かさん達のせいで実質孤児だから前世の記憶使わないと全くわからんのだよ。まあ、結局は私の望んだ形だったんだけどね。
全クラスが体育館に着いた。着席の合図を司会の先生が行って新入生全員が座る。なんとその数4239人。どこのマンモス校だよ。でもそんなに人数がいても体育館内は静寂に包まれている。育ちがいいから黙らないといけないところはしっかりと弁えてるみたい。……悪いやつもこんな所じゃ黙っちゃうか。
「これより、第96回アグロス魔法魔剣一貫学園入学式を挙式する。一同、起立!!」
司会の合図で全員がビシッと立ち上がる。私も例に漏れずビシッと立ち上がったが、この空気感で合わせられない奴はよっぽどやばい奴であろう。
「礼!!」
体育館内に響き渡るほどの大きな声で号令をかけ、揃ったタイミングで礼を行う。集団行動とはまさにこの事。
「着席!!」
またしてもバカでかい号令で一斉に座る。司会が「初めに、学園長からの祝辞」と言うと、呼んでもいない学園長が舞台に上がり、司会の礼を挟んでから話し始める。
「えーと。まず、入学おめでとう」
前に出てきた学園長は赤眼と桃色の少し長いくらいの髪の毛を持ち、一瞬天使なのかと疑う程に容姿が整っている女性だった。私の思い浮かべる学園長というか校長先生のイメージとは違ったから結構驚いている。
(けど……、どっかで見たことあるんだよなぁ……)
気のせいか? 一瞬天使なのかと疑ったけど……、本当に神界で見た気がするんだよなぁ……。ま、後であの学園長問い詰めるとしましょうか。
話が始まって早30分。これといった身の詰まった話はなく、だらだらと世間話のような内容の話が続く。流石に育ちの良い貴族の子供のボンボン達でさえも痺れを切らしたのか、話を聞くのがめんどくさくなってきているようだ。ちなみに横にいるハイジュは辛抱強く話を聞いている。
(話くらいまとめて喋ってくれないかな……)
「ここからが本題です。この学園に入って何を学ぶかはもう既に決まっているでしょう」
どうやら学園長がこれまで話した30分は、本当にただの世間話だったようだ。これから身の詰まった話をするのだろう。
「その上で何を行うかが大事になってきます。国際関係や国内の情勢に関わらなければ、この学園は黙認するという形をとっています。なので、どれだけ大規模なことを行っても基本的には大丈夫です。そして、私たちはその行動の結果だけを見ています。結果によって成績が上下したりしますので、推薦を取りたい人や資格取得に有利になりたい人は、学業以外にもしっかり勤しむことを勧めます。私からは以上です」
要約すると、学業以外の成績によって内申点が上がったりするということらしい。内申点に関するシステムは予め構築してるんだと思うけど、それについても後々調べないといけないっぽいね。この学園のシステム、意外とめんどくさいものが多そうだわ。
「礼!!」
司会の号令で一斉に礼をする。そしてまた司会は次のプログラムに話を進める。
「次に、新入生代表挨拶。代表者2名は舞台の上へ」
そう言われると、Aクラスから2人の男子生徒が舞台に向かって歩き、上がった。事前に盗み聞いた情報なのだが、今回の満点者の中でも特に優秀であると認められた者が新入生代表として選ばれるらしい。通例では1人となっているのだが、今回は特例で2人となっている。ちなみにハイジュは満点だが候補から外れているためここに座ったままである。
舞台に上がった瞬間、私は究極火力魔法の解析魔法を使って2人の詳細な情報を見る。すると、2人の魔力総量や適性属性、魔力充填量や体内に流れる魔流すらも確認することができる。名前ももちろん見ることができて、名前は「エヴァーメリー・ベントレイル」と「ブラーヴ・ミリセント」だという。ちなみに何故最大火力ではなく究極火力なのかというと、体内の魔力が体外に漏れる量が極力まで減らすことができる限界値が究極火力だからだ。流石に式中に魔法の使用がバレたらとんでもないことになるからね。
早速1人目、エヴァーメリーが話し始める番となった。すると、エヴァーメリーは持っていた台本を破り捨てて一言、体育館中に響かせるように言い放つ。
「俺がこの学校の頂点に立つ。その姿だけ見て5年間過ごしておけ」
そう言うと、後ろに下がる。どうやらそれだけらしい。……とんだバカじゃねぇか。代表とは思えないカスみたいな言葉だったが、威勢は感じれた。けどまあ、多分これなら人殺しまくってた私の方がまだ優秀だと思う。
そして2人目のブラーヴが話し始める番となった。
「さっきのバカよりかはまだ優秀だと自負する。けどまあ、俺がこの学校の頂点に立つことは既にわかりきったことだ。それ以上は何も言わん」
ブラーヴは台本を破り捨てながら話し、2人は勝手に降壇する。阿呆が前に出たらこうなるのかとつくづく痛感した。出る杭は打たれるというし、こいつらはどっかの誰かが制裁してくれるでしょう。
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入学式が終わり、教室に戻ってくると2限終わりのチャイムが鳴った。まさかあの入学式で2限が終わるまで時間が経っているとは思いもしなかった。学園長の話がなければもっと早かったのかと思うと、あの学園長をぶん殴りたくなる。
休み時間に入ったため、ハイジュに「トイレ行ってくる」と伝えて誰もいない所へ行き、屋上へ瞬間移動する。そして、入学式で得た情報をゼフュロスに共有する。そのためにゼフュロスを呼ばないといけないのだが、どうやって呼べばいいものか。わざわざ神界への扉を開くのもめんどくさいし……。
「呼んだか?」
呼ぶ前にゼフュロスが姿を現した。ゼフュロスは空を浮遊している状態で現れ、少し体が透けているようだった。なんだこいつストーカーかよ。
「入学式で得た情報を共有する。今日の朝に情報が色々公開されたんでしょ? しかも私が入学式に出席してる間に」
「ああ。とりあえず先こっちから話すぞ」
ゼフュロスはそう言うと、そのまま普通に話し始めた。
「その状態って周りに声聞こえないの?」
「神を視認したことがない限り、精神体を見ることはできん。ちなみに神からは関与する事ができるから一方的だな」
「へぇー」
「まず、対象となる勇者の子孫と魔王の子孫。過去に敵対した勇者と魔王のそれぞれの子孫だが、今回生まれた子孫は隔世遺伝として同格の力を得た。そしてそのどっちかの死ぬタイミングが1週間以上ズレてしまった場合、世界の均衡が崩れて魔獣が世界中で自然発生する。それは次の隔世遺伝が同時に誕生するまで続く」
「なんじゃそりゃ」
「それが200万年前に1000年間起こっていてな、魔獣大進軍って呼ばれている。それがまた起こりうる可能性があり、それを止めるために今回の依頼はある。それを念頭に置いた上で聞いてくれ」
「わかった」
すると、ゼフュロスは咳払いをして話し始める。
「目標は勇者の子孫としてエヴァーメリー・ベントレイル、魔王の子孫としてブラーヴ・ミリセント」
「ちょいまちちょいまち」
「なんだよ」
「入学式の新入生代表がその2人だったんだよね」
「あー、その件か。俺がちょっと改竄してそうさせた」
「何やってんだお前」
「どうだった? 身勝手だっただろ?」
「まあね。あれほど身勝手だとは思わなかった。あの空気感であの芸、よくやれるわ。なかなかの強心臓だよ」
あれほど強心臓なやつはそうそういない。メンタルの化け物というか天才だけど、バカと天才は紙一重とも言うし、アイツらはバカすぎるんだろう……。にしてもよく新入生代表になれたよな。
「うっ……!!」
私は何だかイラついたため、思いっきり跳んで精神体のゼフュロスに少し強めの腹パンを浴びせた。ゼフュロスはとてもイラついていたが無視し、そのまま瞬間移動して教室へ戻った。
ゼフュロスは悶えながら精神体を消して、神界にある本物の体に意識を戻す。すると、精神体の状態で腹パンを食らったのが思いの外効いており、腹を抱えながら痛がっていた。
「……痛ぇ!!」