表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂気の使徒  作者: ひょうすい
序章 狂気の使徒
11/24

11人目 事前調査っていう名目で……、ね?



 アグロスの王都、ミレアス。そこに広がるのは世界有数の水の都。北に聳えるハイロスティング山脈から流れる様々な川が、早くから発展した城下町を作っている。城下町は活気に溢れており、明るい声が絶えない。周辺諸国との連携も円滑で、「最も長く戦争を起こしていない国」として観光客がかなり多く訪れるようになり、観光業も盛んになりつつある。教育面や開発面においても先進的であり、ミレアスの中心部に「アグロス魔法魔剣一貫学園」という5年制の学校が設立されている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 3月13日。明日にはもう入学試験が行われる訳だが、私自身はこのまま明日を待っても別にいい。出される問題は魔法や魔剣に関する初期技術の構築式や、それに関連する知識量を測るものらしく、その辺は全知全能(ゼウス)の権能でどうとでもなる。そして実技試験においても、それなりの実力があれば誰でも合格できるもの。段階でいえば通常火力(レベル2)くらいだろうか。はっきり言って、入るだけの試験なため余裕だった。



 (でも、それじゃダメだよね……)



 ゼウスが依頼した内容は「あの学校で普通の生徒として過ごせ」というもの。全力を出して試験に臨めば確実に平均値となる点数を越してしまう。だから私は、世間一般的なレベルを知るために受験者のレベルを知ろうと思った。

 レベルを知ろうとする手段はいくらでもある。スターベン一家殺害事件の時のように、全知全能(ゼウス)を使って各地の情報を集める方法も、魔法創造(ヘカテー)で情報開示のような魔法を作って一気に集めるのもある。



 (面白くない……。簡単すぎる……)



 悩んだ。神術を使って調べるのはすんごく簡単なんだけど、味気なさすぎて生きてる気がしないから却下。じゃあ、既にある魔法と生前に会得した技術だけで情報を得ようと考えた。



 (これだ……!!)



 こりゃ名案だ。

 けど、ただただ突っ込んでいくだけじゃ簡単に追い出されるだろう。噂によればこの国のタワーの奴がいるんだとかどうとか。かなりの対策が必要だろうと本能で感じたため、虚無の世界を出た瞬間から魔力探知を最大火力(レベル7)の状態で発動することにした。



 「……さて、行きますか」



 私はポータルを開いて、ミレアスのとある橋の下に通した状態でポータルに入った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 橋の下に出た。その瞬間に最大火力(レベル7)の魔力探知を発動し、ミレアス中の魔力を持つもの全ての情報を脳内に入れる。その膨大な量の情報を脳の中で取捨選択し、アグロス魔法魔剣一貫学園や今回の潜入に関して必要な情報を得て、橋の上まで歩いて向かう。

 ここからアグロス魔法魔剣一環学園までの道程は約500m。直線距離だけで言えば400m。目的地までの障害となりうるものは、強いて言うなら巡回している王国兵くらい。でも、走って向かうのなら王国兵には確実に不審者として止められる。だから歩いて向かうしかなかった。



 (……にしても、本当に栄えてるなぁ……)



 魔界に転生してから15年くらいが経ち、魔界の発展レベルがだいたいわかった。その中でもミレアスは中世前期(401〜800年)のヨーロッパの街並みに似通っている部分が多く、懐かしい気分になる。文明開化はしばらくなさそうだ。

 アグロス魔法魔剣一貫学園までの距離が残り100mを切った。魔力探知の効果範囲を狭めて、アグロス魔法魔剣一貫学園に範囲を限定させると、私は魔力遮断の最大火力(レベル7)を発動する。……何故さっきから最大火力(レベル7)なのか? 1番強いからさ。



 (さて、どこから入るか……)



 侵入する手段は色々と考えてある。それに魔力探知をずっと使用していたため、アグロス魔法魔剣一貫学園の校内図もほとんど暗記できた。そのため、直接過去の記録を漁るのも選択肢としてある。

 アグロスでは過去10年の入試記録は保存しなければならないという法律があるため、学園の保存室に入ってしまえばいくらでも過去情報を漁ることができる。



 (無難に行くなら「保存室に直接入る」っていう方法。けど、学園側もそれを察して対策を用意してるはず……)



 『暗雲貫くは(ゲルストローグ)()更なる黒なり。(ダークネス)』は闇属性移動系究極火力(レベル5)魔法である。有効射程範囲半径1kmの影がある部分ならば、1秒かけて移動することができる。移動している最中はどんな魔法も併用不可能(闇属性結界系魔法は除く)で、更に自分に触れているもの(任意)しか移動させることはできない。

 路地裏に入った私は魔力探知で保存室周辺に人が誰もいないことを確認すると、魔力探知を解除して『暗雲貫くは(ゲルストローグ)()更なる黒なり。(ダークネス)』を発動させる。移動する場所は保存室の目の前。



 (移動が完全に終わったタイミングを狙え……)



 どんな魔法も使うことができないことを知っていたため、完全に移動し終わったあとに魔法を一斉に発動させる手はずだ。

 移動する1秒がとても長く感じる。どれだけ穏便に移動できる魔法であろうと、魔法教育機関であるこの学園に侵入することは、刀を持っているからと言って素人が戦場にいきなり現れることと同じようなことだ。故に、これはリスキーな作戦だった。

 心臓の鼓動が徐々に早くなっていく。だが、この緊張感が私を「生きている」と実感させる。この機会を作ったゼウスにはちょっと感謝しないと行けないかもしれない。



 (……来た!!)



 完全に移動し終わった瞬間、身体強化・強と魔力探知(最大火力(レベル7))、魔力遮断(最大火力(レベル7))を発動する。魔力探知の範囲を半径100mにまで制限し、魔力遮断(激極火力(レベル6))を使っている者であっても見通す程の精度を発揮する。

 そんなガチガチの状態で正面にある保存室の扉を見るが、そこには封印魔法がかけられていた。封印魔法独特の正方形の魔法陣があり、普通の魔法とは発生系統が違うため解析が困難だった。だが、私には関係ない。



 (解析か……、めんどくさっ)



 解析魔法は封印魔法を解除するためには必須の魔法である。だが、私は解析魔法が苦手だ。苦手なことを積極的に実戦でする馬鹿はいない。だから私は、得意な方で攻める。

 まず私は、封印魔法の魔法式をコピーし、暗記する。暗記し終わったら後は扉にかかった封印魔法の魔法式を、魔素レベルにまで分解する。魔素レベルにまで分解するということは、封印魔法自体を破壊するということ。正直言って、この方法の方が開けられた痕跡が残らないためありがたい。



 (さてさて、どのくらいが平均点なんだろうか……)



 保存室に入ると、過去10年どころか過去25年ほどの入試情報がズラリと並んでいた。これまでの生徒およそ20万人の情報がひとつひとつ丁寧に保存されており、平均点や中央点も書いてある書類もある。めちゃくちゃ律儀な学園なんだなここ。



 「25年分全部漁ったけど、合格最低点は変わらず合計350点なのね。そして合格者平均点は500点。問題を作るのがうまいのかな……?」



 アグロス魔法魔剣一貫学園の入試問題は「筆記試験3科目&実技試験&魔力適正」の5科目1000点で見られている。各科目200点満点であり、これまで満点者は20万人のうち73名とかなり少ない。今年は出るのかわからないけど、出ない年もあるみたい。



 (今年の入試問題もあるみたいだけど……、見なくてもいいっか)



 今年の入試問題を見るのは何だかズルだと思ったため、私が入った形跡を完全に無くした状態で虚無の空間に入った。私は試験とかにおいて、ズルをするほど腐ってない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 翌日、午前7時17分。私はアグロス魔法魔剣一貫学園の正門前にいた。周囲には親の送迎で試験に向かう者や、「明らかに貴族やん」と言わんばかりの貴族が真ん中を歩いて学園に入ったり、なんなら今年はアグロスの王女が学園に入ったりする。他にも他国の王子や貴族、その他お偉いさんが入っていくのを私は見届ける。



 (魔力値は全員1000位……、1200あればいい方ね。把握完了)



 事前に得れる情報をギリギリまで得ると、私も学園の中へ足を踏み入れた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ