10人目 狂気の使徒・急
ハデス。赤眼銀髪で逆立った髪型の、黒のマントがついた黒の鎧に身を包む2m越えの迫力のあるおっさん。冥府神以外にはとても厳しく当たるが、冥府神には割とフランクに話す仲間に対してはいいやつ。ハデスの出す威圧は神すら平伏させるレベルであり、威圧に耐えたものはこれまで誰一人としていない。また、妻であるペルセポネのことを誰よりも愛しており、危害を加えるようならば弟たちでも容赦なく殺そうとするレベル。
ペルセポネ。黄眼黄緑色の髪でクラウンハーフアップの髪型をしている、ウェディングドレスのような服を着ているπがとてもデカイ女性。ハデスの妻であり、神の中で最も美しいとされる美貌を持つ神である。愛情に満ち満ちた性格をしており、誰に対しても聖母のような対応をするため、横にいるハデスから怖い顔を向けられる。本人は理想の女神なので、ハデスにだけは気をつけよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌々日、パルテノンにて神謀りが開かれた。冥府神以外の全ての神がこのパルテノンに集められ、魔界内で起こっていることについて様々な議論が繰り広げられる。神謀りに前置きなどのくだらない話はなく、早速神が前に出て議題を発表を行ったりする。だが、全ての神が集まってから10分程経っても、誰も神が前に出ようとしない。
(まだか……?)
(早く帰りたいんだが……)
(とっとと始めろよ……)
(何がしてぇんだよこいつら……。なんのために集めたんだよあのジジイ……)
様々な神が不満を心の内に募らせていく。徐々にパルテノン内の空気は悪くなっていき、居心地が悪くなってきたのか、帰ろうとする神まで現れた。そんな中、ゼウスはそこから動かさんとばかりに威圧を放ち、神達をその場で座らせていた。
そんな神達がいる議論室、通称『リディング』の超巨大な扉の前に、私とハデスはいた。ハデスは昨日、作戦を伝えても中々了承しようとしなかった。まあ、めちゃくちゃ拒否したハデスを無理矢理連れてきたわけだ。
「……本当にやるのか?」
乗り気じゃないハデスに、私は諭す。
「まあ、大丈夫でしょ。ゼウスには話通してるし。それに私、神殺しの末裔だから」
「神殺しの末裔……。カグツチか……」
「カグツチ……?」
カグツチ。私の知っている神であるならば、生まれた時の炎でイザナミを殺し、その恨みからスサノオに殺された不運な神という印象がある。それについてハデスが言及するのであれば、面識がある……?
「カグツチってのは……?」
「ああ。カグツチはイザナミを殺しかけた神だ。神を殺す炎を体から常時発しているから、『神殺しの神』って言われてる神だ」
「神を殺す炎ねぇ……」
ミストルテインの元となった神術だろうか。もし、それをヘカテーがパクったのなら中々に頭おかしいけど、まあそれは私が言えたことじゃないか。
「まあ、入ろう」
「あ、ああ……」
未だに乗り気ではないハデスを無理矢理連れて、リディングの中に入った。リディングの超巨大な扉を蹴り飛ばして入ったため、扉が壊れる爆音が静寂に包まれているリディングの中に響き渡った。神達の視線を一点に浴びる私は、左手でハデスの鎧を掴んで引きずりながら前に出る。
「じゃ、話を始めまーす」
私はハデスから手を離し、両手を机に叩きつけて威圧をかける。10年前に現れた時とは威圧の質が変わっていることにほとんどの神が気づき、自分達の手には負えない状況になっていることに危機感を覚えながら、息を飲んで話を聞く体制に入る。
「なんでさ、神謀りに冥府神を参加させないの?」
私は下を指しながら言う。私の言動を見た瞬間、ほとんどの神は「は?」と言う。そうなる気持ちは私もわかる。世界をめちゃくちゃにした原因の神達をこの場に呼び戻すなど言語道断ではないかと。
「冥府神達が神謀りに参加できない理由はわかる。原因も知ってる。こいつらの罪がどれだけ重いものなのか私はわからん。わかりたくない。知るかそんなもん」
『けどさ、もうそろそろ良くない?』
「永遠に参加できないとかさ、冥府神しか持ってない情報はあんた達には開示されないわけじゃん。それを前提として話を進めるのは頭悪くない?」
「それに、あんた達はただただ冥府神達を神の中でも自分達より立場を下にして、優越感に浸ってるだけじゃないの?」
「それはあんた達が嫌ってる迫害と同じだよ」
わかりやすい発音でマシンガントークをする私に、図星をつかれたような表情をして反論できずにいた神が大量にいた。
「そんな状況を見て流石に私もおかしいと思った。だから、ハデスを連れてきた」
再びハデスの鎧を掴んで上へ放り投げる私を見て、神達は驚愕した。ゼウス、オーディン、ハデスは神の中でも特に戦闘能力が高く、「三戦神」と呼ばれている。そんなハデスを無理矢理連れてくる程の実力があると思われたのか、神達は平伏していた。
「自分の力を誇示するのはそこまでにしておけ。傲慢にも程がある」
ゼウスは500mほど離れたところから言う。目を凝らしてゼウスを見ると、めちゃくちゃ呆れて「何も言うことがない」という感じである。とりあえずゼウスは後でフルボッコにするとして、目的を優先するか。
「ゼウスのことはどうでもいいとして、冥府神はこれから神謀りに参加できる?」
すると、ほとんどの神が顔を頷かして了承した。唯一反対したとすれば、ゼフュロスくらいだ。
「ゼフュロス。なんで頷かないの?」
「お前への嫌がらせ」
「後でぶっ殺す」
そんな茶番をしていると、ゼウスはある提案をした。
「次は私が議題を出す」
神達はゼウスが議題を出したことに前のめりになり、「お!?」と言わんばかりに話を聞く体制に入る。
「リーレ。ちょっと来い」
言われたように私はゼウスの元へ歩く。ゼウスの元へ着くと、ゼウスは私の頭に手を置いて言う。
「こいつはこれでも、前に言っていた『神の使者』だ。素行が悪いどころで済む話ではないが、一応こいつの業績は使者の段階を超えて使徒の段階にまで到達している。だから、リーレの称号は『神の使徒』となるわけだが、そんなものでは絶対に満足しない。だろう?」
「当たり前でしょ。クッソダサい」
ゼウスは知ったような口で話す。まあ、わかられてるんだけど。
「これより! リーレの新たな称号を決める!!」
ゼウスは急遽、私の新たな称号をこの場で決めると言い出した。時間の無駄だから反対しようとしたが、神たちが一斉に賛成しだしたため収拾がつかなく、勢いに押されて開催されてしまった。ちなみにハデスはめちゃくちゃノリノリだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
30分が経っても、中々称号が決まる気配はなかった。ゼウス自身は全く考えようとはしなく、他人任せの姿勢を貫き通していた。お前が提案したんだからちょっとは案出せよ。
「戦姫!!」
「却下」
オーディンの案、却下。
「キチガイ」
「却下」
ハデスの案、却下。後で殺す。
「単純に馬鹿」
「却下」
クロノスの案、却下。絶対に殺す。今すぐにでも殺してやろうか。
「戦闘狂」
「却下」
ポセイドンの案、却下。
「在庫削り」
「却下」
ヘファイストスの案、却下。
「破壊しか脳のないアホ」
「却下」
シヴァの案、却下。破壊の神が言うセリフじゃねぇ。
「狂気の使徒」
「却……、……採用で」
これいいじゃん。と思ったらこれゼフュロスの意見だった。とりあえず、案が鳴り響いていたリディングが静まり返った。すると、ゼウスが誰も次を言わないことを確認すると「採用」と全員に伝えた。こうして、私の称号は『神の使者』から『狂気の使徒』になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少し時は流れて3月13日、私はゼウスに呼ばれていた。
「アグロス魔法魔剣一貫学園に入学するという話だったが、正式に依頼内容を伝える」
「お、やっと話してくれるのね」
ゼウスは畏まった態度で話を始める。
「その学園には魔王の子孫、そして勇者の子孫が入学する予定になっている。まあ、推薦入学っていうやつだな。その2人をなんとしても暗殺しろ」
「暗殺ね、了解。で、期間は?」
「3ヶ月だ。それ以上の延長は自分の首を絞めることになる」
「わかった。任せといて」
私は生命界への扉を開き、生命界へ帰った。
この時、私は知らなかった。ここから激動の時代が始まることを。