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七話 宙の独白(宙side)

「待って、待って宙くん。どういうこと?」

「すみません。少しだけ、休みたいんです」

 会議室を借りて、マネージャーの中野さんに僕は仕事の相談をしていた。突然のことに、彼はとても困惑していて、申し訳ない気持ちになる。

「ごめんね。俺、仕事詰め込みすぎたかな……それなら、調整はするけど……」

「いえ! そういう訳じゃないんですが……レギュラー以外は、しばらく受けないでほしいんです」

「……どうして? 何かあったの?」

 そう問いかけられて、頭にジャスティナ社長が浮かんだ。


 加藤ジャスティナ。僕の中で彼女は、無責任な社長というイメージだった。正直、それほど気にしたこともない存在である。彼女がいなくなっても、新たな社長がやってきて、会社は問題なく回っていくだろう。

 だけど、以前、高槻さんに会いに来ていたジャスティナ社長を偶然見かけた日から、その印象はガラリと変わった。

 僕は、中野さんに仕事の話があり階段で移動をしていたところだったのだが……MaTsurikaの悪口を言うマネージャーさんたちに、社長が毅然と対応するのを見かけたのだ。僕は、それが凄く衝撃的だった。もっと彼女を知ってみたくなって、用もないのに慌てて同じエレベーターに駆け込んだほど。

 彼女があそこまで、僕たちアイドルについて真剣に考えているとは思っていなかったのだ。それから彼女のことばかりが頭に浮かんで、自分についても深く考えるようになった。

 僕は、自分がどうしてアイドルをやっているのか分かっていない節がある。子役から始まり、アイドルをやってみて、売れたから続けているだけ。嫌だとは思わないし、ファンのことは好きだけど、信念があるかと言われれば微妙だった。だからこそ、僕にとって熱い想いを持つMaTsurikaはとても眩しい存在で、MaTsurikaに憧れている。でもあの日、初めてMaTsurikaを結成させたジャスティナ社長に意識が動いた。そうしたら、僕は社長に守ってもらえるだけのアイドルなのだろうかと、疑問に思った。

 考えることは、他にも山ほどあるというのに……これまでの自分の生き方を、今更ながら考え直し始めたのである。だから、一度仕事をセーブしたかった。

 ……でも、そんなことを中野さんに言えるわけがない。中野さんは、あの日社長に怒られていた一人でもあるし。

「……色々と、今後についてゆっくり考えたいんです」

「……本当にそれだけ?」

 それだけ、と言われると痛いが、実際その通りなので素直に頷く。

「うーん、とりあえず、社長に相談してくれるかな。宙くんはId∞lの主力だから、俺だけじゃ判断出来ないというか……」

「……はい。分かりました。今、いらっしゃいますかね?」

「うん、社長室にね。最近はずっといらっしゃるよ。何してるんだろうね〜」

 中野さんにお礼を言って、会議室を出た。

 社長は、僕の相談を受けて、なんと答えるだろう。仕事をセーブしたいのは自分の意思だが、社長を試すようなことになり、どうしたって鼓動が早まる。僕は、彼女のことが分からないから。

 

 彼女が何を思い、社長になったのか。

 何を考えて、MaTsurikaを結成したのか。

 何を悩んで……未来、社長を辞めることになるのか。


「(あなたを知れば、僕は、僕を生きることができるような気がする)」


 はやる気持ちで、社長室のドアをノックした。

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