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十八話 緑の想いと似た二人(緑side)

 ジャスティナさんと出会ったのは、四年前。彼女が二〇歳の時だった。Id∞lへと入社した会長の娘に、社員が皆どう接していいのか分からず、重苦しい空気が流れたことをよく覚えている。

 しかし、彼女はとても真面目で素直だった。新卒で学生ノリが抜けないまま入社してきた人の方が、余程厄介だと思うほどに。叶うことならマネジメント課で共に働き続けたかったが、彼女の父親は彼女をId∞lの社長にするため送り込んでいたらしく、共に働けたのはたった一年だけだった。平社員からジャスティナさんが突然社長への大出世をすると噂を耳にしたときは「やはり住む世界が違うんだな」と思ったりもしたが、二人で飲みに言った際、彼女が彼女なりに自分の立場を苦しく思っていることを知った。

 だから、できるだけ彼女が社長就任後に困らないように、苦しまないように……と、熱心に仕事を教えたものである。マネージャーと社長じゃ随分と仕事が違ったとは思うが、彼女がMaTsurikaを生き生きと育てているのを見て、俺がやってきたことは役に立ったのだと嬉しかった。

 ご令嬢に対してこんなことを思うのも烏滸がましいが、彼女は年の離れた妹のように見える。まだ大人になったばかりで懸命に背伸びをする可愛い子。部下の分際で、ついつい守ってあげたい、なんて思っていた。

「僕とジャスティナさんと、二人で……」

 だからだろう。突然アイドルを辞めると言い出した挙動のおかしい宙くんを、彼女と二人きりにしたくないと思った。結果として、勢いで混ざったことは大正解。宙くんは愛の告白を始め、ジャスティナさんは突然の出来事にあわあわしていたのだった。


 とりあえず話がまとまり、ようやく宙くんが帰ることに。一緒に外へ出た流れで、俺が宙くんをId∞lまで車で送ってあげることになった。ジャスティナさんを惑わせたとはいえ、世間で話題の彼を放置するほど俺は鬼じゃない。車に乗るまでほとんど会話はなく、宙くんは小さくお礼を言いながら助手席に座った。

 車を走らせていると、色々なことが頭をよぎる。なんと話しかけていいか分からないまま、黙って運転していると、宙くんの方から声をかけてきた。

「高槻さんは、ずるいですよね」

「……はっ? な、なに急に」

「だって……ジャスティナさんが療養中も、定期的に会えてたみたいですし」

「それは……って、え、待って。宙くんやっぱり病気のこと知ってたの? どうやって気づいたの?」

 彼と再会してから、病気のことは明かしていない。戻ってきた経緯すら説明していないのだから、彼は元々ジャスティナさんの病気を知っていたことになる。情報が漏れていたのなら大問題だが、病気について知っている人間は極わずかで、その線も薄いだろう。実際、週刊誌にも載っていなかった。

「ふふ、秘密です。でもあの頃は、ただの好奇心でした。こんなに好きになるなんて思ってもなかった」

「色々と、書きたいことは山積みだけど……。でもそうかぁ。どんな綺麗な女優さんやアイドルに言い寄られても、靡かなかった宙くんがねぇ……」

「? ジャスティナさんは、誰より綺麗じゃありません?」

「うわ、なんか宙くんにそういう話されるの、むず痒いな……」

 宙くんのマネージャーをしていた期間、彼があまりにも恋愛に興味を持たない完璧アイドルすぎて、少し不気味に思ったことがある。それが今は、興味を全て恋愛感情に持っていかれているのだ。なんだか、宙くんとそういった俗っぽい話をするのは慣れない。

「僕、知ってるんですよ? 高槻さんは、本気で恋愛していれば、案外認めてくれる人なんだって」

「宙くん、僕をそういうタイプに仕立てあげようとしないの」

「だって……本当のことですよ……」

 宙くんの返事は、どこか切なげだ。それまでの跳ねるような声色が突然落ちて、心配になる。

「……あ〜、そういう噂を、聞いたとか?」

「見たんです、この目で」

 見た。とは。確かに、交際しているアイドルを見逃したことは何度かあった。でも、表立って「付き合っていいですよ」と許可した訳でもない。黙認しているだけなのに……一体彼は何を見たんだろう。

「それから、凄く良いマネージャーさんだったんだなって、思ったりして……」

「え、待って、過去形?」

「あはは。今も良いマネージャーさんだと思ってますよ」

 車の中に、宙くんの笑い声が響く。先程までの、暗い声は元に戻って安心したが……彼がジャスティナさんを好きになったきっかけは、俺が思っているよりも重いものなのかもしれないと思った。



 数日後、NEXTプロダクション内のテレビをジャスティナさんと眺める。ニュースでは、宙くんの俳優転向が決定したというアナウンサーの声が流れていた。

 Id∞lは割と頭が固い事務所といった印象があったが、宙くんを手放すことは、俳優専門所属を許すことよりも痛手だったのだろう。とはいえ、あの事務所を説得した宙くんの努力も計り知れない。今更だが、宙くんのジャスティナさんへの本気度を思い知らされたような気がした。

「ジャスティナさん、これからの宙くんのアタックに警戒しないとですね」

 仕事のキリが良くなるまでは、まだアイドルを続けるのだろうが……それが終われば彼は俳優としてジャスティナさんにアピールしていくのだろう。宙くんが悪い子だとは思わないが、ジャスティナさんが宙くんを恋愛対象としてみていない事くらいは分かる。ジャスティナさんの負担にならない程度に、宙くんには距離を置いてもらわないとな……と考えて、ジャスティナさんに声を掛けた。しかし、彼女からの返事はない。腕を組み、難しい顔で俯いている。

「……ジャスティナさん?」

「! あ、は、はい。ごめんなさい」

「大丈夫ですか? 本気で宙くんが嫌なら、僕が何とかしますが……」

「え! いえいえ、そういうわけでは。宙くんの本気度は、恐れ多くも伝わってきてるので、適当に流すつもりは無いんです……でも……何が起きるか分からないのが、不安で……」

 人気アイドルから告白されてしまったのだから、その反応は何も違和感がないはずだ。

 なのに、それなのに……数日前、宙くんが車で見せた陰りと似たものを感じて、胸がざわつくのだった。

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