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十三話 早すぎる再会

 十五時を過ぎたころ、緑さんと合流した私たちは三人で個室スペースのあるカフェに入る。直前まで緑さんが来ることを不満げだった宙くんだが、いざ彼がやって来ると明るい表情で笑っていた。ジャスティナが消えると同時期に緑さんもNEXTプロダクションへと移籍をしていたから、久々に会えて嬉しかったのだろう。

 テーブルに案内されて、私と宙くんはチーズケーキとアイスティ、緑さんはコーヒーを注文した。店員さんが立ち去り、初めに口を開いたのは宙くんだった。

「そういえばMaTsurikaのツアーは中盤ですけど、ジャスティナさんは今日のコンサートが一回目ですか?」

 もしかしたら、宙くんに色々とこの一年について質問されるかもしれない、と少し緊張していたのだが、MaTsurikaの名前が出てホッとする。その話題なら、ひたすらコンサートの感想を語り合って時間を潰せそうだ。

「はい、初コンサートです。最高でした!」

「セトリが良かったですよね〜。あれってMaTsurikaメンバーが考えたセトリなんですか?」

 宙くんの視線が緑さんに移る。こくりと頷きが返ってきた。

「基本的にはそうですね。プロデューサーの松田が最終的には調整してましたけど」

 松田桃菜――マツショクのヒロイン名に肩を揺らす。社長を辞任する前、NEXTプロダクションに彼女を採用するよう口添えしたのは私だった。ゲーム通りに彼女が面接を受けに来ることは分かりきっていたから、Id∞lのアイドルを譲る対価として松田桃菜を採用するようにと伝えたのである。とはいえ、彼女とこの世界で直接会ったことはない。プロデューサーとして頑張っている彼女は、当然テレビになんて出てこないし、彼女に対する知識といえばマツショク内で見た姿だけである。だから、いざ実在する人物として話題に登場されると、妙に変な心地がした。

「でも、松田もまだまだ未熟ですよ、MaTsurikaに振り回されっぱなしで。ジャスティナさんの統率力が懐かしくなる時があります」

「私もそんなに威厳あるタイプではありませんでしたが……」

 緑さんの言葉に苦笑いが零れる。前世でのジャスティナのイメージは、確かに貫禄のある社長だったが、実際はお酒が飲めるようになってまだ数年しか経っていない若造だ。紅夜さんなんて、私にタメ口であったくらいだし。

「MaTsurikaメンバーは各々ジャスティナさんに恩があるようでしたから、付き従っていたのかもしれませんね。今のMaTsurikaを見たら暴れん坊すぎてびっくりしますよ」

「そんなに違うんですか?」

 確かに、マツショクで見たMaTsurikaのイメージは、私が育てていた頃と少し違うかもしれない。なんというか、移籍してからの彼らの方が、少しやさぐれているというか……。マツショク自体が全体的にコミカルな展開であるし、分かりやすく裏切られた悲しみを表現していたのかも。

 一年前の感情が蘇り申し訳ない気持ちになっていると、宙くんが拗ねたような声を出した。

「でも、僕はMaTsurikaが羨ましいです!僕もMaTsurikaに入ってみたかったな〜って思うんですよ」

「宙くんがMaTsurikaに?」

 考えたこともない話に目を瞬かせる。

「はい。ジャスティナさんに一目置いてもらえるなら、無理にでも加入すべきだったかなぁ〜……何回か、考えはしたんですけど」

「はは……何回か考えてたんですか? 宙くんの私崇拝が一体どうして生まれたのか謎ですが……宙くんがMaTsurikaに入らずとも、私は宙くんに一目置いてますよ」

 それに、MaTsurikaはあの四人だから良い。みたいなところがある。

 もちろん、宙くんのカリスマは圧倒的だし、彼がMaTsurikaに入っても問題はないくらいだが……未熟な四人が得意分野で互いをカバーし実力以上の力を発揮していくのがMaTsurikaのアツいところだ。メンバーカラーも、メンバーの虹彩をイメージした青、紫、オレンジ、赤であるし、宙くんが入れば水色の追加で寒色が強くなってしまうだろう。

「あぁでも、MaTsurikaに新しく入るならきっと高槻さんですよね」

「ぶっ……! そ、宙くん、何を言ってるの」

 私たちの話を聞きながら水を飲んでいた緑さんが、危うく吹き出しそうになった。

「緑さんが、MaTsurikaの新メンバー……?」

「はい。だって、瞳も緑色ですし、カッコイイですし」 

「ちょっと宙くん……僕の年齢知ってていじってるでしょ」

「アイドルに年齢の上限はありませんよ。ねぇ、ジャスティナさん?」

「緑さんが、MaTsurikaの新メンバー……」

「ちょっと! 真剣に考えないでください!」

 想像しただけで最高すぎる、アイドル衣装を身に纏う高槻緑。前世でおそらく二次創作も溢れていたであろうが、残念ながらそこの記憶がない。元最推しであるし、一度見てみたいという欲が湧き上がってくる。

「……あ、緑さんと宙くんで新生ユニットなんてどうですか!?」

「ジャスティナさん、聞いてました? 真剣に考えないでくださいと……」

「あぁ、いいですね。緑色と水色なら自然を感じられて爽やかですし」

「ですよね! さすが宙くん、分かってる!」

 久々のアイドルプロデュース話が何だか楽しくて、会話が弾む。途中でケーキと飲み物を届けに来た店員さんがあまりの盛り上がりっぷりに若干引いた顔を見せていた。緑さんも、途中からもう止められないと思ったのか、静かにこちらを眺めていたのだった。



「はぁ、楽しかった」

「えぇ本当、楽しそうでしたね」

 私の独り言に、緑さんから恨めしそうにそう返される。あの後、明日の仕事が早いと言う宙くんと別れ、私は緑さんと二人で都内を歩いていた。元々夜ご飯を一緒に食べる予定だったので、予約の時間になるまで適当に二人で時間を潰すことになる。とりあえず、手頃なベンチに腰掛けた。

「……でも意外でした。宙くん、結局何も聞いてきませんでしたね。ジャスティナさんが社長を辞任した理由とか、もっと問い詰められると思っていたので」

「あぁ、そういえばそうですね……」

 思えば、再会した瞬間から、宙くんは私に程よく無関心だった。約一年半ぶりともなれば、気になることはたくさんあるはずなのに。

「気を、使ってくれたんですかね……?」

「……ですかね。実は社長が辞任した直後、僕がまだId∞lに残っていた時に、宙くんがしつこくあなたについて尋ねてきたことがありまして」

「そうなんですか?」

 今日はそんな様子全くなかったので、意外である。思わず宙くんと別れた方向に目をやった。

「もちろん、社員の多くが気にしている様子でしたし、色んな人に何があったのか聞かれました。でも、宙くんだけは少し違ったというか……」

「違う?」

「社長は無事ですか、どこに居ますか、って……とにかくあなたの身を案じていました。ちょっと怖いくらいに」

 これまでの彼の様子を思い浮かべる。宙くんは、私が社長になる前から事務所に居て、当然ゼロではないが、私との関わりはそれほど無かった。ただの、いち社長と、いちアイドルの関係で。だけど、私が辞任する直前から、彼は途端に距離を詰めてきていたように思う。

 あの頃は、宙くんが今後について悩んでいると言っていたし、私自身も自分のことでいっぱいいっぱいだったから、あまり深く考えていなかったが……

「もしかして、宙くんって、私の病気のこと知ってたんじゃないでしょうか」

「MaTsurikaメンバーにさえ隠し通せていたのにですか?」

「偶然私を病院で見かけた、とか……?」

 病気のことを知っていたなら、無事ですか、の意味もまだ分かる。突然姿を消した社長が死んだと思ったのかもしれない。でもそうだとしたら、今日再会した時に、もっと驚いていたって良いはずなのに。私のファンのような言動を取ることも、久々にレアな人物と再会して舞い上がっているせいだと納得させていたが……実はもっと違う理由があるのだろうか。

 

「――病気って、何の話だ」

 

 背後で、聞き慣れた声が小さく響く。深い思考にハマっていた緑さんと私は、突然飛び込んできた声に、同時に振り返った。するとそこには声の人物だけではなく、帽子やマスクを身につけた、三人の青年が立ちすくんでいる。

「……蒼?」

 名前を呼べば、最も近い距離にいた青年の瞳が大きく揺れた。

「お前たち……どうしてここに?」

 緑さんが呼んだのかとも思ったが、どうやら何も知らないようである。

 MaTsurikaとジャスティナの、一年半ぶりの邂逅であった。

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