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架空ヴィジュアル  作者: 安達粒紫
13/14

幻覚




―――いつか翁は胃が半分しかないと書いたはずである―――


―――それは早期に発見された胃癌によったためなのであるが、念のため言っておくと、翁はもうその時にはアニメが趣味であった。―――こういうのは去年の出来事である―――



―――翁は無事に成功した手術の術後、切った胃が痛かった。半分になった胃が痛む。それはなかなか耐え難いものだった。そういう調子を翁は看護師へ訴えた。―――


―――看護師が用意し打った鎮痛剤…それはソセゴンという名の一種の麻薬に違いなかった。―――


―――その看護師の独断で与えた…繰り返しになるが一種の麻薬…それは後日院内で問題になり、病院は公にしたくない様子が垣間見えた。つまりその薬がどういう事になるかと言えば、幻覚が観えるのである。―――


――――当時、術後に、その麻薬を与えられた直後の翁は、段々と姿を現しだした幻覚に驚いていた(なんだ、これは…)率直な感想だった。勿論、翁は幻覚作用の事など知らない。

彼のお腹には、当然医療用ホッチキスで傷口を開かないように、その針が連なっていた。幻覚の量に比例してホッチキスの針の周辺の痛みは引いていった。――――


――――そのうち幻は、天井に『こどものじかん』の、九重りん、を一面に映し出したりした。

そのまた九重りんの顔は百面相をしていた。

そして段々と、もう一度言えば、天井の一部が出っ張ってきたと思うが早いが、それは『エヴァ初号機』の頭に変形し、翁を睨みつけるように顔を向けてきたりもした。

(まて、まて識閾下の自分というのはどうなっているのだ…)当然の反応かも知れなかった。―――


――――また、怖くて眼をつぶれば、瞼の裏には、『君に届け』の爽子と風早が淫靡なことをしたり、『バカとテストと召喚獣』の秀吉と明久が男色を弄んでいたりもしたし、さらには『すのはら荘の管理人さん』の彩花と亜樹がおねショタにいそしみ、『はるかなレシーブ』の遥とかなたが貝合わせを……――――


―――翁は眼を開けたり閉じたりして交互に幻覚に溺れた。それは精神的痛苦の無いはずはなかった。(逃げたい!!)(眠ることもできないじゃないか!)――――


―――生憎、病院の上述の様な態度により、家族にさえも面会はできないとのおふれこみが発せられていた。故に―――彼は一人でこの無間地獄と闘わなければならなかった。これはあきらかに南無三宝―――戸張翁は、【毒舌的精神】の旺盛だったため、〈少なくとも良かれと思って〉薬を打った看護師に満腔の呪詛を発していた。―――因果応報という言葉をまだ信じていなかったために―――



――――それから彼は3日半ばかり苦しんだのち、さらに3日ほど経過観察のため栄養補給の点滴を体内に流し、病院側の過失のため丁重に扱われながら過ごした。――――「その…私によく解らぬ薬を打った看護師はどうしてるかね?」と、翁は、気まぐれに訊いてみた。

そこにいた、とある看護師は「さあ、我々一同はそのことに関しては何も言えぬことになっておりまして。」と、あっけらかんとした印象のある返事を戸張によこしてきた。――――



―――院内の鎮痛剤騒動から暫くたった朝、翁は目を覚ますと〈午前10時くらいだった〉まわりには、親族一同が集まっていた。皆一様に「どうなる事かと思った」「安心した」「まだまだ元気でいて欲しい」という、ありきたりだが、心のこもった言葉を発した。(私みたいなのでも、こんな風に言ってもらえるとは。)彼は新鮮な驚きを感じていた。翁は手術が成功して本当に良かったと、【何も考えずに】今更ながら実感した。――――




――――退院したのち(あれだな、あの看護師がどうなったか私には知る由もないが、幻覚を観る、という稀有な体験をさせてくれた、という点では、今になってみると感謝の念が湧く。霊感などには縁のない私にはあれが、最初で最後の神秘体験だろう。…)と胃を半分にした男は思っていた。―――







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