伯父と謁見
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本日投稿二話です。ご注意下さい。
「来たか、ロレッタ」
メイドの助けを借り手早く身形を整え応接室に向かうと、伯父が正面に座っていた。その隣に父が、入り口に近い反対側のソファに兄が座っていた。
「お待たせして申し訳ありません。お久しぶりです、デュラン伯父様」
「直接顔を合わせるのは久しぶりだな。そんなに堅くならなくて大丈夫だから、ロレッタも座りなさい」
優雅に、とはいかないが精一杯のカーテシーをする私に伯父が手招きする。空いている兄の隣に座るか、一人掛けに座るか迷って、結局兄の隣に腰を下ろした。
父の兄であり、父の生家であるシェスタ侯爵家を継いだデュラン伯父は、王城付き魔術師団で『ベガ』の称号を持つ特級魔術師で、師団のナンバーツーだ。
どちらかというと男性としては華奢なロレッタの父や兄と違い、背が高く鍛えられた身体はがっしりとした筋肉で覆われている。性別に関係無く長髪が基本の魔術師にしては珍しく、焦げ茶色の髪を短く刈り込んでいるので、一見すると魔法師よりも騎士に見える。
「調査は順調ですか」
「嗚呼……あの女の背後関係についてはまだ不明瞭で洗っている最中だが、魔法具の方はほぼ完全に解析が終わった」
数日ぶりに会う伯父の声は明るいものの、顔には隠しきれない疲れが滲んでいる。
それもその筈、王族を巻き込んだ男爵令嬢による今回の事件の調査は伯父が中心となって行っている。
それというのも、被害者とみられる令息の一人、ルイス様は魔術師団のトップ、筆頭王城付き特級魔術師セイン・マクレガン公爵の息子だからだ。
本来であれば、これ程多くの高位の令息達を巻き込んだ大事件であれば、魔術師として右に出る者がいないマクレガン公爵が担当すべき案件だが、身内が深く関わっているとなれば流石に調査に関わらせる訳にはいかず、結果、師団の次席である伯父に調査責任者の役割が回ってきたのだ。
「ロレッタにも思うところは色々あるだろうが……まずは調査責任者として、御礼を言いたい。気付いてくれて、直ぐに俺に相談してくれて有り難う。あのまま誰も気が付かないままだったら……恐ろしいことになっていただろう」
突然神妙な表情で頭を下げられ、私は狼狽した。
「伯父様、頭を上げてください!わたくしなどに頭を下げてはいけませんわ」
「まぁケジメって奴だ。感謝しているのは俺だけじゃないからな?」
顔を上げて、がははと笑った伯父はロレッタの知る気のいい伯父の顔に戻っていた。
そう、何を隠そう、件の男爵令嬢のネックレスが魔法具では無いか、と気付き、伯父を通して魔術師団に正式な調査を進言したのは私だ。身内に魔法具狂いの変人と揶揄されていた私の趣味が、思わぬ所で役に立ったのである。
「それでな、実は陛下がロレッタに直接礼を言いたいと仰ってる」
「ええっ!」
「なんと!」
「え!?」
伯父の言葉に、私と父、兄は揃って驚きの言葉を漏らす。
陛下を間近で見たのは、一年前のデビュタントボールが最初で最後だ。伯爵位以上の貴族とは違い、ロレッタの家のような子爵家以下、下位貴族は、基本的に王族、それも国王陛下ともなれば直接関わる機会など一生に一度あるか無いかだ。
ひっそりと無難に生きていければそれでいいと思っているのに、国王陛下との謁見なんて冗談ではない。特に、今回の件に関しては、正直忘れたいことばかりなのに……。
「そんな、恐れ多いのでお気持ちだけで……」
「悪いな、ロレッタ。これは決定だ。二日後俺と一緒に登城してもらう。安心しろ、本当に感謝を伝えたいだけだと思うぞ?当事者たちを集めての説明の場は改めてまた設けるつもりみたいだからな」
伯父は明るく言うが、本当に感謝しているなら放っておいてほしい。知らず渋い表情になってしまう。
「そのぅ、お父様かお兄様に代理をお願いすることは……」
途端、正面の父と隣の兄からやめろよ、という視線が突き刺さる。
うう、いいじゃないの、それくらい代わってくれたって……。弱小子爵家の令嬢には荷が重いのよ!
「それは無理だな。ま、そう気負う必要はねぇから大丈夫だ。ただ、登城だと正装になるからな。ドレスやなんかは平気そうか?」
「ええっと……いつも着ているようなドレスでは駄目ですか……?」
我が家は貧乏という程ではないが、それ程裕福な訳でもない。私はお金があるならドレスや装飾品より魔法具に使いたいタイプなので、自分から積極的にそれらを強請ることもなく、結果クローゼットは貴族にしては地味すぎるシンプルなドレスと、それ以外はマーカスから贈られた微妙に私には似合わないドレスしかない。
「んー……それについては俺はよくわかんねぇから、明日メイサを寄越すよ。いいか?」
メイサというのは伯父の奥方だ。親戚ではあるものの、侯爵夫人ともなると畏れ多くあまり会話を交わしたことはない。
しかし相談に乗ってもらえるなら有り難い。素直に好意に甘えることにする。
「で、だな。謁見の後で良いんだが、実はロレッタに会いたいと言っている奴がもう一人いてな」
「えぇ……」
あからさまに顔を顰めた私を、伯父様が笑う。
「ははっ、面倒だって顔に書いてあるぞ。大丈夫だ、俺の部下なんだが別に悪い奴じゃない。例の魔法具のことで、お前に訊きたいことがあるんだと。悪いが、ついでにちょっと付き合ってやってくれ」
伯父様の部下ということは、その人も魔術師ということだ。魔法具いじりが趣味とは言え、はっきり言ってしがない子爵令嬢の私が、雲の上の存在の王城付き魔術師の方の役に立てるとも思わないが、ひとまず「はぁ……わたくしで分かることならお答えしますが……」と、曖昧な返事を返すに留める。
その後は別室にいた母も交えて夕食を摂った後、伯父は子爵家を後にした。侯爵家のタウンハウスに帰るのかと思ったら、再び王宮に戻って仕事をするのだという。ブラックのかほり……!
去り際、思わず馬車に乗り込む伯父の背中に声を掛けていた。
「あの!」
「ん?」
「その、マーカスの……様子は、どうですか」
私がマーカスに会ったのは伯父に調査を依頼する前日が最後だが、今回の件の調査責任者である伯父は毎日とは言わなくても、それのりの頻度で彼に会っている筈だ。
「ああ……アイツなー。うん、まぁ……今はもう正常な状態に戻っている。アイツもロレッタのことは気にしていたぞ。一応まだ王宮に留めているから、会いたいなら明後日登城した際に話せるようセッティングしておくが――」
「いえ、結構です!――あ……」
無作法にも反射的に遮るように言ってしまった私に、伯父は優しく諭す。
「ロレッタ、無理にマーカスに会えとは言わない。時間が必要だというならそれでもいい。だが……一度きちんと話した方がいいと思うぞ。このまま結婚するつもりなら余計に」
「はい……」
分かっている。伯父が心配して言ってくれていることも、それが正しいことも。
けれど、今の私にはまだ、マーカスと顔を合わせる勇気が無かった。
******
約束の二日後――私は予定通り、迎えに来た伯父と共に王城へ向かう馬車に乗っていた。
魔術師の中でも、伯父のような称号付きの特級魔術師ともなれば転移魔法も使えるが、そうそう連発出来るものでも無いらしく、魔術師といえども普段の移動は基本的に馬車や徒歩で私たちと変わらないそうだ。
噂でしか見聞きしたことの無い転移魔法のご相伴に与れるかと密かに期待していた私は内心でちょっぴりガッカリしたのだった。
「ロレッタ、見違えたなぁ~」
登城のため、いつになくめかし込んだ私を見た伯父の第一声はそれだった。
正直、自分でもそう思う。馬子にも衣装というか……メイサ様のプロデュース品を身に着け、普段はしない化粧を施した鏡に映る自分の姿は、自分で見ても普段とは別人のようだ。
昨日伯父に頼まれ我が家のタウンハウスにやって来たメイサ様は「とりあえずクローゼットを見せてもらうわ」と意気揚々と部屋に向かったのはいいものの、数分後にはすっかりクローゼットの前で意気消沈していた。
「これ……グレーやらベージュやら地味な色ばっかり。まるで未亡人だけれど、もしかしてロレッタちゃんの好み?」
「え、ええ、まぁ、好みというか……とにかくシンプルで多少汚れても目立たないものを基準にしていたらこうなりました」
ドレスを選ぶ時は基本、風景に溶け込めるかどうかを基準に選んでいる。
しかしながらメイサ様の目を細めた表情から察するに……私のファッションセンスは壊滅的らしい。侯爵夫人として社交界を牽引するメイサ様にはっきり難を示されると、いくらファッションにそれほど興味のない私と言えども危機感を覚える。
「あら、この一角はまたちょっと違う感じね。ドレス自体は悪くなさそうだけれど……」
そう言って手に取ったドレスを私に当ててみたメイサ様は眉を下げてしまった。"似合わない"と顔に書いてある。
「……この明らかに他とテイストも仕立ても違うドレスたちは、貰い物かしら」
「はい。全部婚約者から贈られたものです」
一度マーカスに御礼も兼ねて着用したのを見せた後は殆ど袖を通すことが無いので、マーカスから贈られたドレスは一カ所に纏めて保存してある。
「そう、デングラー男爵令息がね……」
悩ましげに呟いたメイサ様が手にしているのは、薔薇の刺繍が施されたイエローのドレスだ。トップスには最近流行りのガラスビーズがいくつも縫いつけられており、ドレス自体は華やかで可愛らしいデザインだ。しかし、いざ私が着てみるといまいち私に似合わない色味とデザインで、一度袖を通したきり着ていない。
マーカスから贈られるドレスや装飾品は物自体は良いものの、どうも私の雰囲気や髪色に似合わない物が多い気がしていたが、メイサ様の反応を見るに気のせいでは無かったようだ。
興味がない婚約者への義理で贈るプレゼントなど、そんなものなのだろうとは思っていたが、いざ他人からそれを突き付けられると辛いものがある。
結局、手持ちのドレスは全てメイサ様にノーを突き付けられ、大慌てで王都のドレステーラーに向かうことになった。時間が無いので既製品から幾つかお勧めを出してもらい、最終的にメイサ様の選んだ、ウエスト部分に幅広のサテンのリボンが付いたエンパイアラインのベージュピンクのドレスに決まった。上半身には金糸で花の刺繍が施してあり、ところどころにビジューが散りばめられている。
ピンクは今まで地味な私には似合わないと敬遠していた色だったが、少しくすんだ色味を抑えた大人っぽいピンク色は私によく似合っていた。心なしか普段より血色がよく見え、一緒に用意して貰ったカメリアを象った金に真珠をあしらった髪飾りを着けると、年相応の可愛らしい印象の令嬢が出来上がった。
「メイサ様には本当にお世話になりました。何から何までご指導いただいて……」
頭を下げる私に、伯父はからりと笑った。
「メイサは昔、俺と結婚する前は妃殿下付きの侍女をやっていてな。それで適任だろうと思ったんだが、大変だったろ?」
「そうなのですね。私一人ではどうしてよいか分からなかったので、的確なアドバイスを頂いてとても助かりました。また後日お礼に伺います」
「いいっていいって。ウチ、男しかいないだろ?娘が出来たみたいで本人は楽しかったみたいだぜ。これに懲りずに、また付き合ってやってくれ」
また登城するような事態は避けたいが、メイサ様に服装を見立てて貰えるのは正直有難い、という気持ちを込め、曖昧な笑顔で応える。
謁見のため、というのが憂鬱ではあるが、これまで重視してこなかったドレスや装飾品、メイクやヘアアレンジなどの大切さが身に染みて分かった。
この姿を見たらマーカスも少しは……。
脳裏に浮かんでしまった考えを振り払う。何を着たところで、私は私だ。十年近く一緒にいて芽生えなかった感情が、見た目を少しいじった位で変わる程、現実は甘くない。
「今日お会いするデュラン伯父様の部下というのは、どのような方なのですか」
「んーちょっと変わってるけど優秀な奴だよ。あいつが貴族の出だったら部下になるのは俺の方だったな」
「その方は貴族出身ではないのですか?」
魔術師団は基本的には実力主義だが、それでも職業柄、高位貴族や社会的地位の高い人と関わることも多く、師団内の重要な役職に就くには爵位の高い貴族が優先される傾向にある。
それに加えて、元々個人個人の魔力量は平民より貴族の方が多く、高位になればなるほど魔力量が多くなる傾向にあるので、王城付きの魔術師の殆どは爵位持ちだと聞く。後ろ盾の無い平民から城付きの魔術師になったとするなら、かなりイレギュラーな存在だ。
「一応貴族って言えば貴族なんだが、準男爵の出なんだよ。だから殆ど平民と変わらない」
「それは、珍しいですね。御親戚に高位貴族の方でもいらっしゃるのでしょうか?」
準男爵は基本的に領地を持たない一代限りの爵位だ。大抵は功績を立てた平民や商人などに授与されるが、王城付きの魔術師になれる程の魔力量があるのなら、何らかの事情で貴族から平民になった元貴族の血が入っていると考えるのが自然だ。
「いや、それが本人が言うには、両親も祖父母も生粋の平民だと。準男爵といっても家はそれ程裕福ではなかったそうだし、本人はあまり詳しく語らないが親兄妹とも折り合いは良くなさそうだ。だからこそ師団内では少し浮いている。実力は確かなんだがなぁ。ロレッタみたいな貴族令嬢と話すことも中々無いだろうから、多少礼儀に欠けても大目に見てくれると助かる。魔法具いじりが好きらしいし、もしかしたら気は合うかもな」
「わ、本当ですか!」
もしかしたら初めての趣味仲間が出来るかもしれない。子爵家の家族の反応から分かる通り、一般に貴族令嬢の趣味が魔法具いじりというのはあまり外聞が良くないとされているので、私の魔法具趣味は秘匿されている。故に私には魔法具について語り合える友達はいないのだ。
しかも、魔法具は基本的に高い。私のような貧乏子爵家の人間よりも、出身はどうあれ、魔術師として働く高給取りの彼の方が余程良い魔法具を持っているだろう。趣味友は無理でもお願いすれば珍しい魔法具を見せてくれるかも。
淡い期待を抱きながら、そのためにもなんとか謁見を乗り切ろうと改めて気合いを入れる私を、伯父が微笑みながら見ていた。
城に到着すると、案内された入口で執事らしき格好をした男性が待っていた。促されるまま付いて行く。
私のような下級貴族は女官になるのでもなければこのように城の内部に足を踏み入れることは無い。はしたなくないよう、周囲を観察したい気持ちを抑えて案内通りに進むものの、既に来た道が分からない。
謁見の後は伯父は王宮に残って仕事をする予定らしい。
……帰りも案内してくれるますよね?俄かに不安になる。
通された謁見のための部屋は、赤い絨毯が敷かれ、部屋の一段高くなった場所に豪奢な椅子が置かれていた。
事前に練習した、型通りの挨拶を済ませ顔を上げると、デビュタント以来の国王陛下が椅子に腰掛け、その脇を男性が二人固めている。
あれは……男爵令嬢の毒牙にかかった令息の父親たちだ。夜会で遠くから眺めたことがある位の接点しかなくとも、流石に近衛騎士団長と宰相ともなれば私でも顔は知っている。
ガチガチに緊張する私に御礼を告げた陛下は、思い掛けない言葉を発された。
「ロレッタ・レスコー子爵令嬢、此度のそなたの働きには非常識に感謝している。しかしながら、残念だが事が事だけに表立ってそなたの功績を表彰することは難しいのた。代わりといっては何だが、褒美としてそなたの願いを一つ、叶えよう。勿論、何でもという訳にはいかぬが……何を望む?」
まともに陛下と目が合ってしまった私は硬直した。
願い……私の望み……。
思い掛けない言葉に頭が真っ白になって、何も考えられない。何か言わなければと思えば思うほど、言葉が出てこない。
領地のために何か願うべき?それとも子爵家のための何かを?願い……願いって……。
伯父に視線で助けを求めるが、伯父は私が決めるべきだと考えているようで、微笑むだけだ。
混乱する私の様子を察したのか、陛下の右側に控えていた宰相閣下が助け船を出してくれた。
「畏れながら陛下、そのように突然問われてもロレッタ嬢も困ってしまうでしょう。近い内に関係者を集めて事件についての説明が行われる予定ですから、その時に答えを聞くことにしては?」
「うむ、ロレッタ嬢、それでよいか?」
「はい。お気遣い頂きありがとうございます」
慌てて頭を下げる私に、宰相様が声を掛けてくる。
「ロレッタ嬢、私からも改めて感謝させて欲しい。ありがとう。貴方が気付いてくれなければ、息子は危ない所だった」
国王陛下を陰に日向に支える宰相閣下は周囲から密かに『氷の鬼』なんて二つ名で呼ばれているが、目の前の男性はとても優しげな表情を浮かべていて、鬼とは程遠い。本心から言っている言葉だと分かる。
彼の息子であるケント様は男爵令嬢に籠絡された際、自身の婚約者にかなり辛辣な態度を取っていた。授業や実習もサボリがちになり、それまでの成績が嘘のように悪くなり、あのままいけば間もなく廃嫡されるところだったと、ケント様の婚約者から聞いている。
「私からも礼を言わせてくれ。うちの馬鹿息子を救ってくれてありがとう」
「いえっ、あの、本当にお気持ちは分かりましたから頭を上げてくださいませ」
それまで黙っていた、陛下の左に控えていた近衛騎士団長からも頭を下げられ、先程から冷や汗が止まらない。
彼の息子のオーウェン様は父親同様、王家を支える近衛騎士を目指していたが、男爵令嬢に侍るようになってからはその騎士らしからぬ言動から、危うく騎士科を退学になる危機だったらしい。
漸く上げてくれた近衛騎士団長の顔は何とも言えない苦い顔をしていた。
最後にもう一度カーテシーを決め、そのまま無事に謁見は終了した。部屋から退出した時には、掌は汗でびっしょり濡れていた。
「お疲れさん!」
伯父が軽い調子で私の肩を叩く。
「デュラン伯父様……」
付いて来てくれるだけで心強かったのは確かだが、何となく恨めしい目で見てしまうことは許して欲しい。
「ははっ!まぁそんな顔すんなって。何事も無かっただろ?」
「うぅーでも褒美とかって言われちゃいましたよぅ……」
「いいじゃねぇか、それだけロレッタに感謝してるってことだ。まだ時間はあるんだし、ゆっくり考えれば良い。ってことで、こっからは俺に付き合って貰うぞ」
「部下の方にお会いするのですよね。どちらにいらっしゃるのですか」
現状、伯父について歩いてはいるが、やはり私には現在位置がさっぱりだ。ついキョロキョロと辺りを見回してしまう。行きに案内してくれた執事らしき男の人は、伯父が何か囁くと一礼してどこかに行ってしまった。
「そりゃ、魔術師がいるのは魔術塔だろ」
「えっ、あそこは部外者は立ち入り禁止じゃあ……」
「事前に申請しておけば大丈夫なんだよ。それから、ロレッタ。俺を誰だと思ってる?」
「次席特級魔術師様であります、シェスタ侯爵閣下!」
「そうそう。ってわけで行くぞー」