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92話 気が付いた感情

前回のあらすじ

・すぺくたー

 脳震盪で意識を失っていた俺は、ふと、高らかな銃声で目を覚ました。慌てて両手をついて起き上がり、周囲を見れば、そこには石碑で背中を守りながら、魔導銃を操るシスの姿があった。


「……?! うっわ、何?!」


 俺は思わず間の抜けた声を上げ、ぶっ倒れていた地面から跳ね起き、慌てて左腕を確認する。刻印は施したままの状態で残っている。ついでに魔力も三分の一程度は残っている。よし、まだ戦える!


 石碑そばには、スケルトンたちが多く存在していたらしく、地面から這い出ては生きとし生けるもの全てが恨ましいと言いたげなうなり声を上げる。そして、生者代表の祓魔師シスの元へ崩壊を伴いながら近づいていく。


 俺は左手に魔力を流しこみ、詠唱する。


「光魔法第1位【ヒール】!」


 石碑を乗り越えようとしていたスケルトンを光魔法で祓う。突然の援護に、シスは目を丸くして驚いた。


「……?! 意識戻ったのですか?!」

「ああ! 援護する!」


 驚くシスの声を聞きながら、俺は改めて自分の姿を見る。地面に突撃したせいで服はどろどろに汚れ、髪にはスペクターの骨のかけらが絡まっていた。骨は気持ち悪いため、すぐに手で払い落とした。

 肉体的な損傷はほとんど復活で直ったが、まだ頭がガンガンと痛む。まあ、結構高い位置からほぼ投身自殺のようなことをしたわけだし、それもそうか。


 少し動揺したシスだったが、すぐに気持ちを切り替え、拳銃を構え、短く詠唱する。


「範囲拡大、光魔法術式装填」


 シスの詠唱に呼応し、拳銃の外部にまで張り巡らされた刻印に金の光が走る。うわ、かっけえ!

 少年心をくすぐられ、思わず目をキラキラとさせそうになったが、残念ながら、周囲にはほぼ無限湧きと言っても過言ではない量のアンデットがいる。静観できるほど現状は生易しくはない。俺は急いでエリアヒールの呪文を唱えた。


 灰になって消えていくアンデットを、新たなアンデットが踏み越え、その屍さえも踏み越える。ぞっとするような光景が目の前に広がり、俺は情けない悲鳴を上げていた。


 しかし、そんなおぞましい光景が広がる中、シスは、ただまっすぐと前を見ていた。まるで、シスの周囲1メートル圏内だけ、空気の温度が2,3度下がっているように見えた。それほどまでに、研ぎ澄まされた集中だったのだ。


 拳銃を両手で握り、シスは魔道具を起動させるための合言葉を詠唱する。


「魔道具起動【発射(ファイエル)】!」


 勇ましい詠唱の直後、銃口から激しいスパークが放たれる。反動でシスの腕は少しだけ跳ね上がるも、光の砲撃はこちらへ群がろうとしていたアンデットの壁を割り砕き、一線の道を敷いた。飽和した魔力から短くパチパチと光の弾ける音が響く。きっとあれは激しい電撃なのだろう。


 すさまじい火力だ。そして、めちゃくちゃカッコいい。

 思わず興奮しかける俺だったが、シスを見ると手早く魔力を回復する効果のあるポーションを飲み干しているところだった。どうやら、火力に比例して消費魔力も大きいらしい。そんな彼女を見て、俺は慌てて再びエリアヒールを唱える。


「さっきのすごいな! かっこよかった!!」

「はは、そう言ってもらえると、うれしいです。__大技使ったので、次弾装填に少し時間がかかります。警戒してください!」


 シスの言葉に、俺は大きく頷いてから左手を前に構える。緊張で全身が力みそうになるが、焦って失敗すれば本末転倒である。しかも、復活できる俺はともかく、シスは普通に怪我をするし、場合によっては死ぬ。


__武器も使えないなら、結構ヤバめか……?


 エリアヒールを維持しながらそう思った俺だが、どうやら違ったらしい。シスはシスター服のガーターベルトからもう一丁の魔導銃を取り出す。

 その魔導銃は、今彼女の右手にある留め具はなく、代わりに一メートルより少し長いくらいの頑丈そうな鎖が付いていた。シスは手早くその鎖を右手に持っている留め具に固定すると、取り出した拳銃を左手に握った。


「?!」


 一瞬スカートの中身が見えそうになり、俺は息を止めてしまう。黒……いや、下着の上に着るパンツか……?

 そんなくだらないことを考えている俺を置いて、シスはそんな不可思議な二丁拳銃で戦闘を開始した。


 鎖でつないだ拳銃と拳銃。それらを片手ずつで握り、シスは短く呪文を詠唱する。


「光魔法第四位【バイタリティ】」


 光魔法に属する強化魔法を唱え、一気に地面を駆けたシスは、まず目の前に立ちふさがっていたスケルトンナイトの頭を左手に持った拳銃で殴打する。がこん、とも、ゴリン、とも聞こえる、骨の砕ける鈍い音が響く。


 魔法でSTRを強化したためエグい音とともに、スケルトンナイトの頭が砕け散った。頭を失ったスケルトンナイトは、首から下の骨格がつられてばらばらと崩れていく。崩れた骨はエリアヒールの圏内にいたがために、灰になって風にさらわれていった。


 一撃で消し飛んだスケルトンナイト。今の俺は知る由が無いが、スケルトンナイトはエリアヒールでじわじわと耐久力を削られていたがためにワンパンで砕け散ったのである。一応、俺は突っ立っていただけではないと主張しておく。


 当然のように、シスはそれだけでは止まらない。

 右手の拳銃から手を放し、左手に握った拳銃の引き金を魔力を込めながら引く。単発の小さな光の弾丸がそばにいたスケルトンの頭を吹き飛ばす。そして、つながった鎖を引き抜いて右手に持っていた拳銃を操り、モーニングスターを振り回すような要領で、頭を失ったスケルトンの胴体を打ちすえる。

 頭を失い、不安定な状態になっていたスケルトンは、術式を刻むために相当頑丈な拳銃で横殴りにされ、あっさりと砕けた。


「うわ、すげえ!」


 アホっぽい感想が、俺の口から漏れる。

 シスはたった一人で祓魔師(エクソシスト)として活動してきた。だからこそ、魔法以外にも戦闘方法があるのだろう。所謂『ガン=カタ』と呼ばれるやつだ。アレも確か、元ネタは1対多数に有利とか、そう言う設定だった気がする。知らないけど。


 二丁拳銃を操り、右手に持っていた拳銃の次弾装填(リキャストタイム)が終わったのだろう。左手の拳銃から手を放し、右の魔導銃を両手で構える。そして、魔弾を放った。


「範囲拡大、光魔法術式装填【発射(ファイエル)】!」


 エリアヒールもじわじわ効いていたこともあり、強烈な光の奔流の直後、石碑周辺からアンデットは消え去っていた。

 敵がいなくなったことを確認してから、シスは深く安堵のため息をつき、右手に拳銃を握ったまま、左手で首に下げたネックレスの二重丸のエンブレムを握り締め、祈りの言葉を口にする。


「貴方方の死後に幸運があらんことを」

「うーん……あったかなぁ……いや、生き返ったことがワンチャン幸運……いや、そうでもないな」

「どうかしましたか?」

「何でもないです」


 若干死後……要するに、現在なのだが……の状況を振り返りかけた俺は、きょとんとした表情を浮かべるシスにそっと肩を下げて言う。死因神だし、死後剣になった理由も神だから、まあ、ある意味神がかった死後と言えなくもない。大半悪い意味でだけどな。


 さて、祈りを終えたシスは、魔導銃から鎖を外し、またガーターベルトの裏へ隠す。流石に今回は非戦闘時であるため、しっかり俺は後ろを見ていた。魔導銃の隠し場所もう少しどうにかなりませんかね、シスさん。


 念のため右手の拳銃のみ所持したまま、シスはニコッと俺に向かって微笑みかける。


「意識が戻って、よかったです。石碑の前に戻ったら倒れていて、びっくりしたのですからね?」

「……もどってきたら?」

「はい」


 シスのその言葉を聞いて、俺は思わず首をかしげる。そして、あることを思い出して、顔を真っ青にした。

 そうだ俺、人力メテオした直後、力尽きて剣に戻っていたじゃないか!


 思い返してみれば、意識が戻った時には人間の状態だった。多分、何とかシスが来る前に変形できていたのだろう。

 意思を持つ聖剣は、俺と言う例外を除くとウィルド一人だけであるはずなのだ。何か神殿はヤバいらしいし、何ならウィルドの封印されていた祠壊したし、あまりぼろを出すような真似はしたくない。


 突然顔色の悪くなった俺を心配したのか、シスは少しだけ眉を下げて問いかける。


「どうしましたか?」

「い、いや、大丈夫、デス。はい。」


 動揺しすぎて思わずカタコトになる。いや馬鹿か俺。

 うん、俺は嘘をつくのとか、演技とか、全然得意ではない。言葉を取り繕えるなら戦闘以外の状況でジルディアスにへし折られることはないからな。その辺はいつも剣の状態で、ジルディアスとウィルド以外に意思疎通ができなかったがために取り繕われていた部分が大きい。


 が、今は生身の人間である。声だとか、言葉以外の情報も会話ではないって来てしまう。あんまりにも大丈夫ではなさそうな返答に、流石のシスも焦ったように俺の方へ近づき、左手をてにとる。


「負傷でもしましたか?!」

「あああ、あの、だ、大丈夫です! 何の問題もないっす! __ただ、その、距離が……!」


 自分でも馬鹿っぽい返答だとは思う。

 そして、馬鹿なことをしたと思った。


 距離を指摘されたシスは、一瞬目を丸くして、ポカンとした表情を浮かべる。そして、気が付けば握っていた俺の左手をみて、顔を真っ赤にして慌てて距離をとった。


「ご、ごめんなさい! は、はしたなかったですね!」


 恥ずかしそうに言うシス。

 戦闘時との苛烈な印象と、恥じらう姿。このギャップに、俺は気が付けば彼女のことが好きになっていた。……いや、単純か?

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