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89話 師匠!!!!

前回のあらすじ

・錬金術師アレンの元に向かう

・シーサーペント「見せ場なく殺された」

 馬鹿でかいシーサーペントが引き上げられるのを横目に、俺とジルディアス、剣に戻ったウィルドは錬金術師のアレンの元へ向かった。


 アレンはあまりにもあっさりとシーサーペントを狩り殺したジルディアスに尊敬とも呆れとも取れるような視線を向けている。露店は昨日と変わらずパラソルと品を置くためのテーブルだけと言う質素そのものだ。


「何だ、さっきの無茶苦茶な戦い方は」

「そうでも無いだろう? アレは図体がでかいだけでさほど強くもない。動きさえ止められればこちらのものだ」


 ジルディアスはそう言って軽く肩をすくめる。アレンはありえないという表情を浮かべ、頭を抱えることしかできなかった。

 秋めいてきた日差しに照らされ、アレンの露店の質のいいシルバーアクセサリーが小さく煌めく。ウィルドとの売り言葉に買い言葉のせいでじっくりと品物を見れていなかったが、よくよく見てみれば、例の二重丸のエンブレム以外にも青色ガラスでできた涼やかな置物や携帯しやすそうな旅用の魔道具などが展示されていた。


 アレンは露店の座椅子にどっかりと腰かけ、小さく咳き込んでからジルディアスに問いかける。


「で、今日はどうしたんだい? 昨日の魔法使いさんはいないようだが……?」

「ウィルドなら今はいない。いないからな」


 口を開こうとしたウィルドに言い聞かせるように、ジルディアスは言う。剣の状態であるため、ウィルドの表情を見ることはできないが、原初の聖剣から醸し出される不満足なオーラに、唇を尖らせているだろうことが容易に想像できた。


 妙な言い方に、アレンは少しだけ首をかしげるも、すぐに肩をすくめて手元のアクセサリーの金具をいじり始める。どうやら昨日ウィルドに指摘された回路の修繕を行っているらしい。それを見て、俺はハッとして口を開いた。


「そ、その、初めまして! 俺はジルディアスと一緒に旅をしている恩田裕次郎です!」

「お、おう。元気いいな。俺はアレン。ソフィリアで錬金術を学んだ超一流の錬金術師だ」


 アレンは人のいい笑顔を浮かべると、右手を差し出す。どうやら握手をするつもりらしい。俺も慌てて右手を差し出した。

 その時だった。


「……ん? おい待て馬鹿野郎! その手こっちに向けんな、ってか店に近づくな!!」


 ぎょっとした表情で俺の左手を見て、アレンが引きつった表情で怒鳴る。え? 何?

 困惑する俺をよそに、アレンはジルディアスに噛みついた。


「馬鹿、大馬鹿! 何でお前腕にこんな自殺まがいの刻印入れてるやつと一緒に旅してんだよ?!」


 目をむいて叫ぶアレンに、ジルディアスは怪訝な表情を浮かべ、問いかける。


「そこまで危険なものなのか?」

「あったりまえだ! 非安定物質の生体刻印で魔法威力上昇は流石に狂気の領域だっての! つーか、しかもソレ入れ墨じゃねえだろ?! 何かとこすれて線一本消えたら腕消し飛ぶぞ?!」

「え、でも爆破の威力的には建物ぶっ壊すレベルじゃないし……」

「爆破させてんじゃねえか! 畜生、お前のところの仲間に常識人はいねえのか?!」


 俺の台詞に酷い頭痛を覚えたのか、頭を抱えるアレン。失礼な、俺が常識人枠だぞ? プレシスの常識はないけど。


 正直なところ、俺は別に腕の一本や二本吹っ飛んだところで、MPさえあれば問題なく生き返られる。

 描き間違えて腕を吹っ飛ばした感じ、別に近くにいる人……俺の場合、大抵ウィルドかジルディアスだ……に血が飛ぶかな、くらいなものである。それだって俺の肉体は体から離れれば消えてしまうため、誰かの服を汚すとか、そう言うことはない。


「その、だな。俺は光魔法が得意で、多少怪我しても問題ないんだ」

「なら普通の発動体を使ったらどうだ? そっちの方が何十倍もリスクが少ないぜ?」

「あんまり言いふらしてほしくはないのだけれども、俺はその、オリジナルスキル的なもので触れた対象のMPを奪うことができてさ。発動体で距離作るよりも、できれば素手の方が戦いやすいんだよ」


 俺の言い訳……いや、説明を聞いて、一応は納得したのか、アレンは眉間に深く刻み込まれたしわを親指で押しながら、俺に言う。

 いじっていた金具はさすがプロと言うべきか、回路も保護も正しく汲み上げられ、無造作に商品棚に放り込まれる。港の喧騒の中に、シャランと涼やかな金属音が響きこむ。


「……せめて、入れ墨にしておけ。回復魔法で治せるつったって、出血はどうにもならねえんだ。いやなら指輪とか、腕輪とか、比較的素手に近い形で戦える装備にしろ」

「やっぱりそうか……ところで、アレンさんは弟子を募集していたりとかは……」

「リスク管理も倫理観もなってない。お前だけはないな」

「だよな」


 あまりにも正論過ぎて、俺は頷くことしかできない。そりゃそうだよな。腕に爆発するような刻印刻むような馬鹿を弟子にしたいと思うやつなど、そう多くはないだろう。


 とはいえ、俺だってそんな状態で放置されるわけにはいかない。やっぱり、アンデットを祓うにしても、とっさに人に回復魔法をかけるにしても、腕に刻印を刻むのは有用な手段なのだ。せめて、錬金術(アルケミー)のレベルを上げたい。


 小さく肩をすくめ__今は気分だけではなく、身体的に肩をすくめることができる。やったね__俺はアレンに問いかける。


「なあ、魔石の買取をしてくれたりとかはしないか? 金じゃなくっても、錬金術の指南書とか写させてくれるだけでもいい」

「金は魔石の質次第だな。指南書は勝手に写してくれ。内容は覚えちまってるが、ちょっと思い出深いものだからな。できれば汚したりなくしたりしないでほしい」


 アレンはそう言って何度も何度も読み返したのか、擦り切れた表紙の古ぼけた本を俺に投げ渡す。言語チートのおかげで問題なく読むことができる表紙には、【ソフィリア魔術大学:錬金術刻印術式専攻】の文字。パラパラとめくれば、大量の書き込みやアンダーラインが教科書を埋め尽くしていた。


 なるほど、アレンは本当にソフィリアで錬金術を学んできたらしい。垣間見える血と汗のにじむ努力の後に、俺は小さく息を飲んだ。


「その、こんないいものを、本当にありがとう。内容を写したらすぐ返す。あと、これが持ってきた魔石」


 アレンに礼を言いながらも、俺は俺の目的を果たすため、今朝の頭のない馬と鎧武者を倒したときに手に入れた魔石を取り出す。ジルディアスが一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに納得したようにそっと目を逸らした。

 光魔法が使えるから、対アンデットなら俺はそこそこ戦えるからな。死んでも死なないし。


 拳よりも二回りほど大きな魔石を前に、アレンはちらりと俺を見てから、その魔石を手に取ってより詳しく鑑識し始めた。まるまる一分間ほどじっくりと魔石を見たアレンは、小さく肩をすくめて結論を言う。


「まあまあ質は良いが、穢れが酷いな。アンデットの魔石かこれ?」

「ああ。今朝とりたてほやほやのやつだな」

「うーむ……これだけ穢れがあると、光魔法系統の刻印に影響が出そうだな」

「やっぱり売れないか?」

「いんや、そう言うわけじゃねえ。お前さんが練習するのに使いにくそうだと思っただけだ。光魔法が得意っつってたし、お前さんが倒してきたアンデットの魔石だろう?」


 アレンはそう言って鑑別を終えた魔石を露店のテーブルに置く。ああ、そうか。そういや、魔石も錬金術の素材になるのだったか。


 アーテリアの街で出会った芸術家のアーティは、紙に特殊なインクを使って魔法陣を描き上げていた。アレも確か錬金術の一種だったか。あそこまで出来たら確かに楽しそうだが、最優先は生活である。この世界で生き抜くために最低限必要な武力を道具で補いたいのだ。


 ぶっちゃけ、魔王が討伐されてしまえば、聖剣などあっても無くてもいいような存在になってしまうことだろう。STOのゲームシナリオをよく知っているわけではないが、確か聖剣を持っていないとそもそも魔王のところに行けないとか、そう言う感じだったのではないのだろうか?


 まあ、のちの生活で使うためにも、魔王との戦いで少しでも戦力になるためにも、手段は多いに越したことはない。腕が何度も爆破するのは嫌だし。

 ともかく、錬金術の練習をするなら、難易度の低いものから少しずつ練習していくべきだろう。ジルディアスは船が来るまでひきこもると宣言していたし、時間はまだある。


「二週間……っていっても、後一週間と五日か。その間にどこまで錬金術ができるようになるかにもよるかな……多分、アレンさんの言う通り、普通の魔石の方が練習には向いていると思うから、売らせてくれ。その代わり、練習できる基礎の材料を購入したい」

「ウチはお守り屋であって、錬金術商品を売る店じゃねえんだが……まあ、後輩には優しくしてやるのがセンパイの務めだろう。ちょっと待ってろ」


 アレンはそう言って露店での収入をしまうための小型の金庫を開け、がさがさと中身を漁りだす。筆やらペンやらをごそごそと引っ張り出しては、戻してを繰り返し、奥の奥にしまい込まれていたらしいソレを取り出した。

 きょとんとした表情を浮かべる俺に対し、ジルディアスは軽く顎に手を当て、それを見る。


 金庫から取り出したのは、万年筆と黒色のガラスで作られた、インク瓶。瓶にはラベルの代わりに直接金のインクか何かで【アレン・クリースト】と名前が書かれていた。


「ほら、ペンとお古のインク壺だ。インクの材料は教科書見てそろえな」

「……? ペンはわかるけど、インク壺?」

「基礎の基の字も知らないのか。刻印用のインクを長期保存するための壺だ。あったほうが圧倒的に作業効率が上がる」

「へえ……普通の壺じゃダメなのか?」

「インクに入った魔力が抜けてもいいならな。品質を一定に保つためにも、ちゃんとした素材のインク壺があったほうがいい」


 アレンはそう言って魔石の代金と一緒に手のひらの中心にちょこんと乗る小さなインク壺と立派な万年筆を俺に渡した。


 その様を見ていたジルディアスは、小さく肩をすくめてアレンに言う。


「悪いな、そこの魔剣……いや、仲間が常識知らずで。何か商品を買わせてくれ」

「いや、どっちもお古だからわざわざ買わなくてもいい。狂気の沙汰ではあるが、腕に安定して魔法威力増強の刻印を施せているってことは、才能はあるんだろう。あとは__」


 アレンはそこまで言った後、ピクリと何かに気が付いたのか、口を閉じてそっと目を逸らす。どうしたんだ?


「あとは、何だ?」


 気になったのか、ジルディアスもアレンに問いかける。本職が近衛だったこともあり、どこか職質めいた質問の仕方だった。

 ジルディアスのその言葉に、アレンは小さく唸り、少し気恥しそうに言う。


「入れ墨つかって発動体持たずに魔法発動とか、野郎なら一度は妄想したことを実現してくれたんだ。応援したくもなるだろ」

「……そうなのか?」

「え?! わかんねえの?! 【黒騎士物語】とか読まなかったのか?!」


 ガタンと商品棚に足を打ち付けながら驚くアレン。なんだろう、多分、ジェネレーションギャップってやつじゃないかな?

【インク壺】

 刻印を施すために使うインクを保存する特殊な壺。

 STOのゲーム内では、インク壺に入れておくインクによって刻印の成功率や失敗率が変わっていた。刻印に成功すると、武器の強化値が上がる。ちなみに、成功率は熟練度+素材依存で、失敗すると強化値が下がったり、場合によっては装備の破損が発生したりもする。

 ちなみに以前サクラがゴミ扱いしていた高純度ミスリルは、装備強化の素材に当たる。


桜「あああああああ、六割外すの何回目よ?!」

友達「乱数はクソってはっきりわかるよな」

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