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84話 孤高のエクソシスト

前回のあらすじ

・船の予約が済んだ

・店主「やれるもんならやってみろ!」

・ウィルド「割と硬かった」

 船の予約さえ終わってしまえば、俺たちは特にやることがなくなってしまった。イリシュテアにいい思い出が無いらしいジルディアスは町を歩く気がなく、外に興味のあるウィルドもジルディアスが出ないなら外に出る気はないらしい。


 俺はと言えば……


「あー、クソ、また足の骨折れた!」


 宿のすぐそばの門の外で、今日も日がなアンデットを祓っていた。

 少し場所を移動すると、比較的聞き分けのいいアンデットばかりではなくなってきており、問答無用で俺を殺しにかかってくる奴も割といる。とはいえ、行儀のいい(?)アンデットもいるにはいるため、魔法抵抗されない限りは等しくエリアヒールでアンデットを祓っている。


 今回の対戦相手は何と首のない馬に乗った鎧武者。お前どうやって地面から這い出てきたの?

 レベル的には鎧武者の方が圧倒的に高いし、一撃で首やら足やら腕やらが吹っ飛んでいくが、なんだかんだ言って俺はそもそも剣である。体がへし折れようがねじ切れようが砕かれようが、死にはしない。そして、相手に触れさえすればMPが尽きることも無い。


 首が無いくせに的確に俺の頭蓋を踏み砕く半分骨の見えている馬の脚にしがみつき、俺は呪文を詠唱した。モザイクは必要ない。セリフキラキラで誤魔化されるからな。あー、全身が穢れた土壌に叩きつけられてクソ痛い。


「いい加減あの世に行けよ、【ヒール】!」

「_______!!」


 鎧武者によって切り飛ばされた右腕を復活スキルで元に戻し、暴れ馬の脚にしがみつきながら、癒しの光を武者の頭めがけて発生させる。最悪左手さえ残っていれば高威力の回復魔法が使えるため、優先度合い的には壁との距離>左腕>足>命である。人間になれるならまず倫理観からどうにかしなければならないと再確認した。


 癒しの光を受けた不浄なるアンデットは、言語化できない絶叫を上げながら、暴れまわる。そんな鎧武者の激情に煽られ、首のない馬の動きもより激しくなる。


 MP不足にならないよう、意地でも馬の足をつかんでいるため、俺は地面にびたんびたんと音が鳴りそうなほどに叩きつけられては踏み潰されかける。普通の人間は真似すると死ぬからいい子も悪い子もマネしちゃだめだ。真似したらもれなく全身骨折待ったなしである。


 何と言うか、生きている年数的には人間だった期間の方が長かったはずなのに、この世界に来てから生死感が変わってしまったため、近しい人間の命以外の命__俺の場合には自分の命も含む__が軽くなってしまっている気がする。


「やべえな、早めに感覚戻さねえと、不死身じゃなくなったときに詰みそう……うげっ?!」


 再度ヒールをかけようとした俺の頭を、鎧武者の巨大な槍が貫く。ヤバい、痛い。気持ちわるい。


 鎧武者はその瞳を不気味に赤く輝かせ、俺を睨んで言語化できない罵声を浴びせかけ、何度も何度も俺に槍を突き立てる。がつがつと俺を貫通し穢れた土壌に穴をあけるどす黒い槍。死にはしないとしても、痛いものは痛い。


 俺は盛大に舌打ちをして、鎧武者に向かって怒鳴る。


「てめえが生前何だったのかなんざ知らねえけど、生きてる人間に害与えてんじゃねえよ、このバーカ! 【レイ】!!」


 槍の乱打をこらえ、俺は鎧武者の右肩を光線で貫く。普通の威力のレイなら、魔法抵抗で鎧を貫通するには至らないだろう。しかし、そこは込める魔力量とスキル効果二倍の祝福で何とか誤魔化す。

 既に脆くなっていたらしい鎧武者の右腕が、握っていた槍ごと地面に落下していく。いっそ気持ちが悪いほどに穢れ切ったその腕は、エリアヒールの範囲内に入ったためか黒色の灰になって消えていった。



 そこからは復活に使う魔力を光魔法にうつすことができたため、比較的優勢にことをすすめられた。とはいえ、生身の人間なら間違いなくダース単位で命を落としているようなゴリ押し泥沼耐久戦闘だったのだが。


「実質二体はキッツかったな」


 キャラシ作成のおまけでもらった服は身体扱いなのか、復活スキルを使おうと思えば範囲内にできる。おかげで全裸で町を歩くというおかしたくもない罪を犯さずに済んだ。


 首無し馬と鎧武者を祓った俺は、深くため息をつきながら水を飲む。飲み食いをしたところで意味はないが、気分転換くらいにはなる。早く人間になりたい。


 穢れた土壌に座り込んだ俺は、背後に転がる馬の骨と鎧武者の甲冑の破片を見る。このレベルの敵を倒して、俺はようやく二つか三つのレベルを上げることができる。どうやら、俺はレベルアップの効率がなかなかに悪いらしい。


「スキル効果二倍だし、爆速レベルアップとかオプションあったっていいだろ……」


 俺はそんなことをつぶやきながら、復活スキルを使ってきちんと全身を治す。なんだかんだ言って痛覚に耐性はあるが、それでも痛いものは痛いし、動きにくいのは嫌だ。

 不気味なエンブレムと哀れな死体の立ち並ぶ門外の空気は、不気味なほどに冷たく湿っている。


 結局、上には上がいるもので、凡人はいくら頑張っても追い越せない壁はあるのだ。人生に諦めは必須で、妥協することもまた手段で英断だ。

 脳裏によぎるのは、圧倒的強者のジルディアスと、同様に理不尽かつ己の完全上位互換であるウィルド。なんかこう、どちらにしろ強さが圧倒的すぎて、もはや嫉妬だとかそう言う以前の問題だが、身近に超えられない壁があるというのは、少しだけつらいものがある。


 俺は絶対に二人には勝てない。チートとかハーレムとか結局する気もなかったけど、できるわけもない。人生はハードモードだし、剣だし、折られるし、名前覚えてもらえないし、持ち主は外道だし。

 ほどほどに鍛えて、ほどほどにスキルをとって、ほどほどに生きて行けば、彼等はきっと魔王を討ち取って勝手にハッピーエンドを迎えられるだろう。

 でも……


「まだ、頑張らないとな」


 俺は小さくつぶやいて、座り込んでいた地面から立ち上がる。

 諦めたくはない。後悔したくない。せっかく生き返ったんだ。やれるところまでやりたい。


 全財産をかけても構わない。俺がウィルドやジルディアスの実力を追い越すことは未来永劫ない。それでも、だからと言ってせめて彼らに近づくような努力をしないのは、違う。


 体についた土汚れをはらいのけ、俺は軽く体を伸ばす。体調は万全。体に痛みはなく、視界も良好。声も出る。風も感じられる。時折聞こえる生きているもののものかアンデットのものかわからないうめき声もちゃんと聞こえている。


「やっぱ、せめてジルディアスたちと並べるくらい……いや、並べなくてもいい。せめて、何十歩後ろでもいいから、追いかけられるくらいには、力つけておきたい」


 きっと彼らは、魔王を倒して勝手にハッピーエンドを迎えられるだけの実力がある。でも、運命(シナリオ)はそれを許さないはずだ。

 だから、俺にできることをしたい。俺にできることを、できるだけしたい。


「ヘルプ機能」


 俺は小さくつぶやいて、今の己のステータスを確認する。


【恩田裕次郎】 Lv.28

種族:__ 性別:男(?) 年齢:19歳

HP:145 MP:160

STR:137 DEX:181 INT:191 CON:147

スキル

光魔法 Lv.4(熟練度 210) 錬金術 Lv.3(熟練度 8) 

ヘルプ機能 Lv.1(熟練度 72)

祝福

復活 Lv.4(1up)(熟練度 353)

変形 Lv.8(熟練度 202)


「お、復活スキルレベル上がってる。レベルアップの基準が分かりにくいな」


 復活スキルは高ければ高いほどうれしい。最近は人間に変形した結果割とよく怪我するようになったため、MP消費を抑えられるのは正直嬉しかった。


「クソ雑魚なりにできること増やさねえとな……」


 ジルディアスたちに追いつきたい。錬金術の勉強もしたい。強くなりたい。可愛い女の子にモテたい。……最後のは違うか。

 とにかく、日本よりもヤバいやつが知っている限りでももう片手の数埋まるだけいるのだから、一定以上の実力はつけないと不味い。魔王を討伐した後、必要のなくなった聖剣がどうなるかなど俺は知らないのだから。


 集まって来たアンデットたちにエリアヒールをかけながら、俺は心の中でそう思う。

 そんな時だった。


「……人……? 何でこんなところに?」

「ん?」


 突然後ろから聞こえてきた声。

 間の抜けた声を上げた俺は、エリアヒールを維持しながら後ろを振り返る。そして、思わず息を飲んだ。


 透き通る森の木漏れ日のような緑の瞳。つややかなクリーム色の髪の毛。整った顔立ちで、晒された左手にはまるで手かせのような黒の入れ墨が掘られている。


「……美人だぁ」

「……そう? その、ありがとう……?」


 思わず口から漏れたアホっぽい俺の感想に、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめてそう言う。

 気まずそうに短い髪の毛の頭をかく彼女の動きにつられ、首元にかけられていた二重丸のエンブレムが揺れる。……もしかして、彼女、教会関係者?


 彼女が教会関係者なら、ちょっと俺はマズいかもしれない。俺は今、レベル上げと人としての倫理観から勝手にアンデットを祓っている。鳥に変形したウィルドに剣の常態の俺を城壁外に放り出してもらったため、当然無許可でアンデット払いをしていることになる。


 してはいけないことではないだろうが、ここは処刑場。何らかの誤解を生んでいたり、もしかしたら知らないうちに何らかの罪を犯してしまっている可能性もある。ここ日本じゃないから、正直まだ法律も把握しきれていないんだよなぁ。


 口をつぐんだ俺に、彼女は首をかしげて問いかける。


「もしかして、貴方もエクソシストなの?」

「……エクソシスト?」


 これが、俺とエクソシストのシスとの出会いだった。

【首のない馬と鎧武者】

 アンデットホースとカースアーマー。カースアーマーはライダー技能を持っており、アンデットホースに騎乗していた。STOではレアモブだった。普通に強い。

 弱点属性は光魔法。基本的な倒し方はアンデットホースを倒してカースアーマーの騎乗を解除してから鎧武者を倒す。騎乗による踏みつけは相当なダメージになるため、こっちの方が安全なのだ。


 騎士に忠誠を誓っていた馬は、やがて主のそばで自死した。アンデットとなり全てを恨む騎士に、忠臣である馬はいつまでも付き従うことだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く読みやすく引き込まれる [気になる点] ジルディアスからどれだけ離れられるのか… 宿のすぐそばだからなんとかなる距離なのか? [一言] 完結まで頑張って
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