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83話 お昼ご飯とお守り

前回のあらすじ

・恩田「何だったんだアレ」

・ウィルド「久々に君以外の兄弟と会えた」

・ゲイティス「へえ、面白いじゃん」

 鼻歌を歌いながら歩くウィルドが勝手なところに行かないように見張りながら、ジルディアスと俺はさっさと船の予約を取った。

 しかし、船は闘技場での三か月に一回の大会の影響で、残念ながらしばらく運休しているらしい。最低でも二週間はこの街に滞在していなければならないのだとか。

 その話を聞いたジルディアスは盛大に舌打ちをしていた。態度悪すぎるだろお前。


 ともかく、船の予約も終わり、俺たちは港のそばの露店を散策していた。……主にウィルドが。

 港のそばの露店街は市場も兼ねているのか、新鮮な魚や海鮮、野菜、果物、土産物などが大量に並んでいた。店は商店のようなきっちりとしたたたずまいのそれから、地面に風呂敷を広げただけのものまで幅広い。


 危険な船旅を支えるためか、お守りを売っている屋台が結構たくさんある。シルバーのアクセサリーは普通にお洒落だ。……結構二重丸のエンブレムのお守りがあるのがちょっとアレな感じはするけれども。


 楽しそうにあたりをきょろきょろと見ながら、ウィルドはジルディアスに問いかける。楽しいのか、その目はキラキラと輝いていた。


「ねえ、ジル。二週間何する?」

「何もしない。この街で目立ちたくはない」

『へえ、じゃあ、なんか美味しいもの買って宿に引きこもるか?』

「……まあ、そうなるだろうな」


 ジルディアスはそう言ってそっと肩を下ろす。その言葉に、ウィルドは少しだけ不満そうに唇を尖らせた。


「観光しないの? お土産は?」

「しない買わない。ここの土産物などろくなものがない」


 あっさりと言うジルディアスに、港のそばでござを広げて土産物を売っていた男がニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべて声をかける。


「おやあんちゃん、護身用の魔道具はイリシュテアの特産品だぞ? ウチのは超一流の錬金術師が作った逸品だ! お安くしておくよ?」

「そんな魔道具(モノ)、使わずとも護身ぐらいできる。いらん」


 露店の男に二重丸のエンブレムのネックレスを見せられ、ジルディアスは不愉快そうに答える。実際そうだろうと思うが、言い方と言うものがある。なんかフォローしてくれ、ウィルド!


 そんな俺の思いもむなしく、船着き場の男が見せた二重丸のエンブレム付きネックレスを興味本位で見たウィルドは、首をかしげて不思議そうに男に問いかけた。


「この魔道具、展開する障壁の強度弱すぎないかい? これじゃあ、物理攻撃どころか魔法攻撃でも破壊されちゃうよ?」

「ハァ?! 素人が何言ってんだ! 高位の司祭殿のライトジャベリンにも耐えたんだぞ?!」

「……? それは単純に、術者の力量が__」

「一旦口を閉じろウィルド」


 流石に見ていられないと判断したらしいジルディアスが、ウィルドの口を物理的に塞ぐ。潮風と波の音よりも、はるかに露店の男の額に浮かび上がった青筋の方が音を立てているような気がした。


 売り物を馬鹿にされたと思っている店主は、苛立ったように舌打ちをすると、お守りを握り締めウィルドに怒鳴る。


「そこまで言うなら、やってみろってんだ! いいか、俺のところのはほかの店のまがい物と違って、ちゃんとした魔道具なんだよ!」

「……? うむ(うん)もごも(でもさ)もうむむ(弱いよ)?」

「クソ、なんつってるかわかんねえけど、馬鹿にしていることだけはわかった!」

『読解力凄いなこの人』


 ジルディアスによって物理的に口をふさがれたウィルドは、もごもごと返事をする。ヘルプ機能のおかげで自動翻訳されたため、俺は何とか聞き取れることができた。しかし、おっさんは違うはずだ。


 露店の店主は苛立ったように声を荒らげ、ジルディアスに言う。


「あんちゃん! そいつの口から手ェ放しな! そう言うなら壊してみろ! 壊せたなら好きな商品1個もってきゃいい!」

「……? いいけど、別にいらないかな」


 ウィルドはそう言うと軽く腕を構える。そして、露店の店主に問いかけた。


「後ろの海、落ちても大丈夫?」

「はっ! 舐めてんじゃねえぞ!」

「……? 結局大丈夫なの?」


 露店の店主の反応に、ウィルドは首をかしげる。ウィルドは吹っ飛ばす前提であるにもかかわらず、店主は魔道具に万全の自信を置いているからこその食い違いだろう。ジルディアスは面倒くさそうに小さくため息をついて、ウィルドに言う。


「ウィルド、港そばまでは魔物は近づかん。が、念のため炎系の術式は避けろ」

「わかったよジル。じゃあ、魔道具起動して。とりあえず、光魔法を使うね」

「ああ、好きにやってみろ!」


 よほど商品に絶対の信頼があるらしい。店主はそう言って魔道具のネックレスのエンブレムをぐっと握り締める。すると、銀に輝く結界が店主を取り囲むように発動する。

 ウィルドは薄い弱いと言っていたが、普通に強度は十分そうだ。


 しかし、ウィルドはジルディアスと俺を前に敗北したとはいえ、彼は確かにレイドボスであった。


「いくよ……ピクスタ(精霊よ)ライア(光の)ランス(槍を)

『あっ、馬鹿、神語魔法は……!』


 短い詠唱の直後、光の槍が一本だけ展開される。大きさも規模も光魔法第5位のライトジャベリンとそう変わらないだろう。ただ、1点だけ全く異なる点があるとすれば、その質だ。


 圧倒的な魔力と才能によって組み立てられたその光の槍は、俺の知っているライトジャベリンとまるで異なった。槍っていうか、もはや城門を破壊する槌か何かじゃないかなアレ。


 小さな身振りの直後、輝く金の光の槍がすっ飛ぶ。

 次の瞬間、障壁の砕け散る音とともに店主が吹っ飛び、一拍遅れて、水柱が立ち上がった。


「あー……思ったよりも硬かった」

「構造を見る限り、光魔法ではなく土魔法と闇魔法を使っての防御結界だな。珍しいアプローチだが、視界と強度を考えればなかなかいい選択ともいえる」

「そっか、闇魔法の防御効果で光魔法の効果が軽減されちゃったんだね」


 二人はそんなことを話しながら、そっと海を見る。吹っ飛ばされ真後ろに倒れ込んだ店主は何が起きたかわからず茫然とした様子で水面に浮かんでいる。


「生きているな。思ったよりも有能な魔道具ではないか。デザインさえ別であれば購入を検討する」

「あ、ああ? うん? 何が……?」

「ごめんね、僕も見くびってた。思ったよりもいい結界だったよ」


 茫然としている店主だが、実際凄い。なにせ、本気ではないとはいえレイドボスであるウィルドの一撃を生き残れるだけの魔道具を所持していたのだ。あと、ジルディアスが素直に褒めるのは割と本気で褒めている場合が多い。嫌味の場合もあるけど。


 ともかく、結構いい魔道具だったのだろう。周囲の人間に助けられ、びしょぬれの姿で港に上がった店主に、ジルディアスは問いかける。


「フロライトの金貨でいいか?」

「……フロライトの金貨を支払ってくれるのか? アレはずいぶん金の比率が高いと聞いたが……」

「宿では質の悪い金としてしか使えなかったがな。いくらだ?」

「あー……障壁破られたんだ、1個はただで譲らせてもらう」

「なら、マシなデザインのものを一つ頼む。これは服代だ」


 ジルディアスはそう言って金貨を2枚店主に投げ渡した。びしゃびしゃになってしまった服の代金なのだろう。店主は少しだけ自信を無くしたように肩をすくめながら、ジルディアスに商品を見せる。


 ウィルドも楽しそうに魔道具のお守りを見てから、店主に言う。


「ここの回路、繋ぎ変えられる? こっちの刻印をちょっと移動させたら、回路の循環よくなると思うよ?」

「ほう……あー、確かにそうだな……別のペンダントの図案をそのまま流用しちまったのが悪かったか……」

「もしや、商品は貴様が作ったのか?」


 ウィルドの提案に頭をかきながら言う店主。そんな店主に、ジルディアスはヒクリと眉をひそめた。確かに、口ぶり的に店主が作ったっぽいな。

 赤茶色の髪の毛の店主は、小さくため息をついて答える。


「ああ、そうさね。超一流の錬金術師のアレンだ。ソフィリアで錬金術を学んで、流れの魔道具屋を営んでる」

「ほう……」


 ジルディアスは少しだけ感心したように言う。なんかこう、自己紹介で自分に対して超一流とか言っているけど、この外道勇者を見てからそれくらいならまだ控えめな自己紹介かなと思えるようになってきてしまっている俺がいる。


 というか、錬金術師か……できれば勉強させてほしいな。せっかく両手が使えるんだし。


 そんなこんなで、俺たちは適当な店で食材を購入し、ついでにミールボックスの注文をしてから宿に戻った。飲食店がほとんどないの、結構不便なものだな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。ありがとうございます。一気に惹き込まれる作品でばーっと読ませていただきました。裕次郎とジルの掛け合いが楽しく、成長していっているウィルドが可愛いです。展開も台詞回しもキャ…
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