82話 両刀リョナラーNTR好きドS変態クソ野郎
前回のあらすじ
・街中の宿を探したが、貨幣が使えなくて結局門のそばになった
・恩田「昼飯どうする?」
・ジルディアス「次は殺す……!」
久しぶりにジルディアス並みのヤベえ奴に出会った直後。ウィルドが人型に変形したため、俺は聖剣の姿に戻った。
『何だったんだアレ』
「さあな。おおよそ不審者の類だとは分かるのだが……」
『アレを不審者でくくっていいのか? なんかこう、変態の類だろアレは』
肩をすくめて返事をするジルディアスの言葉に、俺は小さくため息をつく。ぶっちゃけジルディアスに何回もへし折られていたり、ウィルド戦で体が削り折れるような感覚を知っていたから、さほど騒がず悲鳴を上げずに対処をできたが、一般人はあの黒い剣で腹を刺された時点で死んでいる。
『つーか、重力魔法で俺を巻き込むなよ。普通の人間はアレで死ぬからな?』
「あの不審者を殺せなかったから意味はない」
『いや、俺が怪我したって文句言ってんだけど』
内臓がつぶれる音はしばらく聞きたくない気分である。つーか、普通の人生送っていたら、内臓がぐちゃっとなることは基本的にないはずだ。あってたまるか。
人の姿になったウィルドは、楽しそうに街をきょろきょろと見回しながら歩いている。小さくステップを踏んでリズムを刻んでいるらしく、ただ歩いているだけなのになぜか踊っているようにも見えた。
歩いているだけなのに楽しそうに鼻歌を歌うウィルドは、その場でくるりと回転しながら、ジルディアスに問う。
「早くご飯食べに行こう? 久々に君以外の兄弟にあえて、ちょっと楽しいんだ。扱いはちょっとだけ雑だったけど、切れ味は堕ちてなかった」
「……待て、お前の兄弟だと?」
『へ? 何て?』
いい剣だったね、と続けるウィルドの台詞に、ジルディアスと俺は思わず表情を引きつらせる。ウィルドの兄弟……つまるところ、材料に神の背骨が使われた、俺以外の聖剣と言うことだ。
聖剣の所有者がいた? どこに?
俺たちの質問に、ウィルドは首をかしげて、答える。彼が首を傾げた動きで、長いウィルドの髪がさらりと風に流れた。
「? さっきの人が持ってた剣だよ? 黒色の」
「……アレはおおよそ魔剣の類に見えたが。少なくともこいつ以上に」
『俺を基準にすんのやめてもらえる? 俺別に、見た目はちゃんと聖剣だろ?』
ジルディアスの言葉に、俺は思わず言い返す。脳裏によぎるのは、俺の腹に突き立てられたあの黒の剣。流石に俺はあそこまで禍々しくはないはずだ。つーか、汚れはちゃんと消えるから、柄が血でべったり、とか、そう言うのは絶対にならないはずだ。
とりあえず、ウィルドの言葉が正しいとして、アレが聖剣なのだとすれば、持ち主のあの不審者兼変態野郎は勇者なのか? マジで?
『……ヤベえ勇者もいるもんなんだな。お前くらいかと思ってた』
「よし、死ね!」
『酷え!!』
素直に漏れた俺の感想。ジルディアスは額に青筋を浮かべ、剣の状態の俺を容赦なくへし折った。人になれる奴をここまで気前良く折るなよ!!
ジルディアスらが魔王城へ行くための船を予約するため移動していた頃。彼等を襲撃した男、ゲイティスは、小さく舌打ちをして適当なあばら家の屋根に腰を下ろした。
「クソ、遊ぶ金をかっぱらおうと思ったのに、ヤなのにあたっちまったな……」
赤黒い髪の毛をわしわしとかきながら、ゲイティスはそう言って不機嫌そうに舌打ちをする。そう、仮にでも第55の聖剣の所有者である彼は、強盗を働こうとしていたのだ。
金は奪えなかった。ついでに、楽しかったせいで入れ墨も見られてしまったかもしれない。新鮮な悲鳴や返り血が浴びれるかと思ったが、そうでもなかった。その上、魔法で串刺しにされかけた。まさしく踏んだり蹴ったりな気分である。……もちろん、100:0でゲイティスが悪いのだが。
あれだけ抉ったのにもかかわらず、血液ひとつついていない穢れた聖剣を少しだけいぶかしみながらも、ゲイティスはスッと目を細める。そして、愉悦の笑みを口元にたたえた。
「丈夫そうなのが一人いたな……せっかく俺ちゃんが刺してやったのに、悲鳴もあんま上げなかったけど……でも、痛覚が死んでいるわけじゃねえな」
くっと持ち上がる口角。残忍な笑みを浮かべたゲイティスは、楽しそうにあの男を……つまるところ、人型に変形した第四の聖剣を……ズタボロに殺すところを想像する。
「散々痛がらせて泣きわめくところが見たいな。抵抗させて、抗わせて、心折れるまで追いかけっこしてから、解体するか。ってか、自前で回復魔法使えるっぽいし、死ぬ気で回復させて死ぬまで遊べるってことか……! 俺ちゃん、もしかして天才か? いや、元々天才だったわ」
カチャカチャとコートの内側に縫い付けた武器を弄びながら、ゲイティスは心底楽しそうに独り言をつぶやく。当然、聞くものも答えるものもいない。しかし、彼はそれで構わなかった。
トタン屋根を指で軽くコツコツと叩く。くだらない下品な妄想をしながらも、ゲイティスは天才を自称するだけあり、これからの犯罪計画を練っていた。
__クソ入れ墨のせいで、神殿に逃げ込まれると詰むんだよなァ。移動方向的に、港に向かってた。反射的に使った魔法が光魔法かつ武器の不携帯……後衛の光魔法使いってところか?
そこまで考えたところで、ゲイティスはふと、あることを思い出す。
「待てアイツ、魔法の発動不携帯だったな……?」
第四の聖剣は指輪をつけてはいない。腕に入れ墨のようなものが見えたが、あの手の刻印が刻まれる罪状をゲイティスは思い出せなかった。しばらく考え込み、そして、ゲイティスはあることを思い出す。
「そういや、ちょっと前に錬金術師をぶっ殺したときの本にあんな図案があったな。なんつったか……発動体生成……刻印……あー、思い出した、威力増強永続型刻印か。……ヤベエ物腕に刻んでんな、アイツ」
暇だったため、錬金術師を殺したついでに屋敷にあった本を読んでいたゲイティスは、第四の聖剣の腕に刻まれている刻印の危険度を思い出す。刻印失敗で破裂するタイプの刻印だ。そんなものを腕に刻んで、もしも失敗したら……想像に難くはない。
喉の奥から、クツクツと笑い声が漏れるのを自覚する。
自分の腕に、爆発の可能性のある刻印を施す。成功すれば、魔法の発動体なしで魔法を行使することができ、武器破壊や収奪による害は起こりえない。しかし、もし失敗すれば? もし書き損じれば? もし、何らかの理由で刻印をゆがめられてしまったら?
ゲイティスの脳裏で、第四の聖剣の腕がはじけ飛ぶ様子が容易に想像できた。表面だけではない。骨ごと砕け破壊されることだろう。単に剣で切り落とされるよりも酷い痛みを伴うことだろう。__いくら魔法で治せるとしても。
「へェ? 思ったよりイカレてんな、アイツ」
背筋がゾクゾクと震えあがるような愉悦が、ゲイティスを満たす。
なるほど、何度か失敗してでも腕に刻印を入れていたなら、あの一撃で死なず、絶叫を上げなかったことも理解できる。痛みに対する耐性があるのだろう。それでも、痛覚が無いわけではない。それは、それは、好都合だ。痛みのショックで死にはしないということなのだから。
そして、一つのことを思いついて、より楽しそうにトタン屋根をコツリ、コツリと叩く。
図案は覚えている。スキルはないが、刻印の仕組みは錬金術師を殺したついでに読んだ本で学んだ。そして、成功例も見ている。
「刻印の仕方は覚えてるし、適当なやつに刻印してみるか。……成功しないように、ちゃァんと手加減しねえとなァ?」
残忍な笑みをたたえたゲイティスは、そう言ってぼろい屋根から移動した。……新たな犠牲者を作り出すために。
「ああ、あと、何だったか、アイツが庇ってたやつの名前……ジルディアス……? どっかで聞いた気がしたんだが……アレよりもアイツの方が面白そうだからな……強くて殺されそうだし、先にヤっとくか」
ジルディアスもまたそこそこ上質そうな獲物であったような気がしたが、最高の獲物を見てしまえばそれもかすむ。狩りにくい獲物も確かに燃えるが、こっちが殺されかねないなら面白くない。一方的な方が楽しいのだ。
そんなことを考えながら、ゲイティスはたまたま近くにいた浮浪者を一人捕まえると、邪悪に笑んで、彼の足をへし折り、逃げられないように路地裏に転がした。
__数分後、すさまじい絶叫とともに炸裂音が路地裏に響き、そして、消えた。