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77話 海ってテンション上がるよね

前回のあらすじ

・恩田「レベル上げムズイ」

・ジルディアス「流石に同情する」

・ウィルド「人型になれてよかったね」

 さて、人間になれるようになった俺だが、基本的には聖剣の姿のままである。理由としては、単純に体力がないため、結構移動速度の速いジルディアスに追いつけないためだ。あとは道中に現れる魔物に俺だけワンパンされる。


『こう見ると、二人ってやっぱ強いんだなー』

「当たり前だろうが。俺を何だと思っている」

『ん-? 外道?』

「……捨てていくか」

『うるせー、俺は呪われた装備だから、強制的にお前のところに戻るっての』


 くだらないことを言いながら、俺たちはひたすら歩き続ける。なんでも、次の町は海のそばにあるらしい。ウィルドは体が錆びそうだと嫌がっていたが、魔王の城は浅い海を越えた先の大陸の先頭に存在する。


 海を挟んで向こうにある魔王の居城は、その陸地に上陸するとまず、不浄な結界が行く手を阻む。その結界は、勇者とその仲間しか通れず、まずはそこでふるいにかけられる。

 続いて、北の大陸に存在する魔物たちによって行く手を阻まれる。超高レベルな敵が次々と襲い掛かってくるのだ。普通の勇者ならまず死ぬ。そうやって戦い抜いて、ようやく魔王の城にたどり着く。

 つまり、次の町が魔王の侵略を防ぐ最前線なのだ。


『ちょっとだけレベル上げしたいなー』

「いきなりどうした」

『いや、だってさ、せっかく海のそばの町なんだぜ? 美味しいもの食べたいじゃん』


 海のそばなら、魚とか美味しいものがたくさんありそうだ。日本みたいに刺身とかああいうのが無いにしたって、異世界の海鮮料理が気にならないわけがない。サンドとかめちゃくちゃおいしそうだったしな。


 聖剣としての役目を終えたら、一回くらい旅で訪れた町をゆっくりめぐりたい。その時に味覚のあるなしで大分旅の内容が変わると思う。どうせならいろんな国の食事を食べたいし、ジルディアスが立ち寄らなかった町にもいってみたい。


 そのためにも味覚を取り戻したいのだが……

 そんなことを考えていた俺に、ジルディアスは首をかしげて問いかける。


「味覚の話か……そもそも貴様、剣の状態で痛覚も聴覚も…おそらく視覚もあるのだろう? ならなぜ味覚だけがないのだ?」

「そう言えば、そうだね。ねえ四番目、君ってどうやってものを見ているのだい?」


 首をかしげて俺に問いかけるウィルド。確かにそうだな。俺、気が付いたときにはガラス越しに自分の姿を確認できていた。ジルディアスの声や周りの音が聞こえるあたり、聴覚も正常に働いているはずである。

 どうせなら味覚も一緒についてきたらいいのに。


『気が付いたら見えていたからな……どうやってとか、特に意識してないかもしれない』

「そっか……魂の素体が人間だから、元々出来たんだね」


 少しだけ感心したように言うウィルド。彼はレベル依存で五感を手に入れたのだろう。俺にとっては五感があるのが当たり前だったから、剣の姿でも見たり聞いたり話したりできるのが普通だと思っていた。

 そりゃ魔剣呼ばわりされるよな、よく考えれば、普通の剣はしゃべらないし、ものだって見えない。


『でもまあ、せっかく人になれたんだし、俺もやれることはやりたいなー』

「現実を見ろ。貴様弱者どころの騒ぎではないだろうが」

『そりゃそうだけどさー。できることが増えるって楽しいぜ?』


 割と冷たいジルディアスに、俺は言う。歩けるし、しゃべれるんだぜ? 俺凄くない?


 しかし、何故か俺の言葉に、ジルディアスはそっと押し黙ると、目を逸らして前を見る。そして、露骨に話を逸らした。


「次の町は、神殿の権威が強い。よって、ウィルド、お前は絶対にぼろを出すなよ?」

「わかってるよぉ」

『心配しかねえな』


 楽しそうに歩くウィルド。今は誰もいないため、足は馬の脚であり、背中には翼が生えている。そっちの方が楽であるらしいが、俺からしてみればそんな駆動部分が多いと魔力を無駄に使いそうだという感想しかわかない。


 ちなみに、ジルディアスは馬の状態のウィルドの背に乗れば、そのまま落馬させられると分かっているため、乗るような真似はしない。暴れる闘牛の背に乗るほうがまだ簡単なのだ。


『そう言えば、ウィルドって海を見たことあるのか?』

「ん? 知識はあるよ。塩分濃度の高い水が大量にあるのだろう? 水の成分が川や地下水、湖とは違うから、特殊な生態系があるらしいね」

「貴様は見たことがあるのか?」

『うん、まあ。俺、島国の人間だったからなぁ』


 もちろん、家のすぐそばに海があったというわけではない。しかし、夏には海水浴に言っていたし、旅行で海辺に行くこともあった。流石に異世界の海には行ったことはないが。


 海鮮丼は結構好きだから、どうせなら魚の生食文化があると良いなぁ。別に腹壊しても復活で何とでもなるから、俺だけ生魚食べても別にいいけど。

 つーか、それなら、俺って実はフグの肝が食べられてたりするのかな? うまいって聞くけど、猛毒だから普通食えないんだよな。死ぬってわかっていてもアンチポイズン取れたし、一回くらい食べてみたい。


 そんなことを考えていると、木々の切れ目から、煌めく水面が見え始めた。

 ウィルドが小さく歓声を上げる。


 さざなみの音が聞こえてくる。はるか遠くの水平線はキラキラと輝き、さざなみの白が揺らめいては消えた。潮風は木立を揺らし、吹き抜ける。

 青が、揺らめく青が、はるか遠くまで広がっていた。


__海だ


 岩肌に波があたり、白波が泡立つ。少し遠くには漁船があり、そして、そこから延長線上に視線を動かせば、大きな港が見えた。


『すっげえ! 海だ海!』

「やかましいわ阿呆」


 テンションが爆上がりした俺とは反対に、ジルディアスはどこか浮かない表情をしている。浮かない、と言うよりは、複雑な、と言ったほうが正確なのだろう。

 広い広い海。港の奥には、随分大きな建物があるのが見えた。高い円錐の屋根は水晶かガラスでできているのか、透明で眩しい海辺の太陽の輝きで白く蒼く輝いている。三角錐のてっぺんには、二重丸のエンブレム。どうやら、アレは神殿であるらしい。


 ジルディアスは深くため息をつくと、俺たちに言った。


「悪いが、次の町では、俺のミドルネームは絶対に口にしないでくれ。できれば名前も読んでほしくないくらいだ」

「じゃあ、いつも通りジルって呼ぶね」

『え? 俺もジルって呼んだほうが良い?』

「魔剣は俺の名を呼ぶな。ウィルドはそのままでいい」

『ひどくね?』


 神殿嫌いなジルディアスだが、何やらあるらしい。彼は眉をしかめながらもそっとつぶやくように言った。


「厄介なことになる前に、さっさと街をぬける。いいな?」

「はーい」

『おっけー』

「桶?」


 俺の気の抜けた返事に、ジルディアスは首をかしげる。あんまり気にしなくてもいいぜ? 特に意味ないから。


 こうして、俺たちは聖イリシュテアに足を踏み入れた。

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