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72話 救国の花と罪の清算

前回のあらすじ

・アーティ「ギリギリ人のままだった」

・サクラ「普通、深度3まで行った魔王の呪いは祓えないわ」

・ジルディアス「聖剣がスキルを持ってるだけだ」

 アーティが作り、アリアが打ち上げた花火は、大きな大輪を咲かせ、あたり一帯に浄化の光を与えていく。

 淀んだ気配は光によってかき消されていき、戦いの余波で破壊された中央広場以外は元に戻る。力尽きたアーティは、すっかり砕けてしまったタイルの上に横たわる。


「あー、何もしたくない……でも、とりあえず自警団のところに自首しに行かなきゃな……」

「自首……?」


 困惑したように声を上げるサクラ。その時だった。


「こっちです、アーティさんが……!」


 澄んだ女性の声が響く。慌てて俺はそちらの方を見る。

 すると、何度も転んだのか、膝のあたりが破れたワンピースを着た桃色髪の女性。取れかけたリボンで、彼女がウリリカだと気が付いた。

 あんまりな様子に、流石のアーティも驚いたように目を丸くし、問いかける。


「どうしたのソレ?!」

「その、アーティさんに言われて、すぐに騎士団の詰め所に行こうとしたら、凄い人ごみで……何回も転んじゃったんです」


 乱れた髪を結びなおしながら、ウリリカはそう答える。その言葉の通り、数名の騎士がこの滅茶苦茶になった中央広場を茫然と見ていた。


「大丈夫でしたか、アーティさん! その、中に黒色のぶよぶよしたのがいたところまでは見たのですが、怖くなってすぐに外に逃げちゃって……」

「いや、逃げてくれてよかったよ。すぐ後にボクもやられちゃったわけだし」


 アーティはそう言うと、肩をすくめて自分の腹部を指さす。丈夫そうな服は背中から腹にかけてざっくりと貫通した形跡がある。これでよく死ななかったな。


 ウリリカに呼ばれてこちらに来た騎士団の団員は、困惑したように勇者と俺たち、そして、アーティを見比べた後、地面に倒れているアーティに声をかけた。


「すまないが、事情を話してもらってもいいかい?」

「話す話す。ただ、ちょっと今は動けないから、運んでもらえると嬉しいな」


 力なく言うアーティ。

 空にちりばめられていた光の粒は、風にさらわれてその粒子を失っていく。都市を覆いかけていた瘴気は既に消え去っていた。




 たっぷり詰め所で事情を話し、調書を取りきったころには、既に日は沈んでしまっていた。

 時を見計らってこっそり人型に戻ったウィルドとともに、詰め所を先に出るジルディアス。


「遅くなってしまったな」

『別にいいんじゃないのか? ウィルたちはまだ詰め所だろ?』

「それもそうだな」


 ジルディアスは、「詰め所など長く居たくもない」とつぶやきながら、指輪に手を伸ばす。残念なことに、サンフレイズ平原では思うように武器が購入できなかったため、武器のストックはそこまではない。


「晩御飯、どうするの?」

「この時間だと、酒場も開いていないかもしれんな……手持ちのチーズとパンだな。明日の朝美味いものを食べるぞ」

「何食べよっか。僕はあのぱりぱりしたやつ、また食べたいな」

「パリパリしたやつ……? ああ、サンドの添え物か……あんなのでいいのか貴様」


 あきれたように肩をすくめるジルディアス。しかし、ウィルドはずいぶんうきうきしたように夜の道を歩く。月明りと魔道具の明かりによって、俺たちの影は複雑に伸びて揺れる。ふと、ウィルドの影がずるりと動く。


「人が見てないし、いいよね、ジル」

「ああ、構わんだろう。好きなだけ羽根を伸ばせ」


 投げ渡された革のジャケットを受け取り、ジルディアスはニッと笑って気前よく言う。その言葉通り、ウィルドは背中から羽根を生やした。なるほど、文字通り羽根を伸ばすだな。

 そんな他愛もない話をしながら、俺たち三人は中央広場に足を延ばす。


__することは、既に決まっていた。許可もとっているし、()()()()()()()()()()()


 俺たちは、まっすぐに中央広場……には行かず、側の路地を曲がり、とあるビルの裏手に回る。ウィルドはニコニコと笑顔を浮かべながら、翼をフクロウのような音を立てないものに変形させ、ふわりと広げた。


 音もたてずに空へ舞い上がったウィルドは、両足を猛禽類のそれに変える。上から落ちてきたブーツに、ジルディアスは面倒くさそうに表情を歪めると手に持っていた革のジャケットと一緒にまとめ、路地の隅に隠すようにしておいて置いた。


 そして、ジルディアスも月夜の輝きに目を煌めかせながら、俺を引き抜く。


『どうする? 武器のリクエストあったら聞くけど?』

「そうだな__どうせ向かってきたものは皆殺しなのだ。何でも構わん」

『じゃ、ちょっと珍しいやつで』


 最近、ウィルドを見て、俺も人間になれるのではと思い変形の練習をして来た。だからこそ、滑らかにその刀身を変貌させた。

 片刃の、刃の部分に櫛のような均等なくぼみのある、特殊な形。武器を破壊することが目的の、非殺傷性の比較的強いその剣を見て、ジルディアスは薄く笑みを浮かべた。


「なるほど、ソードブレーカーか。俺のオリジナルスキル(武器の破壊者)とかけたか?」

『いや? 俺は人を殺すのに使われたくないけど、今回の戦いには参加したいからな。どうせお前は怪我をしないだろうし、変形するならこれかなって思っただけだ』

「そうか。なら、もう一本用意するか」


 ジルディアスはそう言って指輪の倉庫からショートソードを取り出す。使い捨て用の刃を片手に、ジルディアスは聞こえてきたいさかいの声と急ぐ足音に凶悪な笑みを浮かべた。うわぉ、すっごい悪役面。


 声のするほうへ、ジルディアスはつかつかと歩み寄る。


「だから俺は言ったんだ、殺すなら裏ギルド使えって!!」

「馬鹿野郎、支部長からちょろまかした金はお前が酒に使ったんだろうが! いいからとっととそっち持て!」


 男二人はいさかいの声を上げながら、大きな金庫を二人がかりで担ごうとしている。他にも高級そうな絵画や筆、画材などを表に停めているはずの馬車に運ぼうと四苦八苦しているようだ。


 そんな二人に、機嫌よさそうに笑顔を浮かべたジルディアスは問いかける。


「ほう、こんな夜中に引っ越しか? 忙しいことだな。手伝ってやろうか?」

「?! 誰だ!!」


 男二人は、ひきつった表情で怒鳴る。

 __月明かりが、天高く伸びるアパートの隙間から差し込む。月光が、ジルディアスの赤の瞳を不気味に照らし煌めかせた。


 にこりと笑んだジルディアスは、不敬な男の問いかけに堂々と答える。


「俺はジルディアス=R=フロライト。第四の聖剣の勇者にして、原初の聖剣ウィルドと友誼を結ぶ者」

『え? お前とウィルドって友達だったのか?』

「黙れ魔剣、今いいところだっただろうが」


 小声で舌打ちをするジルディアス。上を見てみれば、半ば巨大な猛禽類になりかけたウィルドが、「友達、初めてできた!」と言わんばかりの表情で目を輝かせている。やめろ、ちょっと罪悪感あるから。


 ジルディアスは腹いせに俺を近くの壁に叩きつけてようと振りかぶる。あっ、やめて、櫛みたいに凹凸があって不安定な形だから、割とデリケートなのよ?

 ふざけている暇もなく、壁に向かってフルスイングされた俺はあえなく砕け散った。ごめんて。


『痛え……』

「自業自得だ、たわけが」


 ジルディアスはそう言って舌打ちをすると、魔力を俺に流し込む。適当に復活をして、俺は元の姿に戻った。痛み的には容赦なくバックブリーカーされたような感じである。いや、生前でもバックブリーカーなどされたことはなかったが。


 鈍く残る腰の痛みを抱えながら、俺は前を見る。

 男二人は怒りの形相を浮かべ、武器を構える。手前の男は一般的な長剣、もう一人は短剣だ。ぱっと見飾りが多いため、魔法の発動体としても使えそうだ。


 先に動いたのは、長剣を振りかぶった青髪の男。それなりに戦闘慣れしているのか、一気にジルディアスに向かって間合いを詰めた彼は、鬼気迫る表情で長剣を振り下ろす。


 しかし、その振り下ろしに合わせ、ジルディアスは俺を横なぎにふるう。


 ばきゃん、とも、がきゃんとも聞こえるような、鈍い金属音が響き渡る。


「ひっ……?!」


 青髪の男は、悲鳴を上げてしりもちをつく。その右手には、へし折れ砕け散った長剣。安物だったのか、長剣は俺がひと撫でしただけで砕けたのだ。


『ひゅう、すげえな』

「バフが乗りやすい。いいな」


 ジルディアスはそう感想を言いながら、右手で持っていたショートソードで青髪の男の首を容赦なく刎ね飛ばした。

 その様を見ていたナイフを持っていた男は、悲鳴を上げて路地の奥へと駆け出す。ジルディアスは頬に返り血をつけたまま、ニッと不敵に笑む。


『あれ? 追いかけなくていいのか?』

「俺は追いかけなくていいだろうな。__ウィルドが行った」

『わあ、ご愁傷様』


 音もなく飛び立ったウィルドは、ナイフを持って路地の奥へと逃げ出す男にあっという間に追いついた。そして、猛禽の足で男の頭をつかむ。情けなく悲鳴を上げ、涙をこぼす男。無茶苦茶にナイフを振るうが、原初の聖剣であるウィルドを傷つけることはない。


 ウィルドは慈悲深い笑みを浮かべ、言う。


「ごめんね、君に恨みはないけど、世界を滅ぼす可能性のある魔王の繁殖は看過できないんだ」

「ば、化け物……!」

「じゃあね、人間」


 悲鳴を上げる男。そんな彼に、ウィルドは容赦なく足に力を籠める。次の瞬間、男の頭蓋は圧迫に耐え切れず、砕けた。

 醜い悲鳴が途切れる。入り組んだ排水管から漏れる水滴の音と、タイルの床に静かに広がっていく赤色の液体。路地に一人、哀れな死体を残し、ウィルドは翼を広げた。__ジュエリア商会の裏口で待機する、ジルディアスと合流するために。


 現在、ジュエリア商会は騎士団による強制捜査を受けている。表の入り口を騎士団が、裏口から逃げようとする不届き者をジルディアスが始末する算段なのだ。


 正直なところ、ジルディアス一人で商会程度制圧できないわけでもないが、騎士団には裏切り者がいる可能性がある。それをあぶりだすためにも、ジルディアスはあえて裏口の待機を選んだのである。


 ジルディアスは、喉奥でクツクツとこらえきれないように笑い声をあげる。クッソ悪役っぽいな。


「想定よりも早く、八つ裂きにしてやりたい男が来たな」

『うわぁ、マジドンマイ』

「まじどんまい……?」


 俺の言葉が理解できなかったのか、首をかしげてオウム返しにするジルディアス。そして、裏口から男が飛び出してきた。

 その男は、都市の防護結界の不備を伝えたとき、ジルディアスに対して適当な対応をした、守衛の男であった。


「こ、こっちは一人だ! 逃げるなら裏口から逃げ__」

「残念ながら、こちらは三人だ。ついでに、貴様らごとき何百人集まろうと、俺一人殺すことはできないだろうな」


 男の言葉を途中で切り、ジルディアスは容赦なく男の喉仏をショートソードで切り裂く。


 男は悲鳴を上げることもできず、その場で絶命した。

 裏口の奥から聞こえてくる、複数の足音と怒号、悲鳴。ジルディアスは、隠すことも無く高笑いをすると、血と脂に濡れたショートソードを片手で砕いた。


「最後に餌をまいたことだけは褒めてやろう。__都市を一つ陥落させる危険性を孕んだものを作った罪、ここで清算するがいい」

「次なる魔王を増やそうとした罪は重い。死をもって許す慈悲を喜びなよ」


 ラスボス二人はしたたかに笑む。長い長い夜は、明けるまでにいくつもの命を燃やして消した。

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[一言] オーバーキルにすぎるw しかし格好いいなあこの3人
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