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56話 最終決戦:人類の敵 原初の聖剣【ウィルド】

前回のあらすじ

・原初の聖剣戦

・恩田裕次郎が復活のスキルを成長させることを選ぶ

 金の光に変わって消えていく、ウィルドの剣。俺と同じく聖剣だからこそ、ああなっているのだろう。想定外の切断力に、ウィルドは茫然とした。

 だが、それに対して、ジルディアスは小さく笑い声をあげる。


「ふはははは、おい魔剣、何ださっきのは! 最っ高ではないか!」

『いろいろあって、復活のレベルが上がった。だから、折れる前に復活を繰り返しただけだ!』


 復活スキルを連続使用することで、疑似的にMPさえあれば折れない剣になったのだ。

 原初の聖剣であるウィルドの前では、どんな武器でも耐久力も質も足りなくなる。本来なら、成長した聖剣で戦うのが正解なのだろう。でも、俺は成長なんざできないし、ジルディアスも勇者を始めてから一か月たっていないから、成長のしようがない。


 ジルディアスの武器庫には、無尽蔵ともいえるような量の武器が入ってはいるが、もうすでに底が見えかけている。

 こいつが死んだら俺がどうなるかなど、知らない。でも、少なからず、こいつが死んだら俺は後悔する。だから、人間になる機会を捨ててでも、復活のスキルを成長させることを選んだ。


 どうせ光魔法のレベルが上がったところで、俺の腕じゃウィルドにダメージを与えることなどできない。バフなんてあってもジルディアスの【武器の破壊者】に比べれば誤差のような物である。

 俺の弱さは、俺自身が一番よく理解している。無理に決まってんじゃん、俺が原初の聖剣に勝つとか。スキル二倍のチート持ってたって、勝てるビジョンゼロだし。


 人間になれる機会を捨てるのが惜しくないかと聞かれれば、そんな訳はない。めちゃ惜しい。人間になりたいし、1ミリも使ったことのない錬金術とかやってみたいし、街歩きしたいし、美味しそうなご飯だって食いたい。


 でも、その欲求を優先させて、後悔するのはあまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。


 焦げ臭い草原の、黒く炭化した葉っぱが、強い風にさらわれて巻き立つ。俺は、深く息を吐いて、大声でジルディアスに言う。


『お前のMPが尽きなきゃ、俺は折れねえ! 後はジルディアス、てめえの技術次第だ!』

「は、ははははは!」


 俺の言葉に、ジルディアスは笑いがこらえきれない。

 技術? 元近衛騎士団団長であり、勇者に選ばれるだけの才能を持つ、ジルディアス(この男)に対して? 片腹が痛いどころの騒ぎではない!


 聖剣がなったのは、破損しない武器ではない。実際、己のステータスはあのひと振りで跳ね上がった。壊れても、壊れても、直る武器になったのだ。壊れた側から直るため、実質的に折れていないだけである。


 技術と敵に見合う武器が今、手に入ったのだ。

 赤色の瞳が、愉悦に歪む。


「腹立たしいが、聖剣、お前を認めてやる。お前は使える駄剣だ!」

『何で最後に嫌味をつけるのさ?』

「褒めてやっているのだろうが、黙って喜んでいろ」

『わあ、横暴だ』


 確かな勝機に、ジルディアスはその笑みを深くする。

 吹き抜ける風が、ひりつく緊張感を攫って行く。突き刺さるような殺気も敵意も、ジルディアスの不敵な笑みと不遜にも思えるような自信を前に、意味をなさない。


「__負ける気がしないな」


 紅い瞳が、まだ困惑から戻れないウィルドを写す。

 そして、ジルディアスは俺を握ると、戦闘を再開した。


 低空を飛行していた原初の聖剣。その首めがけて、ジルディアスは俺を振るった。

 表情を引きつらせ、ウィルドは慌てて聖剣を複製すると、その剣を使って俺を打ち逸らす。火打石を打ち付けたかのような火花が飛び散り、そして、細かく砕けた俺の金の輝きがあたりに広がる。


『やべえ、笑えて来るくらい痛い!』

「そうか! 俺は知らん!」

『だよな!』


 感覚としては、体をカンナでごりっとひと削りされているようなものである。削れても復活で直るには直るが、痛いものは痛い。いっそすがすがしいほどに笑顔で外道なことを言うジルディアスに、俺は思わず同意の言葉を返すことしかできない。


 とはいえ、復活できる俺は、今まで使っていた武器のように、ヒビが入ったり、壊れたりはしない。それ以上に特別性はほぼ皆無だが、ジルディアスにしてみれば、それで十分であった。


 防がれた直後、すさまじい筋力で剣を切り返す。

 左首に迫る聖剣。ウィルドは、それを腕で受け止めた。


「ぐっ……!」

「ふは、フハハハハハハハ!」


 まるで岩のように固いウィルドの腕。へし折れはしなかったが、流石に俺ですら切断はできなかった。

 しかし、ジルディアスは高笑いを上げながら、さらに距離を詰める。そして、右足でウィルドの腹部を蹴り飛ばした。肉と骨がぶつかり合う、重い音が響く。


「……っ!」


 小さく咳き込み、空へと逃げるウィルド。しかし、ジルディアスの追撃は止まらない。


「魔剣! 弓だ!」

『わかった! 【変形】!』


 即座に弓に変形する俺に、ジルディアスはナイフを番える。同時に、呪文を詠唱する。


「闇魔法第5位【ダークジャベリン】」


 空に逃げるウィルドの背に、闇の槍と弓で射られたナイフが飛ぶ。戦闘に使えない、もしくは使いにくい短さのナイフが弓で射られていく。

 原初の聖剣は、表情を引きつらせて、右手を軽く上げる。すると、地面が大きく揺れ動き、土の壁がウィルドを守った。目の前に現れた土の壁は、やがてジルディアスに向かって倒れてくる。


 降り注いでくる土砂に、俺たちはほぼ同時に怒鳴っていた。


「ここで折れるなよ、魔剣!」

『ここで死ぬなよ、勇者!』


 弓のままの俺をつかみ、ジルディアスは一気に壁の根元に向かって駆け出す。降り注ぐ土砂が、ジルディアスの退路を徐々に塞いでいく。


 すさまじい土埃に混ざり、哀れにも根こそぎ引きちぎられた草々がその生命を散らしていく。同時にジルディアスにも生命の危機が近づいているのだが、彼は全く気にせずに壁の根元に駆け寄ると、俺を振りかぶった。


剣術(ソードスキル)三の()、【両断】」


 短い言葉の直後、弓のままの俺が横なぎに振り抜かれる。すると、ウィルドが創り出した土壁に、一文字の切り跡が出来上がる。ジルディアスはその切り跡を蹴り飛ばし、壁を無理やり突破する。


『え? 何さっきの技』

「剣術のスキルだ。詠唱したほうが威力が出る」

『ってことは、詠唱しなくてもいいのか』

「正しくは、使わなくてもいい、だ。剣術くらいスキル(さいのう)に頼らずとも使えるべきだからな」


 土埃を体から払いながら、ジルディアスは言う。

 そう言えば、スキル選択の画面にも、剣術とか体術とかあったっけ。スキルなくても剣は振れるけど、スキルがあるほうが強力な技が使えるということか?


 土の壁から抜けだせた直後、壁は完全に崩壊した。

 ジルディアスは俺を構え、巻き上がる土煙の向こう側、晴れ渡った空を赤色の瞳で一瞥すると、ナイフを俺につがえる。


弓術(ボウスキル)一の()、【強撃】」


 短い詠唱の直後、一筋の光が空へと打ち上げられた。弓術の超基礎、ただひたすらに強い一撃を敵に食らわせるだけのスキルである。

 土煙によって紛れたその一撃は、ウィルドの右翼をあやまたずに射抜いた。


「なっ……?!」


 空を飛ぶ原初の聖剣へのすさまじい精度の一撃。ウィルドは思わず動揺の声を上げた。

 上空でバランスを崩し、地面へと落ちるウィルド。その隙を、ジルディアスは見逃さない。


「闇魔法第五位【ダークジャベリン】」


 即座に闇魔法を詠唱し、落下するウィルドに追撃する。

 陰から這い出た黒の槍が、一斉にウィルドに殺到する。死に体の原初の聖剣は、それを回避することができない。


「……クソ……!」


 ウィルドは悔しそうにその表情を歪める。

 次の瞬間、無数の黒の槍が、原初の聖剣の体を貫いた。


 一拍遅れて、地面に重たいものが叩きつけられる音が響く。

 ジルディアスは視線を俺に向け、無言のうちに何かを要求する。少し考えた後、俺は変形をして元の剣の姿に戻る。

 どうやら、それで正解だったらしい。ジルディアスは深く息を吐くと、俺を鞘に戻した。


 鞘と金属が擦れる、小さな音が響き、そして、すぐに平原の風にさらわれて、消えた。


__俺たちの、勝利だ。

【武器スキルについて】

 STOにおいて、聖剣は別の武器に変化することができる。そのため、それぞれの武器に応じた6つのスキルが存在する。基本的に、スキルがなくとも武器や技術を使うことはできるが、スキルを持っている者と持っていないものでは明らかに火力差がある。


 スキルは剣術、弓術、体術、槍術、斧術、棒術の六つであり、それぞれ得意とすることが違うが、スキルの名前は同一であることが多い(弓術の【強撃】と剣術の【強撃】など)。だが、扱っている武器が異なるため、同一の技名でも、スキルを持っていなければ技は扱えない。


 ちなみに、杖は棒術に相当するため、サクラは実は肉弾戦もできないわけではない。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジルディアスが一瞬だけ魔剣を聖剣と認めた瞬間結構、熱かった。 いや元々聖剣なのに魔剣と呼ばれる聖剣、なんかややこしいなw
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