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49話 お前らマジで余計なことしかしないじゃねえか

前回のあらすじ

・恩田「チーズめっちゃあるじゃん、ウケる」

・ジルディアス「ポイズンスネーク狩りにでも行くか」

・クーラン「あれ? チャレンジャー?」

 ジルディアスとクーランは、黙々と草を薙ぎ払いながらポイズンスネークを探していく。魔物は人の気配では逃げず、むしろ餌として食べようとする気があるため、いくら音を立てても問題はないのだ。


「見つけた。向こうだな」

「……ああ、そっちか」


 どうやら、今回はジルディアスよりも先に馬に乗っているため幾分視界が開けたクーランの方が獲物を見つけたらしい。遅れてジルディアスもクーランが指さす方向に獲物を見つけ、右手に持ったロッドを軽く振るい、周辺の草葉を払いのける。


 舞い上がる草の先には、胴体の部分が妙に膨れた大蛇がその巨体を地面に投げだしながら鎮座していた。枯葉混じりの地面に馴染む茶色の鱗は複雑なまだら模様で、なるほど、革細工をするならあの独特な模様は作品に個性を与えることだろう。


 しかし、不自然に膨れた腹を見たジルディアスは、嫌な顔をした。


「ついていないな、食事中だったか……」

「腹の真ん中まで来てたら、ほとんど消化されてるから肉も食えねえな」

「……毒蛇が喰らった肉を食うつもりなのか?」

「ん? いや、ポイズンスネークの毒は強力だが神経毒だから、肉自体は汚染されねえし」

「いや、そう言うことではなくてだな……」


 クーランの言葉に頭を抱えるジルディアス。彼自身も大して食に関して細やかなほうではないが、それでも衛生的にそれはどうなのだろうか。飢え死にしかけてでもいない限り、一度蛇に飲み込まれた肉など食べたいものではない。


 ちなみに、蛇の毒は口内に切り傷などがあると普通に死ぬ。とくに、ポイズンスネークは地球の蛇とは魔力的にも生態的にもヤバいタイプの強烈な毒を持っているため、毒も毒に汚染された肉も食べないほうが良い。よい子も悪い子もできればマネしないほうが良いだろう。

 ちなみに、ポイズンスネークの肉は強すぎる毒のせいで肉にも毒性が帯びているらしい。だから食べられないのか。


 ともかく、胃の中に死体がある状態であるため、相当面倒であるらしいが、駆除はしなければならない。


 緩慢な動きでゆるりと二人の方へと頭を向けるポイズンスネーク。緩やかな動きだがしかし、その鋭い刃の付いた尾は二人を警戒するように高く掲げられていた。


「頭を砕けばいいのか?」

「あー……蛇はしぶとい。しっかり砕けよ? 首を切っただけだと余裕で噛んでくるぞ」

「わかっている。皮は使うから、燃やせないのが残念だ」


 ジルディアスはそう言いながらも、容赦なくロッドを片手に呪文を唱える。ずいぶん魔力を込めたのか、ロッドの先が淡く発光していた。


「風魔法第1位【ウィンドカッター】、闇魔法第8位【グラビティ】」


 容赦なく放たれたウィンドカッターはたやすくポイズンスネークの首を撥ね飛ばし、そして、ついで詠唱されたグラビティでその頭は原型を失う。


 何が起きたかも理解できていないポイズンスネークの体は、失った頭を求めてしばらくうねうねと動いていたが、それでも、すぐに痙攣に変わり、やがて動かなくなった。


 ジルディアスの魔法を見ていたクーランは、首をかしげてジルディアスに問いかけた。


「えっ? お前本職は魔術師なのか?」

「いや、武器を使う方が好みだ。だが、今は……気分でないだけだ」


 一瞬だけ俺がいるポケットを見たジルディアスだが、すぐに目を逸らしてロッドを指輪に戻す。そして、解体用のナイフを取り出した。そっか、ゲームの世界じゃなく、ここは現実だ。とった獲物は解体しないとだよなぁ。


 鞘の付いた解体用ナイフをクーランに投げ渡し、ジルディアスは言う。


「俺が仕留めたのだから、貴様が解体しろ」

「へいへい。皮だけでいいか?」

「ああ、金には困っていないからな」


 肩をすくめて言うジルディアス。一応今日の狩りも、彼にしてみれば勘が鈍らないようにするための軽い運動程度のものである。しいて言うならば、シップロからポイズンスネークの皮を買うと言われているくらいだ。それにしたって依頼ではないため、義務はない。


 クーランは少しだけ肩をすくめたが、すぐに馬から降り、首を失ったポイズンスネークの解体を始めた。


「お、ラッキー。こいつ、共食いしてたっぽいな。腹に魔石が入っていた」

『うっわ、見せんなよ!』


 腹を掻っ捌いて、ポイズンスネーク一体あたりでの単価で最も値段の高い魔石をはぎ取るクーラン。そして、てきぱきと作業を続けていき、ふと、ジルディアスに声をかける。


「チャレンジャー、水魔法は使えるか?」

「使える。が、いい加減その呼び方は止めろ」


 ジルディアスは吐き捨てるようにそう言いながら、指輪から金属製のバケツを取り出す。そして、クリエイトウォーターで水をたっぷりと作り出すと、クーランに渡した。


 クーランは、そうか、悪かったなチャレンジャーとつぶやきながら、どろどろに汚れた手と解体用ナイフを水で洗った。さては呼び方を変える気がないな?


 内臓を取り出し、洗った後は次に、尻尾に取り掛かる。切尾鱗と呼ばれるその特殊な鱗は、生き物を切断することに特化した鱗である。皮を剥ぎ取る前に切り落としておかないと、余計な怪我の原因になる。


 高級品と言うこともあって、腹を裂いた後もナイフの切れ味は全くおちない。尻尾回りの鱗と肉をえぐった後、力を込めて尾骨を切り落とす。ごきんと言う音の後、切尾鱗はポイズンスネークから取り外された。


 切り離した切尾鱗は一度水でざぶりと洗った後、乾いた布でしっかりと水気を切り、最後に風魔法で乾燥させてから、丈夫な布でしっかりとくるんだ。切れ味が良すぎて、そのまま布の袋に入れると袋のほうがダメになってしまうからだ。


 尻尾の処理をした後は、最後の皮の処理だ。

 ざぶざぶと水を使い、血でナイフの切れ味が落ちないようにしながら、丁寧に皮を剥いでいく。


「頭が無くてよかった。首の近くにある毒のうは触るとかぶれるからな」

「ふむ……やはり、頭を潰すのが一番か?」

「そうだな。切尾鱗は鱗だからな。傷がついたら売り物にならねえ……お、もう一体あっちにいるな」


 クーランはそう言うと、槍を手に取り、投げる。

 放物線を描いた槍は、ドスッと重い音が鳴り、そして、一拍遅れて何かが地面をのたうち回る音が響いた。


『うおっ、なんだ?!』


 びちんびちんと何かが地面をたたく音が聞こえてくる。クーランはニッと笑うと、手早くポイズンスネークの皮を剥ぎきり、足早に藪に入って行く。


「まさか、一撃か……?」

「このくらいの距離なら余裕だろ」


 からっとした笑顔を浮かべ、言うクーラン。しかし、ジルディアスは眉間にしわを浮かべたまま、小さく舌打ちをする。


『どうしたんだ?』

「……投げ槍は基本、短槍で行う。が、アイツの武器は長槍だ。普通、狙ったところにあてられるわけがない」


 俺でも長槍での投げ槍は命中率が下がるぞ、とつぶやくように言うジルディアス。命中率が下がるだけで当てられるのか。


 数秒足らずで上あごから下あごを真上から貫かれたポイズンスネークを引きずってきたクーランは、まだ微妙に痙攣しているポイズンスネークを見て、少しだけ残念そうに口を開いた。


「地面に体を打ち付けているうちに切尾鱗が砕けていた。尻尾は売れねえな」

「そうか」


 言われるがままにクーランによって仕留められたポイズンスネークを見る。すると、確かに、ポイズンスネークの尻尾の鱗に大きなひびが入っていた。石か何かとぶつかって、砕けてしまったのかもしれない。


 ジルディアスは短くそれだけ言うと、バケツに突っ込まれていた解体用ナイフを手に取った。




 それから二人はしばらく黙々とポイズンスネークを駆除し続け、そして、ある程度村から離れたところでクーランが口を開いた。


「そう言えば、近くに翡翠の祠があるけど、見に行ってみるか?」

「別に、俺は興味がないな」

「そうか? よそから来た人たちは見たがる奴が多いんだが」


 あっさりとしたジルディアスの言葉に肩透かしを食らったのか、クーランは少しだけ驚いたようにそう言いながらも、馬上からの索敵を続ける。俺は見たいけどな。翡翠でできた祠なんて見たことないし。


「じゃあ、そろそろ帰るか。ポイズンスネークも狩れたし、長老たちの気まぐれで村が移動してたら困る」

「そんなに気軽に移動するのか……?」


 驚くジルディアスに、クーランはけらけらと笑いながら答える。


「ああ、俺たち遊牧民は風の民だからな。気分むくまま、風のおもむくまま、自由に歩き続けるんだよ。歩いて歩いて、死んだらそこで肉体がなくなる。

 だから、俺たち遊牧民には墓がない。俺たちは死んだら風になるんだよ。風になった先祖サマたちが、俺たちを導くんだ。だから、原初の聖剣はちっと可哀そうだな。封印されるなんて自由がなくて窮屈そうだ」


 クーランの熟れた小麦のような焦がれるような金の瞳に、同情の色が混じる。自由を愛する遊牧民は、神に反逆した刃にすら、自由がないからと言う理由で同情しているらしい。


 あっけらかんと言われた言葉に、ジルディアスは一瞬目を見開く。しかし、すぐにいつもの森羅万象を見下すあの目に戻った。……お前、少しは遠慮とかそう言うの覚えたほうが良いんじゃないか?


 光の消えた瞳で、ジルディアスは吐き捨てるように言う。


「自由、自由、か。__下らんな」

『おいバカ、何言って……!』

「……くだらない、だと?」


 民族性を否定され、クーランの額にピキリと青筋が浮かぶ。マジで何言ってんだ、ジルディアス?!

 怒りを隠せぬクーランが理解できなかったのか、ジルディアスは首をかしげてその赤い瞳をクーランに向ける。そして、口を開いた。


「個人に与えられる『自由』の量が貴様と俺では違う。立場も住む国も違うというのに、そんなことを言われたところで、俺にどうしろと言うのだ」

「……てめえに何かしてほしくて言っているんじゃねえよ」

「なら余計な口を開くな。他人の綺麗事(じろん)など聞きたくもない」


 剣呑な金の瞳と冷たい赤がぶつかる。

 何でこいつの機嫌が悪くなっているのかわからない。でも、確かにこれだけはわかる。


__このままだと、不味い。


 クーランは割と喧嘩っ早そうな方に見える。そして、ジルディアスは己に害を与えるものには容赦がない。殺し合いになったら、間違いなくクーランは死ぬ。

 クーランは、悪い人間ではない。むしろ、善人の部類である。そして、メタ読みではあるが、いいやつで顔が良いとなると、STOのストーリーに関わっている可能性がある。メルヒェインの英雄志望だし、マジでストーリーに登場してそう。ってか、してるだろ。知らないけど


 ともかく、俺はクーランに死んでほしくはない。そのためにも、ジルディアスを止めなければならない。どうしたらいい、どうすれば良い……?!


『おい、ジルディアス__』


 しかし、そんな俺の思考は、強制的に中断された。


「う、うわああああああ?!?!」


 男の絶叫の後、すさまじい地揺れが発生する。


「何だ……?!」

「うおっ?!」


 地揺れに驚いたのか、いななく黒馬を抑えるクーラン。声の方向を睨むジルディアス。


「声のした方に、何がある?」


 短くも、焦ったジルディアスの問いかけ。その問いかけに、クーランは答えた。


「ほかの遊牧民が近くに来たって話は聞かねえ。近くにあるのは、翡翠の祠だけだ……!」


 ストーリーは、既に進行していた。

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