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45話 おはなのうでわを買うだけ

前回のあらすじ

・レオン「俺も魔剣を持ってるぜ!」

・恩田「減給ドンマイ」

・シップロ「サンフレイズ平原最大の遊牧民族、メルヒェインです!」

 メルヒェインで止まった隊商。シップロたち商人は、突如訪れた商売のチャンスに飛びつき、しばらくはメルヒェインに留まることだろう。


 シップロ達の交渉の結果、隊商の荷馬車はメルヒェインのはずれに置かせてもらえることになった。メルヒェインは遊牧民であるという特質上、宿のような物はない。そのため、メルヒェインにいる間は荷馬車での寝泊まりがメインとなる。ジルディアスは休めなそうだな。


 商売に関係のないジルディアスは、村の散策をすることにしたらしい。衣服の入った重たい荷物を荷馬車に放置し、護身用のロングソードと財布を片手に、ジルディアスは散策に赴いた。


『すげえ……人多いな』

「ああ……家にいるよりも外にいる人間の方が多いのだろうな」


 村に出てまず最初に感じられたのが、外を歩く人の多さである。派手で色とりどりの着物のような裾の長い衣装、デールを身に纏った彼らは、楽しそうに日向ぼっこをしていた。


 長い裾であるにも関わらず、走り回って追いかけっこをする子供たち。その横では、母親らしき女性と老婆が家畜の羊から刈り取った羊毛で糸を紡いでいた。様々な色彩が町に溢れ、いっそ目がちかちかしてくる。


 遊牧民たちは派手好きであるのか、色合いも服飾も、目立つ色合いのものが多かった。その辺を走り回っている子供たちも真鍮でできた腕輪を嵌めていたり、糸紬の女性は指にいくつも銀でできた指輪をつけていた。


「指輪か……」

『何考えているのか薄らぼんやりわかったけど、女性にいきなり指輪を送るのは激重すぎるからな?』


 糸紬の女性の薬指にはめられていたシルバーの輝きに、ぼそりとつぶやいたジルディアス。チョイスは悪くもない気がするけど、指輪は止めておけ。どういう意図があっても重い。

 俺の言葉に、ジルディアスは不愉快そうに眉をひそめながらも、小さく舌打ちをして目を逸らした。こいつ、俺が言わなかったら指輪を買う気だったな?


 眩しい赤色と青色のテントを横目に、ジルディアスは草を払って急造した道を歩く。幾分歩きにくそうだが、それでも風魔法で無理やり道を作っていた時よりははるかに歩きやすそうである。


 道端に生えた花を摘んで、花冠を作る女の子。その隣で、見た目のいい平原の花でドライフラワーが作られていた。

 どうやら、赤色と青色の糸を交互に織り込んでチェック模様にしたテントでは、ドライフラワーの工芸品が売られているようだった。地球だとありえないような色彩の花が豪華にあしらわれたリースや、実用目的のハーブの編みこまれたリース、それに、かわいらしい髪飾りも数々取り揃えられている。


 そんな店の前で、ジルディアスは足を止めた。どうやら、婚約者に送るものを考えるらしい。


「ふむ、魔法で保護されたドライフラワーの腕輪か……破損しない程度の強度があれば、これでいいか……?」

『ああ、うん、送るならそっちの方がいいと思う。ちゃんと手紙添えろよ?』

「言われなくてもそれくらいする。……どれが良いのだ?」

『好きなの選べばいいんじゃね? 俺はこういうの選ぶの苦手だし』

「使えない魔剣だな」


 俺の返事に、ジルディアスはそう言って舌打ちをした。はー? 恋愛ポンコツ野郎に言われたくないんですけどー?


 しばらく悩んだ後、ジルディアスはようやく一つの腕輪に決めた。白色の花のあしらわれた、シンプルな腕輪を選んだジルディアスは、店番をしていた若い女性に声をかける。

 おまけでかわいらしいリボンのラッピングをしてもらい、ジルディアスの気分は上々だ。すごいな、リボンまで織物でできている。簡単な花の模様の入れられたリボンは明らかに商品に見えたが、なかなか気前のいいお姉さんだ。


 土産物を選んだジルディアスは、さらに村を探索する。この規模の遊牧民一族なら、神殿の役割をする建物の1つや2つあってもいいようなものだが。


『ないかなー』

「……探せばあるかもしれないな。時間はある。探すか」

『お、マジで?!』


 買い物を終え、気分が良くなっているらしいジルディアスは、気前よく俺に言う。ついでに昼食をとれる場所も探したいからな、と付け加える彼だが、それでも探してもらえるなら万々歳である。


 そう言えば、俺はこの世界の神殿に一度も行ったことがない。神殿……というよりも、俺の知識にある宗教関連の施設など、神社やお寺、それに、知り合いの結婚式で行ったことのある教会くらいしか知らない。この世界の神殿はどういう造りなのだろうか。


 そんなことを考える俺をよそに、ジルディアスは何のためらいもなくテント群の隙間を縫うように歩いていく。軒下に干されたハーブや腸詰に生活臭を感じた。ハーブ入りの腸詰肉、旨そうだな。何の肉か知らないけど。


 そんな時だった。


「きゃっ?!」

「ん?」

『なになに?』


 小さな悲鳴が先ほど俺たちが通っていた道から聞こえてきた。

 ジルディアスと俺は、ほとんど同時に声を上げ、足を止めた。


 早足で元の道まで戻るジルディアス。そして、俺たちはある光景を見て、首を傾げた。


 先ほど花の腕輪を購入したあの店。そこの店の商品棚がひっくり返され、そして、店の目の前では、頭のてっぺんからつま先の先まで黒一色の装束で身を包んだ男が二人、派手なデールに身を包んだ屈強な男たちに取り押さえられていた。


「てめえ、ユーリアちゃんのとこの店を襲うなんて、覚悟できてんだろうな?!」

「ぶち殺すぞ、暴漢が!!」

「ぐっ……放せ!!」


『あれー……? どっちが悪いやつ何だ?』


 店番をしていた女の子をよそに、店を襲撃したらしい黒装束二人組の襟首を締め上げる屈強な男たち。遊牧民、強くね?

 一連の行為をテントの陰から見ていたジルディアスは、呆れたように口を開く。


「それよりも、あんな黒装束を真昼間から纏っていたら、目立つだろうが……いや、あの黒装束、見覚えがあるな」

『え? マジで? あんな推理小説の犯人役みたいな服、着てる奴いたっけ?』

「推理小説の犯人役は黒装束をまとっているものなのか……? 確かに、見るからに怪しいが……」


 文化が通じず、首をかしげるジルディアス。へえ、コッチの世界だと、犯人役は別に頭から足先まで真っ黒に塗りつぶされてたりしないのか。

 話がそれたと判断したのか、ジルディアスは小さく首を横に振った。


「いや、そうではない。フロライトを出た直後の襲撃者どもが、丁度あんな服装ではなかったか?」

『あー……そう言えば、そうだった気がする。ぶっちゃけ、お前が瞬殺してたから、あんまり印象に残っていなかったんだよな』


 そう言えばそうかもしれない。フロライトを出た直後の襲撃者は、確か神殿の暗殺者部隊のような物だったか。……こいつら、昼間もこの服だったのか……


『あれ? そしたら、何でこいつらがここにいるんだ?』

「……それは知らないが……だがしかし、神殿か……シップロどもを置いて、もう先に進むか?」

『それは止めておけよ。何かキナ臭いし、放っておいたら悪い予感がする』


 思わずそう言った俺に、ジルディアスは不愉快そうに眉をしかめる。しょうがないじゃん、直感の話だし。

 特に手を下す必要もないと判断したのか、その場を立ち去ろうとするジルディアス。しかし、俺とジルディアスは、黒装束の男たちの声で、小さく息を飲んだ。


「ちが、やめ、止めろ! 俺たちは、この女に翡翠の祠の場所を聞いただけで……!」


「どういうことだ……神殿が、翡翠の祠の場所を知りたがっている……?」

『知らねえ……でも、翡翠の祠って、原初の聖剣が封印されているとこだよな?』


 襟首を両手でつかまれ、宙づりにされた男が、苦し紛れに叫ぶ。

 そして、そこまで聞いて、俺はようやく思い出す。転生する直前のことを。


__「ああ、ゲームになっているほうは置いておいて、STOの世界は実在する。というよりも、おそらくは、STOの世界観の作者が元世界の管理人なのだろう。『プレシス』の世界の管理人は堕天したという記録がある。しでかしたことから考えると、輪廻転生で経験の積みなおしの刑に服されたのだろうな」

__『……そいつ、一体何をしでかしたんだ?』

__「わざと魂を消すための存在を作り出したのです。そして、知的生命体がそれらにあらがう様を見て、時々ちょっかいも入れていました。魂が『経験』を積む機会を奪い、あまつさえ消しさえした管理人に与えられた刑としては、なかなかに妥当な罰です」


 わざと魂を消すための存在を作り出した。それは、魔王のことなのではないのだろうか?

 そう考えると、『魔王の呪い』の異常状態に罹ったドラゴンの症状に当てはまる。あれは確か、ステータスがバグっていた。あのまま放置をしていたら、おそらくドラゴン、オルスの魂は失われていたのだろう。


 ……待てよ、それだったら、もしかして?


『なあ、確認させてくれ、ジルディアス』

「……何だ?」


 眉をしかめて俺に聞くジルディアス。

 俺は、唾を飲み下して、ジルディアスに問いかける。


『原初の聖剣って、どういう役割を与えられたんだっけ?』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだが?」

『……! やっぱりか!』

「……何がだ?」


 納得した俺に、ジルディアスは不愉快そうに目を細める。勝手に納得されていることに腹が立ったのだろう。

 でもまあ、俺も今すっきりしているし、情報共有したいから言うか。


『いや、原初の聖剣が神に反逆した理由が分かったって話。神が魔王を作ったから、世界に害を与える存在は、魔王よりも魔王を作った神の方で判定したんだよ。だから、設定どおり世界に害を与える神を殲滅しようとして、反逆したんだ!』

「はあ? 貴様、何を言っているのだ? 神が魔王を作っただと?」


 あきれたように言うジルディアス。

 それでも、俺は納得したからいいや。何だ、原初の聖剣、放置していても大丈夫そうじゃん。


 騒がしい暴漢と黒装束を置いて、俺たちはゆっくりと町の散策に戻った。

 メルヒェインの村は、まだ、平和であった。

【二部のフラグ】

 STOの二部は、魔王破壊後のストーリーになる。

 原初の聖剣の反逆は、魔王と言う存在を世界に生み出した神に対するモノだった。しかし、原初の聖剣が封印された後、神はほかの神の裁きを喰らって研修処分に処された。

 そして、世界に害を与えていた魔王は、既に討ち取られたあとである。


……そうだとするならば、原初の聖剣が殲滅すべき対象は、一体何になるのだろうか?


 ヒントを言うと、二部のラスボスは最終的にレイドボスと化し、レイド戦をすることになる。

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