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44話 移動式村落との遭遇

前回のあらすじ

・レオン「減給処分にされた」

・恩田「原初の聖剣ってなーにー?」

 宴から一夜明け、二日酔いと前夜の失態で2か月の減給処分が下され、真っ青な顔をしているレオン中団長をよそに、ジルディアスは大あくびをしながらも移動の準備をしていた。

 流石に団体行動の時は早起きをするらしい。魔法で作った水で身支度を整えたジルディアスは、まだ頭が回らないのか、頭をガシガシとかきながら、大あくびをする。


『眠そうだな』

「……ああ、そうだな」

『やべえ、返事に嫌味が入ってない。すげえ眠そう』

「黙れ」

『理不尽!!』


 奴は、寝ぼけているが実力は衰えを見せていないらしい。容赦なく片手で俺を砕いたジルディアスは、砕いた俺を地面に捨て、桶にためた水を頭からかぶった。そして、風魔法で全身を乾かす。便利だな。


 ジルディアスの身支度を見ていたレオン中団長は、少しだけ驚いたようにジルディアスに声をかけた。


「勇者さん、アンタ、多属性の魔法が使えるのか?」

「……ああ、そうだな。光魔法以外なら使える」


 ジルディアスはあっさりとそう答え、桶をレオンに投げ渡す。木製の桶は、隊商に借りたものなのだ。こいつは金属製のバケツ持っているからな。

 レオン中団長は少しだけ肩をすくめ、ジルディアスに言う。その手には、ジルディアスが投げ渡した空の木桶のほかに、小指の先ほどの大きさのクズ宝石が握られていた。


「そうか……良いなアンタ。俺は炎魔法以外はからきしだからな。生活魔法も魔道具に頼らねえといけねえんだ」


 レオン中団長は、そう言いながらクズ宝石を手の中で砕く。すると、砕けた宝石から、明らかに宝石の体積よりも量の多い水があふれ出し、あっという間に木桶を満たした。


『うわ、何あれ! すげえ!』

「……使い捨ての魔道具か」


 ジルディアスの言葉に、レオン中団長は頷く。

 どうやら、レオン中団長はジルディアス同様、水魔法が一切使えない体質であるらしい。しかし、魔道具を頼れば水魔法に似た効果が出せるところを見る限り、魔道具の照明を操作できなかったジルディアスよりは多少はマシであるように思える。


 桶いっぱいにためた水で布を濡らし、顔をぬぐうレオン中団長に、ジルディアスはあきれたように言う。


「そんなものに頼らず、得意なものに頼めばいいだろう。例えばシップロのやつはどうだ? あいつはおそらく、水魔法の才能があるはずだろう?」

「いやいや、シップロさんはあれだぞ、三部門長だぞ? 普通に俺の上司だからな?」


 ジルディアスの台詞に、レオン中団長は首を激しく横に振って答える。そう言えば、話を聞いていなかったから知らないけど、三部門長って偉いのか?

 いや、それよりも気になることがある。


『え? 何でシップロが水魔法の才能があるって知っているんだ?』

「何でも何も……茶を入れたときに、シップロは水魔法で水を作っていただろうが。飲める水を魔法で作れるということは、才能があるということだろう」


 俺の質問に、首をかしげて言うジルディアス。ああ、なるほど。そういえば、そんなこと言っていたな。

 小声で俺の質問に答えるジルディアス。だがしかし、そんなジルディアスの小声は、レオン中団長には聞き取れていたらしい。


「……どうしたんだ、アンタ?」

「不審者扱いは止めろ。薬の類は使っていない」

「いや……ならいいんだが。昨日も独り言が多かったから、少し気になっただけだ。隊商に害を与えねえなら、恩人の勇者さんをどうこうすることはないから、安心してくれ」


 ひきつった表情で言うレオン中団長。その左手は明らかに自分が持っているロングソードの位置を確認していた。


『薬中扱いは変わってねえな。ウケる』

「……くたばれ魔剣」

『いってえ?!』


 額に青筋を浮かべたジルディアスは、容赦なく地面に転がっていた俺を踏み砕く。せっかく復活スキルで直ったのに!

 一連の行動を見ていたレオンは、ナイフで器用に髭剃りをしながら問う。


「それ、魔剣なのか? 俺の知っている魔剣とはだいぶ違うように見えるが……」

「ああ、正真正銘魔剣だな。持ち主のみに聞こえる声で心身に害を与えるタイプだ。……現在は破損していて、剣と言う体を成していないがな」

『言い方ってもんがあるだろ! つーか、俺魔剣じゃねえよ!』


 身体に害を与えるタイプの持ち主が何を言ってんだ、と文句を言う俺を、ジルディアスは鼻で笑う。クッソ、普通に腹立つ!

 汚れた水をざぶりとそばの茂みに捨て、レオンはそっと側に置いていたロングソードを手に取る。


 ロングソードは炎の意匠が施されており、鞘越しにも重厚な刃であることが容易に予想できた。俺なら両手で持っても振るうことなどまともにできないだろう。

 そして、そのロングソードは何故か、鞘と柄が紐でしっかりと結ばれていた。そんなことをしたら、戦いのときにすぐに抜けないのじゃあないか?


「一応、俺も魔剣を持っていてな。精神に害を与えるタイプではないが……使うとバーサク状態になってな。余程ヤバいとき以外は鞘を抜かずに使っている」

『へえ、鞘を抜かなければ大丈夫なんだ』

「鞘から抜かなければ無害か……ぜひとも交換してほしいものだな」

『普通に失礼じゃない? 主に俺に』


 なるほど、だから紐で結んでいるのか。確かに、鞘付きでもあれだけ重そうなロングソードなら、普通に殴られても余裕で死ねる。……もしかして俺、切れないように刃を丸めたりしていたけど、意味ない感じ?


 一瞬そう思った俺だが、刃を丸めてもどうせこいつは俺をバフアイテム扱いしかしない以上、してもしなくても意味などないだろう。

 どうせなら身の回りで人死にが起きないことを願うばかりだが、そのせいでこいつが死んだらなんかちょっとおかしい気もする。全体的に物騒なんだよな、この世界。


 朝の身支度を終えた俺たちは、昨晩の残り物で朝食を終え、そのまま旅を続けた。




 太陽が空のてっぺんにたどり着くころ、隊商の列がいったん止まった。


『ん? どうしたんだ?』

「さあな……魔物でも出たなら、もう少し騒がしいはずだが……?」


 ジルディアスに割り当てられた会議室のような車両で、武器の手入れをしていた彼は、一度その手を止めて顔を上げた。

 それと同時に、馬車の扉がノックされる。わたわたと急ぎ足で車両に足を踏み入れたのは、どうやら、シップロであるらしい。


「勇者様、村についたので、一度馬車を止めますね!」

「……村? ここに来る前に一通り地図は見たが、サンフレイズ平原に村などあったか……?」


 首をかしげるジルディアスに、上質なフェルト帽子をかぶったシップロは答える。


「ええ、わたくしたちもまさかここで出会えるとは思っていませんでした。『旅する村』、メルヒェインです!」

『「……旅する村?」』

「はい、旅する村です!」


 シップロは心底楽しそうにそう言いながら、車両の窓を開ける。

 そして、俺とジルディアスはほとんど同時に感嘆の声を上げた。


 大きな、色とりどりのテントの群れ。たくさんの荷馬車、馬車、押し車に乳母車。荷物を運ぶ人々や、家畜たち、そのわきで遊ぶ子供たち。作物を値切る商人の声が客引きの声にかき消され、その声も子供たちの笑い声に消える。

 人と、物と、家畜と、馬車が、そこにひたすら集まっていた。集まって集まって、村……いや、町を形成していた。


「サンフレイズ平原最大の遊牧民族、メルヒェインの停留地点です!」

「なるほど……あの規模の遊牧民族だと、確かに村だな……」


 目の前の光景に圧倒され、目を見開くジルディアス。そんなジルディアスに、シップロは申し訳なさそうに言う。


「申し訳ありません、勇者様。私どもは少しメルヒェインで商売をするので、移動に遅れが出てしまいますが……」

「いや、構わない。好きにしてくれ」

「ありがとうございます! __さあ、早く樽を持って! 算木は十分か? 釣銭の準備は? 金庫は足りているか? 急げ急げ急げ!」


 ジルディアスの返事が聞こえるや否や、シップロはバタバタと商売の支度を始める。どうやら、今日もまた忙しい日常が始まるようだ。

【『旅する村』メルヒェイン】

 サンフレイズ平原最大の遊牧民族。もはや規模が大きすぎて、村というよりも、町に近い。

 行く先はメルヒェインの長老たちが風を見て決めているため、気ままに停留したり、放浪したりを繰り返す。そのため、隊商の最中にメルヒェインに出会えた商人は、幸運に見舞われるという逸話があるほど。


 とはいえ、魔法による連絡手段があるため、どこにいるかは調べればわかる。さらに、物資や家畜、人間たちがたくさんいるため、村の移動速度は限りなく遅い。

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