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35話 ダークユニコーン

前回のあらすじ

・バイコーン討伐完了

・ユニコーン探し

・サクラとウィルが黒いユニコーンと遭遇

「……ほう? アレは何だ?」

「ちょっとわかんない」


 神域の奥。ユニコーンの生息場所である木漏れ日の森に足を踏み込んだジルディアスとルアノは、互いに目を見合わせて、巨大な木の洞の中に鎮座する黒色のユニコーンを見る。


 角は一本。双角が折れて一本になっているわけではなく、人間ならちょうど額のあたりにまっすぐと伸びている。本来ならその角が浄化の作用を持つのだが、あの黒のユニコーンは、どこからどう見ても浄化の作用を持っているようには見えない。むしろ何となく、触ったらヤバそうな感じすらする。


『ほかのユニコーンを探したほうが良いんじゃないのか?』

「……若干光精霊の気配がする。おそらくアレは闇魔法は使えないはずだ」

『マジで? あんないかにも光魔法が弱点ですって見た目しておきながら?』


 思わずそう言ってしまったが、ルアノもジルディアスの言葉に同意するように首を縦に振っている。


 黒色に染まったユニコーンは、毛の質が悪いのか、何やらべったりと体に黒色の毛が張り付き、ところどころ固まってしまっているのか妙なところで刎ねていたりするせいで、随分芸術的なたてがみを持ち合わせている。触ったら刺さりそう。


 ロックな見た目のユニコーンは、まだジルディアスたちに気が付いていないのか、悠々と草をはんでいる。

 ジルディアスは困ったように眉を顰め、深くため息をつくと、ルアノに問う。


「どうすればいい?」

「……浄化魔法をかけてみます。それでだめなら、討伐してください」

「妥当だな。……できれば浄化が効かなければ楽なのだが」

『ナチュラルに殺そうとしないでやれよ』


 手短に会議を終えた二人は、ともかく、浄化をかけてからユニコーンの様子を見ることで一致した。もし抵抗すれば、ジルディアスが瞬殺することだろう。若干かわいそうではあるが、まあ、仕方ないっちゃ仕方ない。こちらだって命がけなのだ(主にジルディアスが)。


 女性には優しいらしいということもあり、まずはルアノだけがユニコーンに近づく。草を食んでいた黒のユニコーンは、人の気配を察知して、地面から顔を上げた。


 ルアノは無言でユニコーンと目を合わせると、そのまま警戒されないようにゆっくりと近づく。そして、浄化魔法の射程圏内になったところで、ルアノは呪文を詠唱した。


「光魔法第4位【キュア】」

「……?!」


 光魔法をかけられたユニコーンは、体をびくりと硬直させる。

 ルアノが行使したキュアは、対象の穢れを祓う中級魔法に当たるものだ。穢れていなければ効果は皆無であり、なおかつそこそこ魔力の消費が激しいものの、ピュリフィケーションのように液体に限定されずに穢れを払うことができる。


 今回の黒のユニコーンは、見た目の通り穢れをしっかり帯びていたらしい。魔法の効果でユニコーンに注がれた柔らかな光が、ユニコーンの体を撫でる。そして、その光はある瞬間、突然消失した。


「?!」


 驚きで目を丸くするルアノ。少し距離をとって見ていた俺とジルディアスだけが、何が起きたかを理解できた。


 ルアノの光魔法を、ユニコーンの黒の角が打ち消したのだ。


『闇魔法か、アレ?!』

「そんな訳はない……! まずいぞ!」


 なまじ浄化の効果が強かったせいか、中途半端に穢れを打ち払われた黒のユニコーンは、高くいななきを上げると、錯乱状態に陥った。と、同時に、ユニコーンの角が、黒の結晶質に変わった。


 そして、魔法を使った直後で反応の遅れたルアノに向かって、前足を振り上げる。

 次の瞬間には、ジルディアスが動いていた。


 三節棍の俺をぶん投げ、指輪からロングソードをほぼ同時に引き抜く。


 空気抵抗と回転のせいで三節棍はおかしな軌道を描き、それでも黒のユニコーンの側頭部を強打した。そして、同時に木陰から飛び出したジルディアスがロングソードを犠牲にしつつ、ルアノを庇う。


 俺のちょっとした知識でも、体の大きな馬はその体重がトンを超えるという。さらに、ユニコーンは先ほどまで見ていたバイコーンよりも一回りか二回りほどその体が大きい。


 その巨体から振り下ろされた蹄は、容易にロングソードをへし折った。


 ……本来なら、武器を破壊されれば少なからず苦戦するはずだ。だがしかし、その法則はオリジナルアビリティを持つジルディアスには、適応されない。


 武器を破壊したことで上昇したステータス。そのステータスを強引に使い、ルアノを抱えると、ジルディアスはその場から跳躍した。


 その次の瞬間、ジルディアスの立っていた場所に、白の雷が叩き落された。


『うわ、すっげえ! 何あれ?!』

「光魔法第8位、【ジャッジメント】か。分が悪いな……!」


 吐き捨てるように言うジルディアス。どうやらあれも、光魔法の一種であるらしい。

 弱点属性光の生粋のラスボス体質であるジルディアスは、あの魔法を一撃でも喰らえば、戦闘不能になりかねない。光魔法を使われた際は、回避を徹底しなければならなかった。


「闇魔法第8位【グラビティ】!」

「……!!」


 ジルディアスの重力操作魔法を喰らい、ガクンとこうべを垂れた黒のユニコーン。動きが大きく鈍ったところで、ジルディアスはルアノを地面におろし、怒鳴る。


「さっさと逃げろ。邪魔だ」

「……! ロア兄さんを呼んでくる!」

「呼ばなくていい。足手まといだ」


 ジルディアスはそう言いながらも、指輪から槍を取り出す。穂先から柄まで金属でできた大槍を構え、ジルディアスは光をまとって突撃してきたユニコーンをいなす。角と槍がぶつかり、甲高い音が森に響いた。


 しかし、体重差からか、そもそもの種族差からか、力ではまず勝てない。技量とステータスのゴリ押しで何とか攻撃を受け流すことに成功したジルディアスだが、攻撃に転じることはできず、その場でたたらを踏んだ。


『ジルディアス! 俺を使え!』

「! わかっている!」


 俺の声に、ジルディアスはそう返事をすると、槍を持つ位置を変え、地面に転がっていた俺に向かって槍を振り下ろす。円運動と重力の加速度を借りたその一撃は、容赦なく俺をへし折った。


 反動で浮き上がった俺を空中でキャッチすると、容赦なく魔力を流しこむ。


『クッソいてえ!! そうだけどそうじゃねえよ、バーカ!!!!』

「いいからとっとと変形しろ!」

『三節棍?』

「何だっていい!」


 そう怒鳴るジルディアス。俺は少しだけ考えた後、ジルディアスの左手を覆う籠手のような形の盾に変形した。


「……何だこれは」

『盾』

「……貴様は、剣だよな?」

『そういうことを聞かないでくれ。今はこれが最適解だろうが!』


 確認するように質問するジルディアスに、俺は思わず言い返す。

 当然、この隙をユニコーンが見逃すわけもなく、容赦なくこちらに向かって突撃してきた。


 ジルディアスは、反射的に俺を使ってその突撃をいなす。

 低く構えられた結晶質の黒角が縦の表面をえぐるように滑るが、金属自体が頑丈だったため、破損はなかった。

 だが、破損がないことと痛みがないことは別問題なわけで。


『あっ、待って、クッソ痛い。何かタイ式マッサージ受けてるみたい』

「たいしきまっさーじ……? マッサージはともかく、たいしきとは何だ?」

『今は関係ない。三節棍に戻っていい?』

「止めろ。しばらくはこのままになっておけ!」


 魔法による攻撃は、基本的には魔法で打ち消すか回避するしか方法はない。武器でかき消すこともできないことはないが、それでも効果を良くて半減するだけで、食らうことには間違いないのだ。


 ジルディアスは光魔法を喰らうわけにはいかない。だからこそ、防御の手段が必要だった。

 盾を持った片手で、ユニコーンの横っ面を殴打する。俺のスキルでステータスが2倍になっているその一撃を喰らったユニコーンは、想定外だったのか甲高い悲鳴を上げ、大きく横に吹っ飛ぶ。


「はははははっ!」


 ニッと凶悪に笑むジルディアス。どうやら、ようやくアクセルがかかって来たらしい。迫力ある笑い声をあげると、槍を短く持って体制の崩れたユニコーンに突き立てる。


 真っ赤な血が、空に舞う。高い悲鳴を上げるユニコーン。

 しかし、ジルディアスは盛大に舌打ちをした。


「仕留め損ねたか……!」

『えっ?』


 思わず間の抜けた声を上げる俺。流石にあれが決め手になると思っていたのだが……?

 そんな俺の思惑とは裏腹に、強烈な光魔法を周囲に振りまくユニコーン。それを受けるわけにはいかないジルディアスは。即座に距離をとって回避を選択する。


 すると、次の瞬間、ユニコーンの黒の角が柔く光った。


「回復魔法……!」

『あっ、そうか……!』


 憎々しそうに言うジルディアス。光魔法の使い手であるユニコーンは、その魔力が尽きるまで体を癒すことができるのだ。

 即死するような一撃を見舞うか、MPが尽きるまで粘るか。究極の2択を突き付けられ、ジルディアスは不愉快そうに鼻を鳴らした。


 殴打も槍で抉られた胴も治り、ユニコーンは再度高くいななく。次の瞬間、光の槍が展開される。

 まばゆい槍を見て、ジルディアスは歯を食いしばると、呪文を詠唱した。


「闇魔法第5位【ダークジャベリン】!」


 ジルディアスが展開したのは、ユニコーンのものと対になる、漆黒の槍。数はユニコーンのものと比べ、半分以下である。


『おまっ、それで大丈夫なのか?!』

「あっちはこちらを害するため、俺は自分の身を守るためだ! アレに闇魔法は効かない。黒の角が魔法を吸収する……!」

『マジかよ?!』


 次の瞬間、黒のユニコーンから、光の槍が多量に放たれる。それを相殺するように、ジルディアスの黒の槍が迎え撃つ。

 一瞬遅れて、黒と白がぶつかり合い、凄まじい爆破音が響いた。


 爆風で落ち葉が舞い上がり、視界が覆われる。そして、爆風に乗じて肉薄していたジルディアスの一撃が、ユニコーンの左目をえぐった。

 脳天めがけて突き出された槍。しかし、寸前で回避行動をとったためか、その一撃はユニコーンの左目を破壊するだけにとどまってしまった。


 怒り狂ったユニコーンが、そのまま強引に突進を敢行する。


「……なっ?!」


 痛みでひるむと思っていたジルディアスは、まさか無理やり突撃するとは思っておらず、反射的に左手の盾を構えるも、受け流しに失敗して、後ろに吹っ飛ばされた。


 トラックに追突された軽自動車かバイクの如く、少しの間空中に吹っ飛んだ彼は、背後の大木に背中を強打する形で地面に落ちた。


「げほっ……!」

『おおおおおおい、だ、だ、大丈夫か?! 【ヒール】!』


 思わず動揺した俺は、一瞬パニックになりかけながらもジルディアスにヒールをかける。柔い光がジルディアスを包み、傷を癒した。

 しかし、ジルディアスは不愉快そうに眉をしかめると、盛大に舌打ちをして槍を握り砕いた。


「……殺す」

『うわ、ガチおこじゃん』


 完全にブチ切れたジルディアスは、今度は指輪から片手剣を取り出す。バックラー(おれ)と片手剣で安定した装備になったジルディアスは、光の槍を展開しているユニコーンを睨む。


 ユニコーンの魔術が、光が届きにくくて薄暗い森を、輝かしく照らす。

 そして、その光が、一斉にジルディアスに向かって射出された。


 その瞬間、ジルディアスは魔法を行使した。


「【ウィンドステップ】!」


 空気を蹴って、急加速する。コンマ数秒後、ジルディアスが立っていた地面に光の槍が殺到した。

 抉れる大地。あえなく光の槍に削られた大木は、ゆっくり、ゆっくりと倒れていく。


 正面から飛んでくる光の槍を片手剣とバックラーで防ぎ、容赦なく間合いを詰めたジルディアスは、片手剣を横なぎに振り払う。

 今度は、仕留めた。


 槍を砕いて上昇したステータスのおかげで、黒いユニコーンの首が、切り落とされる。それと同時に、光の槍で抉られた大木が、地に倒れ伏した。


 すさまじい音が森に響く。__ジルディアスの、勝利だった。



 剣を軽く振るい、ユニコーンの血を弾き飛ばす。そして、軽く布でぬぐってから指輪の倉庫に戻すジルディアス。次の瞬間、俺は叫んでいた。


『ジルディアス、後ろだ!!』

「?!」


 俺の叫び声に反応した彼は、反射的にバックラーの付いた左腕を握り締め、背後を振り向く。そして、小さくうめき声を上げた。


「な、ぜ……?」


 抉れたジルディアスの左脇腹。赤色の血が、白の修練着を濡らしていく。

 彼の背後には、ズタボロになった()()()の黒のユニコーンが、力尽きて倒れていた。

光魔法第八位【ジャッジメント】

 高位光魔法の一種で、雷のように光を降り注がせ、ダメージを与える。回復魔法ぞろいの光魔法の中でも結構強い攻撃魔法。主にアンデットに大ダメージを与える。

 ただし、威力がある代わりに魔力消費はすさまじく、並の術師だとそもそも発動すらできない。


【ダークジャベリン】【ライトジャベリン】

 どちらも第五位の魔法。全属性第五位にはこのジャベリン系の攻撃魔法がある。属性の能力が付与された槍を展開し、術者が狙った場所に放つことができる。

 そこそこ強い魔法攻撃ができ、多数展開に向いているため、数で攻撃できる。もちろん、集約して打てば一発の火力を上げることもできるが、基本的にそんなことをするよりも数を撃った方が手っ取り早いため、あまりする人間はいない。

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