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34話 穢れた白天馬

前回のあらすじ

・ルアノ「バイコーンを倒してきて」

・バイコーン「セリフももらえなかった」

・サクラ「バイコーンを倒しながら薬の材料を集めようかしら」

 出会うバイコーンをすべて皆殺しにし、血とその他もろもろで服を汚したジルディアスは、大変不愉快そうに眉をしかめると、水魔法を詠唱して、頭から水を被った。魔法でつくりだした水は、地面に落ちるころには赤く汚れている。鉄臭い液体を軽く振り払い、ジルディアスは軽くため息をついた。


「ともかく、これくらいでいいか?」

『そうかもな。結構いたな』


 優に十数体を超える数のバイコーンを屠ったジルディアス。流石に少しは疲れたのか、軽く息をつき、近くの木にもたれかかる。持ち込めたものが指輪と俺以外何もないジルディアスは、少しだけ眉をしかめると、手の上に水を生成して、それを飲み干す。

 湖が穢れていたため、その下流に当たる川も穢れてしまっている可能性がある。そのため、川の水をそのまま飲むわけにはいかないのだ。


『魔法で水が出せるなら、水筒いらずだな』

「……そうも簡単にいくものか。加護を得ているものでもない限り、魔法で作り出した水など無機質極まりない」

『え、何、その水マズいの?』

「ああ。常飲したいとは思わん程度には不味い」


 ジルディアスは吐き捨てるようにそう言いながらも、おとなしく魔法でつくった水で水分補給を終える。どうにせよ、今現在は魔法で創る以外に水の入手方法はないのだ。


 なるほど、だからコイツ、魔法が使えるのに水筒なんて持っていたのか。合理主義の塊みたいな野郎だから、何でいらなそうなものを持っていたかわからなかったんだよな。


 少しだけ感心する俺をよそに、ジルディアスは浅く目を閉じると、休憩に入る。走って移動していた時も、最低限これくらい休憩すればよかったのに。


 巨木の森に、風が通る。

 吹き抜ける風は涼やかで、揺らめく木々が、葉が、さわさわと優しい音を立てては消えた。地球だったら間違いなくパワースポット扱いだろう。まあ、ここはそもそも神域なのだが。


 神域の森は、大人三人が手をつないでようやく一周できるような大木がごろごろと生えている。地面は降り積もった落ち葉で柔らかく、腐葉土とも呼べそうな土が地面がわりだ。


 競うように高く木が生えている影響か、日光が差し込まない地面には下草が少ない。代わりにコケやキノコがところどころ生えており、中には薄く発光する蛍光キノコも生えていた。


『アレ食べたらどうなるんだろうな? 薄くて食べるところ少なそうだけど』

「……剣、お前、悪食が過ぎないか?」


 思わずつぶやいた俺に、ジルディアスが呆れたようにつぶやく。いやでも、その隣のマツタケみたいなキノコの方が肉厚で美味しそうだ。醤油とバターで焼いたら、間違いないと思う。


 そんなことを考えている俺を、ジルディアスは頭を抱えて見る。


「どうでもいいが、元人間としてあんなものを食べようと思うのはどうなのだ?」

『え? うまそうだと思わないの?』

「光っているキノコをか?」

『うん』

「……。」


 ジルディアスは開いた口がふさがらないという表情を浮かべ、ただ深くため息をついた。何だよ、茹でてサラダに混ぜたら美味しそうな見た目しているじゃん、アレ。SNS映え間違いなしだろ。


 一般に発光するものなど食べようとは思わないという人間の常識を教えようかどうしようか迷ったジルディアスだが、面倒であったため口を閉じる。だんだん馬鹿らしくなってきたのだ。


 ともかく、短い休憩を終えたジルディアスは、三節棍の俺を軽く担ぐと、報告のためにも湖のあるはずの場所へと向かう。




 湖の元に戻ると、そこでは、ルアノが光魔法を行使して湖の穢れを払おうと、地面に手をついて光魔法を何度も行使しているところだった。

 深く息を吐き、魔法を一時的に中断するルアノ。疲れているのか、耳はへたりと下がっていた。


 そんな彼女に、ジルディアスは声をかける。


「あらかた殺してきた。あとは何をすればいい」

「……! ありがとう。……その、聞きたいのだけれども、っ?!」


 湖面から顔を上げ、ルアノは地面から立ち上がろうとする。しかし、ずっと座っていたせいか、軽く貧血を起こし、体をふらつかせる。素早くルアノを支えたジルディアスに軽く礼を言い、ルアノはジルディアスに質問する。


「その、ユニコーンには会えた?」

「ユニコーン? いや、出会ったのはバイコーンばかりだが」

「そう、ですか……」


 魔術にたけたエルフでも、流石に魔力不足になったのか、ルアノは少しだけふらつきながら、そっと水面に触れる。そして、肩をすくめた。


「水の中にいるはずの妖精が、全然見つからない。数日前に確認しに来たときには、確かにいたのに……」

「……湖が死にかけている、ということか?」

「うん、そうなる」


 沈んだ表情で、そう答えるルアノ。

 自然環境には、たくさんの精霊がいるものらしい。とくに、世界樹のそばならその傾向が顕著になる。


 ルアノは、肩を落としてジルディアスに言う。


「原因、まだわからない。それでも、湖自体をこれだけ浄化してもだめって言うことは、多分湖のそこに、何かあるのかもしれない」


 黒色の油膜の浮かぶ湖面。少なからず、気軽にダイビングをしたいとは思えない。油膜を浴びたらしい湖近くの植物は、哀れにも腐ってしまっているのだ。ついでに俺も溶けたし。


 どこぞの番組のように湖から水を取り払ってしまえば手っ取り早いように感じられるが、残念なことにこの湖は神域であるため、作業に必要な頭数をそろえることができない。


 つまり、……どうすればいいんだ?


『えっ、どうするん?』

「知るかアホ」


 俺の質問に、ばっさりと答えるジルディアス。しかし、ルアノには一定の答えがあったらしい。


 心苦しそうに、ルアノはジルディアスに言う。


「その、ごめん。やっぱり、ユニコーンの角が必要になった」

「ふむ……なるほど。だが、俺はユニコーンの角は使えんぞ? 闇精霊の愛し子だからな」


 あっさりと言うジルディアス。え? 何があったの?


 そう思った俺は、ユニコーンの角についてヘルプ機能を使った。


『ユニコーンの角には、光魔法の魔力が込められている。ユニコーンから折れた後もその力は残り、浄化や癒しの効果を持っている……ああ、なるほど。ユニコーンの角の浄化力で湖の中にゴリ押しで入るのか』

「まあ、そうなるな」


 俺の独り言に、軽く体を伸ばしながらジルディアスがそう言う。万能ラスボスのこいつは、光魔法関連以外なら大体何でもできるため、泳ぐことはできるがユニコーンの角は使えないらしい。


 ジルディアスの言葉に少しだけ首を傾げたルアノは、肩をすくめているジルディアスに言う。


「ユニコーンの角さえあれば、わたしが湖を探索できる。人間は、水中でも呼吸いるでしょう?」

「ああ、そう言えば、お前はエルフだったな」

『へえ、エルフって、木登りだけじゃなく水泳も得意なんだ』

「種族特性でエルフは泳ぎが得意なことが多い。海辺に住むエルフなどは、息継ぎをせずに三日も水中にいたという記録があると聞いたことがある」

「三日は流石に無理。でも、一時間なら息継ぎしなくても大丈夫」


 ジルディアスの言葉に、ルアノは首肯する。すごい異世界っぽい会話だ。

 俺は人間の体だったころはある程度泳げたが、剣である今は多分潜水しかできないだろう。それも浮かび上がれないやつ。


 そんなくだらないことを考えていた俺をよそに、ジルディアスはルアノに問いかける。


「ユニコーンの居る場所に心当たりは?」

「多分、森の奥にいるはず。……でも、バイコーンを倒していて会えないほど、少ない数じゃないはず」

「そうか。単純に俺が男だから会う価値もないと逃げたのではないか?」

「……そうかもしれません」


 ロリコン……いや、処女厨……もとい、女好きのユニコーンは、基本的に野郎に会おうとはしない。ついでに、闇の精霊があまり好きではないのか、闇魔法を得意としているものにはあまり近づかない。その点から、ジルディアスに会わないようにした可能性も考えられた。


 だが、それでも一度たりともユニコーンに出会えないというのは、おかしな話だった。世界樹のあるこの森には、たくさんの精霊とともに精霊の居る環境を好むユニコーンもまた、多数生息していたはずだった。


 ジルディアスも俺もユニコーンの死骸は見ていないため、ユニコーンは死んでいるわけではないはずだ。もしかしたら、バイコーンが増えたことで縄張りを変えたのかもしれない。


 そんなことを考えた俺だったが、それだと何故バイコーンが増えたのか説明ができない。しばらく考えた俺だったが、俺ごときが考えてわかることを柄エルフたちが気が付かないはずがない。

 そう判断して、俺は軽く肩をすくめた。もちろん気分の話だ。


『とりあえず、探しに行くか?』

「そうだな。俺だけで行くと、ユニコーンが逃げるか殺しに来るかのどちらかだからな。ルアノ、お前もついてこい」

「わかった。できれば、ユニコーンの角だけ折って、殺さないようにしてほしい」

「……善処する」


 ルアノの言葉に、ジルディアスはそっと目を逸らしてそう言った。こいつ、ユニコーンを殺す気だったな?


 とはいえ、バイコーンならともかく、ユニコーンはジルディアスにとって天敵である。そもそも個体として強く、さらには光魔法の使い手なのだ。闇精霊の愛し子であるジルディアスは、強力な闇魔法を使える代わりに光魔法にはとことん弱い。

 裏ボスだからこそ、理不尽の中に致命的な弱点があるのだ。


『あーあ。俺もせめて何かできればいいんだけど』

「……? 武器は基本何もなさんものだろうが。しゃべって魔法さえも使える剣など、世界広しとしても貴様くらいだろう」


 ジルディアスはそう言うと、小さく首をかしげる。今は武器でも、俺はもともと人間だったし、これからだって人間に戻れるなら戻りたい。ついでに、どうせなら可愛い彼女も欲しいし、チーレムだってできるならしたい。これでもスキル効果2倍のチートを持っているはずなんだよな、俺。


 とはいえ、知っている人間が事の如く強い人間ばかりなので、人間になれたところで多分俺ごときではチートもハーレムも夢のまた夢である。こいつだけが極端に強いのかと思ったら、人間換算4歳の女の子にすら負けているってちょっと悲しすぎないか?


 突然無言になった俺が気に障ったのか、ジルディアスは不愉快そうに眉をしかめると、面倒くさそうにため息をついて、俺を担ぐと、そのまま歩き出す。そして、ルアノに言う。


「さっさと行くぞ。ここは光精霊が多くて居心地が悪い」

『セリフが敵側そのものだな』

「しゃべったと思ったらそれか。永遠に黙っておけ、魔剣が!」

『えええ?! あ、待って待って待って、鎖引っ張るのやめろ! 何か関節技ずっと受けているみたいでクソ痛い!!』


 三節棍の節をつなぐ鎖をねじりながら左右にきつく引っ張るジルディアス。左右に人外の力で引っ張られるだけでも十分にキッツいが、それにひねりが入ることで鎖と鎖が擦れ合い、さらにねじ切れそうになることでクッソ痛い。


 俺の声が聞こえないルアノは、少しだけ首を傾げた後、ほんの少しだけ口元に笑みを浮かべ、ジルディアスの服の裾をつかんで移動を始めた。




 バイコーンをなぎ倒しつつ、薬の材料を入手していくサクラとウィル。手際よく材料を集め終えた二人は、今度はユニコーンの角を採取するために森の奥へと向かっていた。


「バイコーンとの戦いで、ウィルもレベルが上がったと思う。とはいえ、普通にユニコーンは強いから、無理はしないでね」

「ああ。でも、サクラも気を付けてくれよ? バイコーンに砂かけられていたし……」

「砂っていうか、土だけど……何だったのかしらね、アレ。最後は仲間割れしていたし……」


 バイコーンは気に入らない相手には砂……もちろん、今は森にいるため、砂地はないため腐葉土のような土になるのだが……をかける。サクラと遭遇したバイコーン2体は、一瞬互いに顔を合わせた後、ウィルを庇うように立ちふさがったサクラを見て、大きく頷いてから一斉に土をかけ始めたのだ。


 そこからの猛攻はすさまじかった。

 まさしく息の合った連携によって、ステータスはあれども技術のないサクラを圧倒するバイコーン。魔法弾幕はすさまじい制御によってサクラを庇おうとしたウィルを数センチ横ですれ違い、サクラのみに叩きこまれた。


 容赦のない突撃は地を揺らし、鋭い双角がサクラの腹をかき裂かんと低く構えられる。いくらステータスのあるサクラでも、クリティカル(致命的な一撃)を喰らえば不味いと判断し、防戦一方になった。


 しかし、それを変えたのは、意外にもウィルであった。


「やめろ!!」


 黒の魔弾がサクラにぶつかる直前。ギリギリのところで光魔法を発動させたウィル。レベル差があったせいでバイコーンにはさほどダメージは入らなかったものの、その直後に仲間割れが起きた。


 ちなみに、もしもその場に恩田こと第4の聖剣がいれば、バイコーンたちの言葉は聞き取れたであろう。言語化できる程度には、意志のこもった言葉であったのだから。


『はー?! おねショタは解釈違いですー!! どこからどう見てもショタおねだったでしょうが!!』

『あれ見てもそれ言えるとか、マジありえない!! 守られているショタが頑張っておねえさんを庇おうと秘めたる力を解放する展開だったのよ?! それ見てまたそれ言う?!』

『個人的にはさっき森に入ってきたあのバケモノとのカップリングも見たい!!』

『わかる!! でもアンタとは絶対に話が合わない!! 逆カプは地雷なんですー!!』


 ……実に下らない理由による、仲間割れだったと。


 ともかく、そんなこんなでバイコーンを倒したサクラとウィルは、ボスエリアである大樹の洞にたどりつく。

 そして、そこにたどり着いた二人は、目を丸くした。


「……は? ()()、ユニコーン?」


 木漏れ日の下。清廉とした空気の中、その体色を黒く染めた、角一本の馬が、大樹の洞に存在していた。

逆カプ、カップリング

 検索すればいいと思う。少なくとも、STOの世界は印刷技術は普及しているものの、人族間では宗教的な影響で異性愛が通常であるため、その手の本はあまりない。もちろん、まったくないとは言わないが。

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[一言] 解釈違いは永遠に分かり合えない。 どちらかが死ぬ以外に、解決は無いのだ(過激派)
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