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24話 エアルノの町

前回のあらすじ

・ジルディアス「武器もらった」

・恩田「地面に突き立てられた」

・エルフの女の子「( ˘ω˘)スヤァ」

 エルフの少女を抱えたジルディアスは苦い表情を浮かべながら歩き、そして、国境を越えてすぐの町、エアルノにたどり着いた。


 エアルノの町は、山に近いこともあり、木造建築と緑が組み合わさった、美しい街並みだ。__こっちがレッドドラゴンに襲われなくてよかったな。ここだと、ブレス一発で燃やされそうだ。


 エアルノの町の門番に声をかけたジルディアスは、さっさと事情を説明して、エルフの少女を引き渡す。


「後でエルフの里に返して来い」


 事情を説明して、最後にそういうジルディアス。扱いが借りたDVDとさほど変わらない事実に突っ込むべきか、とりあえずとは言えども、他の大人に預けたことをほめたほうが良いのか悩んだ。

 ジルディアスの言葉に、門番は困惑したように言う。


「え……あの、多分、今日の取引ではぐれた子供だと思うので、追いかければ間に合うかと……次の行商は一か月先なので……」

「俺は忙しい。そっちで何とかしろ」

『嘘つけ』

「黙れ魔剣」


 盛大に舌打ちをしながら、ジルディアスは小声で俺に言う。大分イラついていそうだったが、俺はとにかく言葉を続けた。


『別に、多少寄り道したって大丈夫だろ? エルフの村ならなんか珍しい土産でも手に入るんじゃないのか?』

「俺は土産を目当てに旅をしているのではない。と言うか、今荷物を増やしてどうする」

『でも、俺、エルフの村に興味あるし』

「お前の興味でわざわざ寄り道などするか阿呆!」


 苛ついたように言うジルディアス。突然小声で独り言を言いだしたジルディアスに、門番は少しおびえた表情で後ずさった。まさしくドン引きである。


 不審者に対して警戒する門番は、ふと、今自分が抱きかかえている子供が危険なのでは、と思い始めた。もしかしたら勇者を名乗るこの男は、危険な薬物でも使って幻覚を見ているのかもしれない。そんな男に、小さな子供を預けるわけにはいかない。


 門番の男は、慌ててジルディアスに言った。


「や、やっぱり大丈夫です! この子はエアルノの自警団が責任をもって送り届けますので!!」

「……時に門番、エルフの村の特産品は何だ?」


 話を聞いていないジルディアスの突然な質問に、門番は困惑しながらも答える。


「へ……? えーっと……世界樹の枝木細工や、最高級品になりますが、世界樹の琥珀ですかね?」

「ふむ、木細工に琥珀か……有機物だから倉庫(ストレージ)に入れられないな。だが、土産にはよさそうだ」

『……え、マジ? いいのか?!』

「……え、嘘だろ? 冗談だよな?」


 期待と楽しさの弾けた俺の声と、絶望のにじんだ門番のつぶやきが混ざる。

 門番のことなど気にしてもいないのか、ジルディアスはさらに質問した。


「フロライトに荷物を送る場合、どこに荷物を預ければいい?」

「えっと、冒険者ギルドか、商業ギルドですかね……? あ、あの、この少女は私どもが責任をもって……」

「気が変わった。今からエルフの村に向かう。ついでにその少女もつれていってやる」

「あっはい」


 随分押しの弱い門番は、思わず頷いてしまう。……コイツ、門番としてどうなんだ? ちゃんと仕事できてる?


 ただ、流石にそろそろ日も暮れそうな時間帯であったため、今日はエアルノの町で一泊することにした。適当な宿屋をとったジルディアスは、身支度もそこそこに眠りにつく。エルフの少女は、まだ目を覚まさなかった。




 翌朝、宿屋の階下が何やら騒がしくなっていることに気が付いた。

 相変わらず朝に弱いらしいジルディアスはぼんやりとしながらも、階下の騒動に気が付き、眠たそうに俺をつかんだ。あ、ちょっ、鞘外れる! 持ち方持ち方!!


「……何があった?」


 眠たそうに部屋から出てきたジルディアスに、宿屋の女将は困ったように言う。


「あ、お客さん。お客さんが昨日つれてきた女の子が、体が痛いって……」

「ああ、なるほど? 医者はいるか? 金は俺が払う」

「は、はい、今すぐ呼んできます!」


 ジルディアスはそう言うと、少女を預けた部屋に向かう。レベル1の簡単な光魔法しか使えないけど、治せる怪我なら治したい。一応、ジルディアス本人にも応急手当の心得はあるらしいと知っているため、もしものことがあればこいつか医者に頼めばいい。


 宿屋の薄い木扉を開けジルディアスはエルフの少女のいる部屋に入る。すると、ベッドの上で自分の体を抱きしめ、うめき声を上げる少女を見止めた。


「ああ、アアアアア!! 痛い、痛い!!」


 少女はぽろぽろと泣きながら胸をかきむしる。ジルディアスは一瞬ピクリと体を硬直させ、その場に突っ立った。


『おい、どうしたんだジルディアス?! もうちょっと近づいてもらえないと、何があったかわからない!!』

「……っ」


 俺の言葉に、ジルディアスはハッとしたかのように足を踏み出す。しかし、その足取りはいつものように慢心すら混ざっているのではないかと思えるほど自信にあふれたそれではない。おびえすらも感じ取れるような重い足取りの後、ジルディアスはエルフの少女のいるベットのそばに膝をつけた。


「どうした。症状を言え」


 いつものジルディアスの声。だが、その声に威圧感がない。若干距離があるような、そんな声だった。

 ジルディアスの問いかけに、少女はぽろぽろと涙をこぼしながら答える。


「胸が、胸の傷が痛いの」

「胸に傷?」


 少女の弱弱しい言葉に、ジルディアスは思わず首をかしげる。昨日の時点で、足以外の目立った外傷はなかった。当然、胸にも血痕はなく、傷があると思えなかった。


 ジルディアスは少し悩んだ後、少女の服に手をかける。


「見るぞ」

『おい待て、その子、女の子だから!! 簡単に服をめくろうとすんな!!』


 まだ本調子ではないのか、ぼうっとしているジルディアスに、俺は慌てて怒鳴る。流石に野郎が女の子の体を見るのはマズい。ジルディアスはハッとしたように手を止め、宿屋の女将に声をかけて胸を確認させた。


 女将は泣いて胸をかきむしる少女をなだめながら、服をめくる。そして、女将は首を傾げた。


「入れ墨……? 黒色で、二本のひっかき傷みたいな跡が残っているわ」

「助かった。しかし……入れ墨だと?」


 首をかしげるジルディアス。どうやら、彼も症状に心当たりはないらしい。俺はとりあえず、ヘルプを使ってエルフの少女の様子を確認する。


【ルアノ=エルバーナ】 Lv.5

種族:エルフ 性別:女 年齢:20歳

HP:30/29 MP:45/0 異常状態【バイコーンの呪毒】

STR:21 DEX:30 INT:39 CON:30

スキル

魔術の才能 弓の才能

光魔法 火魔法 水魔法 風魔法 土魔法


 あっという間に示されたステータス。


『うっわ、凄いな』

「何がだ?」

『あ、独り言』


 エルフの少女、ルアノは、かなりの好ステータスにたくさんのスキルを持っている。レベルも5だからということもあってか、ステータスもそこそこ高い。……もう少しスキルを欲張っても良かったのかな? いや、自分の才能上回ると、ヤバいらしいし、欲張らないくらいがちょうどよかったか。


 一応、ステータス自体はジルディアスの方が高いが、アイツはそもそも文字通りレベルが違うため、比較対象としては使いにくい。


『あー、異常状態に【バイコーンの呪毒】ってのがある。あと、年齢が20歳ってなってるけど、バグか?』

「ふむ、まだ子供ではないか……」

『あ、子供なんだ』


 ジルディアスの言葉でヘルプ機能を使い、エルフについて調べてみると、エルフの平均寿命は500歳であるため、人間の平均寿命である100歳と比べると、成長が5分の1であるという。ならば、20歳であるルアノは、人間で言う4歳ほどになる。なるほど、まだまだ子供だ。


 とりあえず、俺はバイコーンの呪毒について、ヘルプ機能を使う。すると、あっさりと詳細を見つけることができた。


『バイコーンの呪毒は、幻獣バイコーンの角にある毒素の一種で、毒素に触れた箇所を腐らせ、壊死させる。解毒方法は、光魔法のアンチポイズン……俺じゃできないな』

「アンチポイズンか……ポーションだと無理か?」

『はいはい……大丈夫っちゃ大丈夫だけど、あんまりよくはなさそう。名前の通り、毒だけじゃなくて呪いの要素も含まれているから、解毒できない場合が多い。だから、光魔法で呪いまで祓う方が効率がいいのだってさ』

「なるほど、理解した。__女将、ここにはアンチポイズンを使える者はいるか?」


 そう問うたジルディアスに、宿屋の女将は表情を曇らせる。


「すいません、町にいた光魔法使いは今、エルフの村に向かっていて……帰ってくるのは行商についてくる形になるので、1か月後になります」

「……なら、こいつを担いでエルフの村まで運ぶしかないな。1か月も持つようには見えん」


 そう判断したジルディアスは、エルフの少女、ルアノに問う。


「眠らせるが、いいか?」

「……いい、よ。痛いの、忘れたい」


 涙をこぼしながら、弱弱しい声で言う少女。かきむしった胸は痛々しく爪痕が残り、ベッドの上をのたうち回ったせいで、シーツはぐちゃぐちゃになっていた。


 ジルディアスはルアノの返事を聞き、そっとルアノの頭に手をのせる。少女の頭が小さいためか、ジルディアスの手が大きいためか、頭に乗せた手はかなり余っていた。


「ならいいだろう。闇魔法第1位【スリープ】」


 短い詠唱の直後、あれだけ痛がっていた少女はぱたりとベッドに倒れ込む。驚きのあまり短く悲鳴を上げた俺と宿屋の女将だったが、ジルディアスは短く言う。


「ただ眠らせただけだ。しばらくは目覚めない。ただ、流石に眠らせ続けると体に悪い」


 ジルディアスは短くそう言うと、宿屋の女将にエルフの村までの地図を頼み、彼自身は急いで上の階の荷物を取りに行った。……俺をおいて行って。

エアルノの町


 ゲームにおいてはさほど意味を持たない、名前とマップだけの町。そばにヒルドライン街があるため、この町に寄るのは大抵旅の時間配分を間違えたときや、不測の事態が起きた時のみである。そのため、治癒院が一応ある。たいていの場合、エルフの村の村人の方が光魔法が得意であるため、あまり仕事はない。


 特産品も特になく、エルフの村から仕入れたものの卸売りや交易などで生計を立てている。

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