2話 割と真面目に人生をかけたキャラシ作成
前回のあらすじ
・恩田「死んだ!!」
・女の声「ごめんミスった」
・男の声「そのまま輪廻転生するか、転移するか選んで」
男の声からの説明の後、俺はさっそく『体』の作成に入った。
『とりあえず、種族は人間……何か、めちゃくちゃスキルとかあるけれども、これって何ですか?』
「スキルとは、端的に言えば才能のような物ですね。たとえば、火魔法のスキルがあれば、特別な過程を踏まずに火魔法を行使することができます。ああ、あと、あまりやたらめったにスキルをとると、魂が変貌してしまう可能性があるので、悪しからず」
『待ってくれ、魂が変貌するって何?!』
思わず突っ込んだ俺に、女の声はきょとんとした反応を返す。
「いや……自分の能力以上を得ようとするなら、必然的に魂が歪むとは思いませんか?」
『そう言うのって先に説明しないか?!』
転移チートでウハウハ、と考えていた俺は、一気に頭の熱が冷めるのを感じた。そうだ、これは、命がけで生き返るのだ。当然、そこにはリセット機能も無ければセーブだってできない。
そして、生き返った後は、あくまでも自己責任でしかない。一時の判断で馬鹿らしいことを考えれば、それは一生付きまとってくるのだ。
俺は顎に手を当て(どっちも今の俺にはないと言ってはいけない)、深く考え込む。結局のところ、俺は産まれてこの方魔法など使ったことがないし、何なら武器らしい武器も持ったことがない。しいて言うなら、中学校の部活で陸上部をしていたが、それも万年補欠だった。
__非戦闘系のスキルをとって、無難な生活を送る……? だとしても、STOの世界観は確か、魔物とかいたし、何なら魔王いるし、王も貴族もなんだかんだできな臭いし……
できれば長生きしたい俺にとって、できれば戦いとは無縁の人生を送りたいが、魔王がいるとなれば結局どうしようもない。親友曰く、初心者にお勧めなスキルは、敵と距離をとって戦える弓だということだが、扱ったことのない武器を持ったところで意味もないだろう。
とにかく、あの女性の声曰く、スキルとは才能のような物であるという。なら、最低でも一つの才能はあったほうが良いはずだ。というか、あっても自分が自分でなくなるほどには変り果てないはずだ。
ゲーム内ではスキルポイントのことさえ考えなければ、ほぼ無限にスキルを習得することができるらしい。スキルポイントでスキルレベルを上げない限り、スキルは弱いままであるため、ある程度の選定と節制は必要であるらしいが、正直、STOをやっていない俺には、どんなスキルをとればいいのかがわからない。
俺はしばらく悩んだ後、ともかくスキル以外を決めることにした。
STOはRPGであるため、基礎的なステータス、STR、DEX、INT、CONと言った四大要素とHP、MPなどがある。幸運や空腹値などと言った隠しステータスもあるらしいが、このキャラクターシートを見る限り、そういった隠しステータスに関するマスはない。まあ、空腹値に数値を振ったところで何があるのか、と言う話ではあるが。
たしか、耐久を上げるためには、CONとHPに数値を振ればいいのだったか。そこまで考えたところで、俺はふと、あることを思い出す。
__数値にいくつかきこんでもいいはずだけれども……レベルが1から変えられない現状、極端な数値をかきこむと崩壊するかもしれない。
せめて平均値を知りたいところだ。そう思った俺は、女の声に向かって聞く。
『すいません、ステータスの平均値ってありますか?』
「はい? ああ、なるほど……種族にもよるとしか言えませんが」
『人間の平均ステータスはどうでしょう?』
「人間の平均ステータスですか……レベル1ですと、STR、DEX、INT、CONがそれぞれ5、HPが15、MPが10、と言ったところでしょうか? 才能やスキル構成によって多少は変わりますが、平均はそれくらいです」
『なるほど……ありがとうございました』
女の声の説明を聞いた俺は、画面とにらめっこする。正直なところ、俺に接近戦は向いていない。いくらスキルをとったところで、俺に『日本人』としての常識と倫理観が身についている以上、剣を振るって生物を殺すことなどまずできない。というか、したくない。
なら、手に職を身につける必要があるが、STOの世界には、何もしなくても向こうから襲ってくる、魔物がいる。プレイヤーから見れば資材と何ら変わりない存在だが、戦う手段がゼロであれば話は別である。
__魔法を少し……つっても、できれば逃げるのに活用できるような魔法を……光魔法を選んでおくか。
光魔法なら、低レベルでも回復と目くらましの魔法が使える。あと、少しスキルレベルを上げる必要があるが、光魔法にも攻撃魔法がある。自衛にも転用できるはずだ。
__あとは、手に職つけるために錬金術を選んで……魔法とアルケミーを使うなら、INTとDEXに少し多めにステータスを振り分けたほうが良いか?
近接的な戦いを避けるなら、耐久値に関わりのあるCONと物理的な力に関わりのあるSTRは、減らしても問題はないだろう。STRとCONに2と書き込み、INTを8、DEXを8、HPを10、MPを15にして、俺は一度キャラクターシートを見返す。
【恩田裕次郎】 Lv.1
種族:人間 性別:__ 年齢:__
HP:10 MP:15
STR:2 DEX:8 INT:8 CON:2
スキル
光魔法 Lv.1(熟練度 0)
錬金術 Lv.1(熟練度 0)
__あとは年齢と性別……できるだけ今と離さないほうが良いって言っていたよな……性別は男、年は19っと。後は、何かあるのか?
ざっと確認するも、そこまで重要そうなものはない。
『こんな感じでどうですか?』
「はい、おおよそ大丈夫です。年齢19ということなので、装備品を選んでおいてください。確か、人間は何かをまとっていないとだめなのでしたよね?」
『あっ、そうですね。全裸はちょっといろいろ問題がある……と思います。異世界なんで、俺の常識があっているかはわからないんですけど』
俺はそう言いながらも、画面に提示された服を眺める。とりあえず、下と上をしっかり隠せて、丈夫そうなものなら何でもいいだろう。あとは、現地である程度目立ちすぎない無難な配色であれば、よりいい。
結局、しばらく悩んだ挙句、麻布の長ズボンと、綿の長そで、そして、革製の上着を選ぶ。武器はない代わりに、魔法の発動体は融通してもらう。
__あとは職を手に入れるまで食いつなげる程度のお金が欲しいけど……さすがにそこまではダメか。
とりあえず、転移したら革製の上着はすぐに売り飛ばすことになるだろう。まずは生き残ることを考えなければならない。後はもう一つ、どうしても確認しなければならないことがある。
『すいません、これから行く予定の世界の常識を教えてもらえませんか? 特に、貨幣価値や一般常識などは知らないとちょっとどころでなく困るかと思うので……』
「うーん……そうですね、一から全部教えるとなると、時間がかかりすぎるので、私から祝福と言う形でヘルプ機能をつけておきますね。それで適宜確認してください」
女性の言葉とともに、画面の一番下に『ヘルプ機能 Lv.1(熟練度 0)』の文字が浮かび上がる。それのおかげか、全てのスキルやステータスの横にインフォメーションマークがつくようになった。試しに、光魔法のインフォメーションマークを意識すると、『属性魔法の一種。使用可能魔法、【ヒール】【ライト】』という表示が浮かび上がってきた。
『ありがとうございます。あと、言語ってどうなっていますか?』
「日本語に訳されますので、あまり気にしないでください」
『わかりました』
納得した俺は、しっかりとキャラクターシートを上から下まで読み返し、書き忘れや数値の漏れがないことを確認する。そして、一つ一つをヘルプ機能で確認し、間違いが起きていないことを確認してから、女の声がする方に、キャラクターシートを提出した。
『これでお願いします』
「はい、分かりました。__先輩、実装しちゃって大丈夫ですか?」
「ちゃんと座標確認と提出チェック忘れるなよ?」
「はーい!」
やや気が抜けるような会話の後、男の声が俺に話しかけてきた。
「今回は我々のミスで寿命が早まった。よって、彼女が君に付与した祝福以外に、もう一つの祝福を与えよう。具体的には、スキルの効果を二倍にする祝福だ」
『……! そんなのをもらって、俺って大丈夫ですか?!』
「問題ない。と言うよりかは、祝福で魂が変貌することはない。設定する側が特別に付与しているだけだからな。それで魂が歪むなら、支配人側の不手際だ」
『なるほど……ありがとうございます』
キャラクターシートに、『祝福』の文字が刻まれる。インフォメーションで確認すると、『スキルの効果二倍』の文字が浮かび上がった。かなりすごい効果の祝福をもらったものだ、と思った俺は、脳裏に『チート無双』の文字が浮かぶ。
__いやいや、駄目だ。長生きするんだろう? 余計なことをしたら、妙なことに巻き込まれるじゃん。貴族のお嬢さんに気に入られちゃったり? 冒険者として大成しちゃったり? ハーレム作っちゃったり?
今思えば、調子に乗っていたのだと思う。
だがしかし、鼻は伸びればいずれへし折られるもの。そもそも、俺自身が神の手違いという不運で命を落とす程度の『幸運値』だということを忘れてはいけない。
ああそうだよ。俺は、どうしようもないほどに運が悪かった。
すべてが決定し、俺は異世界に送られる。
そして、気が付くと、俺は石の台座に突き刺さっていた。
『おい待て、おいおいおいおい、おい!!』
体を確認しようとすると、腕も足もない。魂だけだった状況と何ら変わりがないが、強いて言うなら、視界がはっきりしている。
今いるのは、レンガ造りの町並みの広場。少し高台にいるのか、人が下に見える。首を動かして足元を見ようとすると、首がないことに気が付いた。
『デジャブがすごいな?! いや待て、何だこれ?!』
パニックになりかけながら、俺は慌ててステータスを確認する。
【恩田裕次郎】 Lv.1
種族:__ 性別:男(?) 年齢:19歳
HP:10 MP:15
STR:2 DEX:8 INT:8 CON:2
スキル
光魔法 Lv.1(熟練度 0) 錬金術 Lv.1(熟練度 0)
ヘルプ機能 Lv.1(熟練度 0)
祝福
復活 Lv.1(熟練度 0) 変形 Lv.1(熟練度 0)
『……ハァ?! しゅ、種族が人間じゃない?! ってか、今、どうなって……』
あたりを見回し、そして、近くの建物のガラスが目に留まる。
ガラスに反射し映りこんでいたのは、一振りの剣。錆はなく、鞘もなく、ただ、石造りの台座に突き刺さり、風を浴びている。装飾の一つもなく、しかし、洗練された、所謂『機能美』によってその美しさを表す、剣。
表情が引きつるのを感じた。
『……俺、剣になってねえか?』
【プレシス】
STOにおける世界の名前。凶悪な魔物と戦いながら、人族が細々と生き抜いている。
なお、プレシスには現在確認されている限り6つの大陸があり、現在の人類領域は大陸一つだけである。文化と知識を持っていながら、魔物が強すぎて発展しきれていない。また、化学よりも魔法が発展しているため、電子機器のような物は存在していない。