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112話 戦乱のフロライト

前回のあらすじ

・ミニングレス=イルーシア戦の完全決着

・イルーシアやべーやつ

・ウィルたち勇者一行はテレポーターを使ってフロライトを目指す


(2021/11/08 7:38 追記)

 本日深夜投稿しました『60話 親子対決』は誤更新です。並列で連載中の小説の更新分を誤って聖剣転生で更新してしまいました。読んでしまった人、ごめんね?

 レッドドラゴンのオルス、メイスとともにフロライトの門前へたどり着いたのは、何と翌日の夜半ごろであった。あれだけ移動に時間がかかったのに、ドラゴンだとこんなにもすぐに移動できるのか。

 とはいえ、ずっと飛行を続けていたオルスたちはだいぶ消耗したのか、今はドラゴンの姿ではなく人型で道中仕留めたロック鳥をかじっていた。


「つ、疲れた……」


 ぐったりと道のど真ん中に倒れ、うめき声を上げながら血の滴る肉をかじるメイス。そんな彼女に、オルスはあきれたようにいう。


「余計な動きはするなと言っただろう?」

「だってぇ……」

「だっても何もない」


 オルスはあっさりと言いきり、ロック鳥のあばらの骨をかみ砕く。骨は優に親指程度の太さはあるというのに、まるで煎餅か何かのようにバリバリとかみ砕いている。とてつもない顎の力だ。


 その横で、ジルディアスとシスが栄養補給のために保存食を焚火であぶって食べている。ドラゴンの飛行中にまともな食事はできなかったため、しばらくぶりの食事だった。さりげなくウィルドも木の枝でチーズを炙っている。滅茶苦茶いいにおいしているけど、そんなに焚火に突っ込んでチーズ焦げない? 大丈夫?


 全員が人型になっている中、俺も一瞬だけ人間に戻ろうかと考えたが、今この場で戻っても別に食事ができるわけではない。おとなしく鎖から剣の姿に戻ったところで、俺はこの場全員にヒールをかけておいた。


 しばらく味気ない保存食を食んでいたシスだが、流石につらかったのだろう。無言で固いパンを噛みちぎっていたジルディアスを放置して、簡単な料理を始めた。


 長持ちするように焼き固められたパンを小鍋に入れ、乾燥野菜と水で軽く洗って塩分を少しだけ減らした干し肉を軽く刻んでから、カチコチパンの入った鍋に魔法で創った水と一緒に入れる。

 鍋を火にかけ、ある程度沸騰してきたところでイリシュテアで購入したスパイスと乾燥スープの素のようなものを鍋に入れ、少しだけかき混ぜて灰汁をとる。


 一連の行動を見ていたジルディアスが、首をかしげてシスに問いかける。


「何だお前、水魔法の適性があったのか?」

「いいえ、無いです。でも、加熱すれば味的には多少マシになりますよ」


 シスはそう言ってジルディアスから借りた金属製のお玉のような大きなスプーンで鍋をかき混ぜる。煮込まれたことであれだけガチガチだったパンはかなりふやけてきており、ビタミン補給の意味しか果たさない虚無味の乾燥野菜も水分をえて元々の野菜の姿を少しだけ取り戻していた。

 適度にスープを煮込んだ後、小皿で軽く味見をし、少しだけ岩塩を削って鍋に入れる。そして、火からおろすとスープを皿に取り分けた。


「はい。パンスープの完成です。……その、ユージさん。よかったら、どうですか?」


 えっ、マジ? シスさんの手料理、食べられるの?

 反射的に剣から人型に戻った俺は、素晴らしい笑顔を浮かべて首を縦に振っていた。そんな馬鹿丸だしな俺にジルディアスはあきれたような視線を投げかける。うるさいな、誰だって好きな人の手料理は食べたいものだろ?!


「いいんですか? ぜひ食べたいです!」

「ワタシもワタシもー!」

「こらメイス。空気を読みなさい。第一、お前だと鍋一杯だと足りないだろう?」


 地面から顔を上げ手を上げるメイスに、オルスはたしなめるように言う。そんな彼らにシスは苦笑いを浮かべて言う。


「パンは六つ煮たので、少しの量になってしまいますが、皆さんの分ありますよ」

「僕の分もあるのかい?」


 嬉しそうに目を輝かせるウィルド。炙っていたチーズは若干焦げが付いてしまっていたが、それでも表面の焦げを削れば十分食べられそうだった。

 原初の聖剣であるウィルドは、なぜか味覚を持ち合わせている。同じ聖剣だったら俺にだって味覚があってもおかしくはないものだが、残念なことに俺には味覚がない。それでも、シスの作った料理は食べたい。


 とりあえず俺はシスの配膳を手伝う。うまみの詰まったスープをたっぷり吸いこみ、とろとろになったパン。スパイスを使っているため、よい香りは漂ってきている。

 全員分取り分けたところで、俺は小さな金属製のスプーンをジルディアスから借りる。


「いただきます」


 軽く手を合わせてそう言ってから、俺はスプーンでほとんどだし扱いされた干し肉をすくう。そして、口に含んだ。……うん、ぬくもりと香りはあるが、味はない。塩漬けにしてから干した肉だし、多分塩味がするはずだけれども、そんな味は感じられなかった。


「おいしい! うまいぞ、シス!」

「ああ。人間の保存食は何度か食べたことがあったが、ここまで美味なものは久しい。とても美味しい」


 ドラゴン親子はそう言ってスープを食べている。

 ちらりとこちらを見るシス。どこかその表情には何かを質問したいような、少しだけ不安そうな感情も混ざっているような、そんな複雑な表情だった。俺は迷うことなく笑顔を浮かべて、シスに言う。


「温かくて、すごくおいしいです。ありがとうございます、シスさん」

「! あ、ありがとうございます、うれしいです」


 俺の感想を聞いて、シスはどこかほっとしたように笑顔になる。俺の嘘を見抜いているジルディアスは、黙って目を逸らし、取り分けられたスープを胃に流し込んでいる。……うん、言わないでくれてありがとう。


 ウィルドは楽しそうにスプーンでスープをつついている。行儀は悪く見えるが、彼自身食器を使って食事をとることがあまりないため、スプーンが物珍しいのだろう。ウィルド、手を使って食べるスナックとかファーストフードとかが好きだからな。


「パンがぷるぷる……初めて見た」

「煮込んであるからだろう。そら、さっさと食べろ。夜のうちに屋敷の状態だけは確認しておきたい」


 ジルディアスはそう言って空になった金属製の皿を水魔法で洗い、水分を拭いてから指輪にしまい込んだ。そう言えば、彼らしくもなく、若干焦っているというか、ピリピリしている……のはいつも通りなのだが。

 とりあえず俺は名残惜しい気持ちをスープごと飲み込んで、パンスープをかきこむ。フロライトっていうと、確かこいつの婚約者のユミルちゃんもいるはずなのだ。彼女が酷い目に遭いかねない以上、手っ取り早くこの反乱をおしまいにしてしまったほうが良い。


 ジルディアスの言葉を聞いたシスも、了承したように小さく頷く。そして、少しだけためらった後、恥ずかしそうにパンスープをかきこんだ。スプーンの持ち方からしても、普段はかなり行儀よく食事をしていたのだろう。可愛い。


 いつの間にかスープもチーズも食べ終えていたウィルドは、いつも通り楽しそうにニコニコ笑っている。


「壁の向こう、秩序の気配が強いんだ。横暴な人たちもいるけど、ほとんどの人たちが秩序を守ってる。守護がきちんと働いているみたいだ」

「__横暴な人、だと?」


 嬉しそうなウィルドの声に対し、ジルディアスの声は地を這うような怒りを含んでいた。感じた覚えのある威圧に驚いたのか、メイスは「ぴゃっ」と短い悲鳴を上げ、父オルスの後ろへ逃げた。

 うっそりとした微笑みを口元だけに浮かべるジルディアス。そんな彼の赤色の瞳は、怒りに染まっていた。


「ふはははは、随分と、度胸のある阿呆が俺の町にいるらしいな」

「うっわ、久々に見たぞこの悪役スマイル」

「張り倒す……いや、とっとと剣に戻れ」


 ジルディアスはそう言うなり、容赦なく俺の首をへし折った。一瞬過ぎて割と痛みはあんまりなかったけど、普通に言えよ。びっくりするだろ。


『相変わらずクッソ横暴だなお前。死ななくても変形できるからな?』

「そんなことは知っているわ、たわけが。俺は今、最高に苛ついている。愚か者は皆殺しにしてくれよう!!」

『いやいやいやいや、命大事にしようぜ? 主に敵の』


 そんなことを言い合っていると、シスが困ったように口を挟んだ。


「その、私はどうしましょう? 援護が必要でしたら手伝いますが……」

「それなら怪我人の救護を頼む。……フロライトの自警団も騎士団も連携は取れている。しかし、反乱軍どもがどう出ているかわからん以上、確実に損傷が出ているはずだ。」


 ジルディアスは光魔法が使えない。そのために、救護関連はどうしても他人に任せるほかなかった。シスは祓魔師として戦闘をメインに行うことが多いが、それでも本来は聖職者である。後方支援は得意な方であった。


 そして、ウィルドの方を一瞥し、一言。


「翼はしまえ。お前は戦闘に参加しろ。愚かどもを殲滅する」

「ん? いや、人間の内乱は別にこの世界(プレシス)に何ら影響を及ぼさないよ?」

「チッ、やはりそうか。まあいい。邪魔をしない程度に突っ立っておけ」


 あっさりと答えたウィルドに、小さく舌打ちをしながら、ジルディアスは言う。そして、最後にオルス、メイス親子に向かって言う。


「ここまでの運搬、ご苦労だった。とっとと帰れ」

「んえっ?! ワタシたちは何もしないのか?!」

「貴様らだと街を破壊しかねん。__この街も街にいる人間は一人残らず俺の所有物だ。所有物を勝手に壊されると気分が悪いからな」

『どんなジャイ〇ンだよ』

「……ジャ〇アン?」


 俺のつぶやきに、ジルディアスは小さく首をかしげて俺を一瞥する。ああ、気にしないでくれ。独り言だ。


 ジルディアスの指摘通り、メイスたちレッドドラゴンは本来の体の大きさや力量的に、人間の町程度簡単に破壊できてしまう。特にオルスはレッドドラゴンでも格が上の方である。あの例の白いファイアブレスを一度でも吐かれてしまえば、フロライトにかつてない大火事を巻き起こしかねない。


 圧倒的な力は魅力だが、そのせいで街を壊されてしまっては元も子もないのだろう。オルスは申し訳なさそうに笑うと、ぺこりと頭を下げて言う。


「娘と私を救ってくれてありがとう。帰りはどうする?」

「帰り……まあ、気にしなくてもいい。こっちへ戻る分にはウィルドが協力しないだろうとは思うが、魔王に向かっていくなら乗せてくれるだろう」

「魔王を討伐するのなら連れてってもいいよ。でも、あんまり優しく飛行できないかもしれないけど……」

「乗り心地はさほど意識しなくても構わない。最終的に戦闘できる状態で魔王の元へたどり着けばいいからな」


 ジルディアスはあっさりとそう言うと、俺を鞘にしまい、荷の整理を終える。そして、休憩するそぶりも見せず、さっさと立ち上がり、フロライトの街の方へと向かう。そんなジルディアスに、シスは慌ててついて行く。




 フロライトの外壁は、魔法の炎を使う高炉で作られた強化レンガで作られており、かなり堅牢である。正面門から堂々と侵入するのはジルディアスがフロライト家長男という事実を鑑みても安全であるとは言えない。……主に、ジルディアスを殺そうとした敵が、ではあるが。


 人気のない外壁前で、ジルディアスは周囲の様子を確認する。一般人なら外壁の上を巡回する騎士団に見つかって一発で殺されてしまうが、逸般人(いっぱんじん)……もとい、騎士団関係者の彼なら見つかっても問題はない。


 今回の一見は、完全に魔王が関わっていないため、ウィルドは協力しない。が、友情に免じて敵対もしないので、まあ、放置することしかできない。なお、今現在のウィルドは拾った木の枝を振り回して鼻歌を歌っている。彼が楽しいならまあそれでいいだろう。


『【変形】っと。これでいいか?』

「ああ。とっかかりさえあれば登攀くらい余裕でできる」


 登攀用の鉤爪に変形した俺を装備し、ジルディアスはあっさりとそう言って、目の前の外壁を見上げる。高さはおおよそ10メートル程度。確かに、コンクリートの一枚壁に比べればレンガである分とっかかりはあるように見える。が、しかし、それでも、レンガはぴっちりと隙間なく積まれており、いくら鉤爪があるとしても、どう考えても難しそうにしか見えなかった。


 でもまあ、多分こいつならできるだろ。


 半分思考放棄でそんなことを思いながら、俺はジルディアスに体力強化の魔法をかける。そして、ジルディアスは思い出したようにシスに問いかけた。


「お前は縄か鎖くらいなら登れるだろう?」

「あ、はい。流石にこの城壁を素手で登るのはごめん被りたいですが」

「素手は俺も嫌だな」


 ジルディアスはそんなことを言いながら、助走をつけると、高らかに跳躍。そして、短く詠唱した。


「【ウィンドステップ】」


 風魔法のウィンドステップで風を足掛かりに二段跳び。この時点ですでに高さは6メートルを超える。そして……


体術(グラップラースキル)三の技【二段跳び】」


 体術スキルの物理法則を無視するような脚力で虚空を蹴り、さらに跳躍。三メートルを無理やり跳躍して、あと1メートル。そこで、ジルディアスは手を伸ばして鉤爪を細いレンガの外壁に突き立てた。

 ぎし、と嫌な音が響いたが、すぐに突き刺さった鉤爪を起点に残り1メートルを登り切り、外壁の通路に降り立つ。


「うわぁぁあ?!」


 短い悲鳴。

 どうやら、丁度外壁を見回る兵士がいたらしい。二人一組で行動するために、一人が明かりの松明を取り落とし、場は一瞬混乱する。

 がしかし、まだ冷静だった一人の兵士がすぐに応援を呼ぼうとしたため、即座にジルディアスは行動した。


「【グラビティ】!」

「ぐっ……?!」


 俺を発動体に、ジルディアスは闇魔法を行使する。

 強烈なジルディアスの闇魔法を喰らい、兵士二人はその場に崩れ落ちて戦闘不能になった。

 そして、一人の兵士が取り落とした松明を拾い上げ、兵士二人に問いかける。


「ちょうどいい。現在のフロライトの様子を教えろ」

「誰が、侵入者に……!」


 動けない体を引きつらせながら、若い兵士がジルディアスに言い返す。あ、ヤバい、暴力するんじゃねえの。こいつ結構横暴だし……

 そんなことを思った俺とは裏腹に、ジルディアスは少しだけ眉をひそめただけで、すぐにもう一人の兵士の方へ目を向ける。そして、同じ問いをそちらに行った。


「現在のフロライトの状況を教えろ、ロッカル巡兵長」

「何故俺の名……っ、まさか、御身はジルディアス殿では……?!」


 どうやら、松明の明かりでようやく顔を視認できたらしい。ロッカル巡兵長と呼ばれた茶髪の男は、驚く若い男を横に現状を報告する。


「フロライトは現在、テレポートの術式で門を通過し侵入する国賊にたびたび襲撃されています。襲撃のたびに各個撃破を行っておりますが、何分国賊どもの人数が多く、対処しきれない部分は自警団にも防衛を割り振っているのが現状です。……大変不甲斐ない状態にしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いや、気にするな。国賊どもの傀儡師は誰だ?」

「現状はまだ未確定ですが……おそらく神殿派のクエイク公爵家か、現セントラル神殿司教のヴィウヴィスあたりが有力な線であると思われています」


 そこまでの報告を手短に聞いたところで、ジルディアスは「わかった」

と小さくつぶやく。そして、頭を抱え、ふー、と深くため息をつくと、最後の問いかけをロッカル巡兵長にする。


「……殿下はご存命か?」

「……不明です。ですが、国賊どもがフロライトを襲撃する理由が殿下をかくまっているという主張をもとに行われているものなので、おそらくご存命のはずです」

「わかった。なら、職務に戻れ」


 ジルディアスはそう言うなり、二人にかけていた【グラビティ】の魔法を解除する。そして、その瞳に狂気じみた殺意を滲ませ、吐き捨てるようにつぶやいた。


「__国賊どもを殲滅してから、殿下を救出する」

『……まあ、人殺す以外なら手伝うぜ?』

「ああ、安心しろ、お前は愚かな国賊に使うには切れ味が良すぎる。連中には苦痛の内に息絶えてもらう予定だ。貴様のような上等な武器を使ってやるわけがないだろう?」


 月明かりが、ジルディアスの残虐で、荘厳で、美しい笑みを照らし出す。

 __フロライト領防衛線、もとい、反逆者殲滅戦が、開始された。

 

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