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96話 従者兼祓魔師の恩田裕次郎

前回のあらすじ

・シスの裁判費用を稼ぐため、闘技場の大会に参加する

・恩田「手っ取り早く強くなりたい」

・ジルディアス「手伝ってやる」

 騎士とともに、俺は予選のバトルロワイヤルを戦っていく。

 といっても、結局俺はさほど戦力にはなれない。よそから寄生だのなんだの言われそうだが、実際そうだ。というか、あの騎士に勝てる気がしない以上、寄生だろうが何だろうが敵対しないほうが得策である。


 とてつもない殺気を感じ取り、俺は全力で体を伏せる。

 すると、頭上すれすれをモーニングスターが突っ切っていった。


 冷たい汗が背中を伝ったような気がする。俺の頭よりも大きな鉄球をぶん回したのは、モヒカンのようなヘアスタイルの巨漢。歯並びの悪い口元を大きく開き、巨漢は騎士に向かって叫んだ。


「イリシュテア聖騎士団団長アルフレッド!! 今日こそお前を倒す!!」

「また君か……」


 あきれたように言う騎士、もとい、アルフレッド。……待て、アルフレッド?


 俺の脳裏に、STOの情報がよぎる。騎士団長アルフレッドって、どっかで聞いたことがあるような気がするのだけれども……?


「アルフレッド、アルフレッド……あー、思い出した。対ジルディアス用重機か! もしくは魔王絶対殺すマン!」

「待ってくれ、何だその異名は?!」


 不本意だったのか、アルフレッドは間の抜けた声を上げる。しかし、俺はそんなことを気にしている暇はなかった。確か、アルフレッドってあれだ。友達が味方最強って言っていた従者だ。

 友人曰く、盾にするもよし、火力として活用するもよし、ひたすら光魔法をぶっ放させてもよしという、ジルディアス戦から魔王戦を存分に活躍させられる従者なのだという。


 騎士団団長とか言っていたから、俺はてっきりフロライトの騎士団かと思ってた。そうか、イリシュテアの騎士団の団長だったのか。ダンジョンイフで対ルナジルのために乱獲されてたって人だよな……


 なんとなく俺の同情の視線が目に入ったのか、アルフレッドは怪訝そうに眉を顰める。が、巨漢の鉄球男がいる今、俺を詰問している暇はないと判断したのだろう。大剣を構え、アルフレッドは巨漢との間合いを詰める。


 絶対に重いはずの大剣を、アルフレッドは簡単に振り回す。

 そして、その大剣の腹が、巨漢の腹筋を撃ち抜いた。あれだけ自信ありげだった巨漢は、その一撃であっさりと膝から崩れ落ちる。瞬殺もいいところじゃねえか。


 そうこうしているうちに、第一リーグでまだ無事に立てているのは、両手で数えられるほどの人数となっていた。そのころになると、アルフレッドとてわざわざ俺と手を組むまでないと判断したのか、次第に俺と距離を取り始める。


 緊張を殺すように短く息を吐き、俺は拳を握り締める。そして、急いでリングの中央へ走って移動した。立っている人間は既にもう少ない。そして、距離もそこそこある。


__今なら、決められる!


 左手の刻印に魔力を集中させ、俺は詠唱する。さんざん練習したんだ、成功しなけりゃジルディアスに殺される。

 客席をぐるりと見てみる。すると、端の方の席に、フードを深くかぶったジルディアスと、翼を隠し、完全に人に擬態したウィルドの姿が見えた。多分、ウィルドは応援してくれている気がする。


 飽和しそうになる魔力をまとめ上げ、スキルの効果を二倍にする祝福を存分に活用する。これが威力不足なら、ぶっちゃけこの後も勝てない。


「アルフレッド、避けろよ!! 威力増強……光魔法第五位【ライトジャベリン】!」


「?!」


 他の参加者と戦闘行為をしていたアルフレッドは、俺の声に驚いたように目を丸くする。そして、対面していた長髪の参加者の腹を蹴り、俺から距離をとって防御態勢に入る。


 一応、一時的にとはいえ共闘していた仲だ。警告はしておく。

 さて、俺は以前から【負けなければいい】と言った。そりゃそうだろう。まともに戦ったら勝てないのだから。


 ひたすら、ひたすら、一つの光の槍に魔力を集中させる。流石に、レベリングはしたがレベル10の光魔法を使いこなせるようにはならなかった。

 だからこそ、使うのは【ライトジャベリン】だ。


 数を増やさず、一つに集中。ひたすら、ひたすら、威力を高く研ぎ澄ませる。

 慌てて対処しようとほかの参加者がこちらへ駆け寄ろうとするが、もう、遅い。槍が崩壊しない極限まで魔力を注ぎ込んだライトジャベリンの穂先を、地面に向ける。そして、対象を選択することなく、叫んだ。


「食らえ、疑似ジャッジメント!!」


 光の槍が、地面に叩きつけられる。瞬間、すさまじいスパークが、飽和した魔力が、発生する。参考はエルフの村で(ジルディアスが)戦った、あのユニコーンの光魔法だ。

 当然、そんな衝撃波の中央にいる俺が、一番大きな被害を受ける。が、俺の特性上、死にはしないし、怪我もなかったことにできる。負けなければ、リングの外に吹っ飛ばされなければ、勝てるのだ。


「【復活】っと」


 普通に大やけどした右腕を復活で治し、俺はあたりを見る。ここは海の上であるため、土煙は上がらない。だからこそ、俺は確認できた。


「……。」


 リングの上に立っていたのは、俺と、大剣を盾にして光の衝撃波から身を守った、アルフレッドだけだった。……あれ? 二人だけ?


 俺は表情を引きつらせてジルディアスの方を見る。ジルディアスは小さく舌打ちをすると、黙って顔を横に振った。その目は、確かに馬鹿を見る目だった。


「……やべぇ、やり過ぎた」


 足元に広がる野郎どもの死屍累々。いや、死んでないし殺してないけど。

 殺傷性よりもとにかく吹っ飛ばしを意識した威力強化ライトジャベリン……もとい、疑似ジャッジメントを行使した結果、勝ち残っていた。

 こうして、第1リーグは俺とアルフレッドだけが勝ち残った。


__第1リーグ予選、アルフレッド、恩田裕次郎の二名が本戦出場決定。




 予選は一日かけて行われ、本戦は明日からになる。

 本戦では、まずは予選のリーグ分けで1対1のタイマン勝負を行う。本来なら1リーグあたり4人残るため、明日の本戦は16試合あるはずだったのだが……


「いやー、しでかしたと思ったけど、割といい感じな結果になったなー」

「馬鹿か貴様は。いや、馬鹿だったな」


 予選を通過した俺は、客席に移動して乾いた笑い声をあげることしかできない。そんな俺に対し、ジルディアスは酷く冷たい視線を向ける。

 いや、アレは俺だって不可抗力だ。よくて半分いなくなるくらいだと思っていたのだ。そう思ってたら、まさか光でアルフレッド以外全員失神するとは思わないだろ?

 確かに、落雷並みの光量が警告なしにぶっ放されたら、そりゃ気絶するよな。多分俺もするもん。


 ニコニコ笑っているウィルド。そして彼は、楽しそうに口を開く。


「四番目、次の試合、どうするの?」

「んー……明日は試合しなくていいらしいから、その間は修業かな……次の試合、アルフレッドだし……」


 そう、俺は明日の試合に参加しなくてもいいのである。

 本来なら、一つのリーグで4人が勝ち残り、明日の一対一の試合でベスト16を決定する__つまり、勝ち残ったリーグをさらに半分の人数に減らす__予定だった。しかし、第1リーグでは勝ち残ったのが俺とアルフレッドの二人だけ。そのため、予選通過と同時に俺はもうすでにベスト16に割り振られていたのだ。


 次に俺が出場しなければならない戦いは、ベスト8決定戦。つまり、明後日の試合である。

 俺が必要なのは、シスの裁判費用になる金貨10枚。ベスト8に入ることができなければ、金貨10枚以上の賞金は得られない。


 つまり、次の対戦相手……第1リーグの生き残りであり、味方最強と言われていたアルフレッドに、どうにか勝たなければならない。……あれ? ヤバくないか?


「まって、どう勝てばいいんだ? 無理ゲーじゃね?」

「負けなければいいだけだろうが。仕組み的に貴様には疲労と言う概念がないのだから」

「いやいやいやいや、え? 逃げ続けんの? 前大会優勝者相手に?」


 そう、アルフレッドは、闘技場大会優勝常連者である。何で運営側はアイツの参加を拒否しないのだ。さっさと殿堂入りさせてやれよ。

 泥仕合をしかけるにしても、全力で頑張るにしても、負けたら意味がない。そう考えると、まるで俺に勝ち目がない。単純に、実力が無さすぎて負ける未来しか見えないのだ。


 え? どうすれば良いんだ?


 思考のドツボにはまりそうになった俺に、ジルディアスはあきれたようにため息をつき。小さく舌打ちをした。


「救いようのない阿呆だな、貴様。いいか、お前は__」


 海風が、すり鉢状の闘技場に吹き込む。

 ジルディアスが提案したのは、確かに俺でも格上に勝てそうな、それでもあからさまに泥仕合で、さらには卑怯と罵られてもおかしくないような方法であった。


「……何か、ちょっとアルフレッドに申し訳ない気がするな」

「そんなことを気にしている暇が、貴様にはあるのか?」

「ないな。なら仕方ないか」


 思いのほかあっさりと掌を返せたことに、俺は若干驚いた。何か、人としてダメになってきた気がする。……まあ、普通に戦えば負けるから、真っ向勝負などする気はないが。





 第3リーグ。そこでは、勇者ウィルの参加する予選が行われていた。

 資金不足だからと言うわけでも、知り合いが裁判にかけられたからと言うわけでもない。単純に、魔王城へ向かうための船が出るまでに日数がかかるため、腕試しのために参加していたのだ。


 サクラは第7リーグに、アリアは第8リーグにそれぞれ割り振られ、風精霊の愛し子であるロアは、参加を見送り三人の戦いを見守ることにした。

 第三リーグの試合中であるため、サクラとアリアはウィルを応援しつつも、自分たちの試合のためにアップを行う。


 ウィルは自分への応援に気が付きながらも、それに対して返事を返せるだけの余裕がなかった。


 聖剣を右手に、片手持ちの盾を左手に持ったウィルは、必死に己に降りかかる攻撃を打ち払いながら、盾で相手を海に突き落とすという戦法をとっていた。人数の多い今、とにかく頭数を減らさなければ、まともに剣を振るうことさえままならないのである。


「……。」


 ウィルは、まだ己が何をなすべきか、何をすべきか、見えていなかった。

 ただ、ジルディアスと言う己にとってはあこがれの人を追いかけ、そして、勇者になった責務として魔王を討ち果たすという使命を、漠然と追っていただけだった。


 だからだろう。だから、アーテリアの町では、街を守ろうと必死に抵抗していた芸術家アーティを殺しかけてしまったのだ。己の力だけでは、救うという判断さえも見つけられなかったのだ。


__僕は、未熟だ……!


「しねえええええ!!」


 スキンヘッドの男が、物騒な叫び声を上げながら、ウィルに向かって剣を振りかぶる。しかし、ウィルはその声に動揺することなく、盾で男の振り下ろしを受け流した。


__もっと、もっと、強くならなきゃいけない……!


 何をなすべきなのか。何をすべきなのか。何を目指すべきなのか。どうすれば良いのか。なにも、何もわからない。

 だがしかし、力が無ければ、望む未来の選択肢はつかみ取れない。弱いものに選択権は与えられないのだ。だからこそ、真っ暗な道の中、ウィルは何でもいいから、とにかく無我夢中に前進することを選んだ。


 前へ、前へ、前へ!


 盾と剣がこすれ合い、高い音が響く。次の瞬間、ウィルはスキンヘッドの男の足を蹴りはらい、体勢を崩した。

 男の動揺の声を聞き流し、ウィルは容赦なくスキンヘッドの男を海へと突き落とす。


 進んでいる方向が、正しいかどうかなどわからない。それでも、止まるのは、止まるのだけは、嫌だった。ダメだと思った。


 101本目の聖剣を握り締め、ウィルは歯を食いしばる。

 世界を救うためではない。何か、何か、つかみ取れるような目標が、縋れるだけの目標が、欲しかった。


__僕は、どうなりたいのだろう……?


 まだ、決意の付かない迷える勇者は、迷路の果て(目指すべき答え)を探していた。

【アルフレッド】

 STOでの最強従者。アタッカーとタンクを兼任することができ、ついでに光魔法も扱えるというハイスペック従者。能力が魔王メタであるため、必然的に光魔法が弱点であるジルディアスにも通用する力量を持ち合わせている。


 ちなみに、余談ではあるが、アルフレッドは程度の超えた鍛錬馬鹿であり、頭は良いのに脳筋な行動をしがち。


アルフレッド「邪魔な壁がある? なら粉砕すればいいだろう?」

司教「頼むからやめろ。神殿の予算には限りがあるのだから!!」

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