表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/181

95話 闘技場なう

前回のあらすじ

・フロライトの金貨が使えなかった

 まさかの通貨の違いで裁判費用出資不可と言う最悪な状態になった翌日。俺はジルディアスとともに門の外へ繰り出していた。


 門の外に出れば、聖剣に変化していたウィルドも人型に姿を変える。最近はずっと翼を生やしたままだったため、今日は羽根はなしでその代わり、腕を猛禽類のような鋭い爪の付いたものに変質させていた。


 ジルディアスはフードを下ろすと、指輪の倉庫から金属製のロッドを取り出す。そして、苦虫をかみつぶしたような表情をして、俺に言う。


「さて、まず先に言っておくが、金貨の件は、俺も想定外だった。それだけは弁明させてもらおう」

「いや、仕方ねえよ。で、どうするつもりだ? シスの処刑まで、後一週間らしいけど、魔石換金して金貨10枚まで行けるか……?」

「おそらくだが、相当きついだろう。どうにかしてフロライトの貨幣を換金する方法を考えるのが手っ取り早いが、先に言っておくと、それは少し遠くの村にでも行かない限り、できないな」

「へえ、イリシュテアって結構でかい街だから、換金できると思ってた」

「いろいろあってな。イリシュテアではフロライトの貨幣は換金できない」


 ジルディアスは肩をすくめてそう言うと、軽くロッドを構え、短く詠唱する。


「闇魔法第五位【ダークジャベリン】」

「うぉっ」


 ノールックで影の槍を後方へ射出するジルディアス。魔法の槍は見事にこちらへ近づこうとしていたスケルトンの頭を打ち砕く。頭蓋骨を失ったスケルトンはばらばらと崩れ散った。


 ジルディアスは短く息を吐き、俺に言う。


「一番手っ取り早い方法をとる。__つまり、お前には闘技場の大会に参加してもらう」

「……へ? 俺?」


 俺は思わず間の抜けた声を上げる。何で? 戦闘に関してはジルディアスの方が適任だろ?

 そんな俺の疑問に答えるように、ジルディアスは小さく首を横に振る。


「俺は基本闘技場の大会には参加できん。というか、神殿に目をつけられている以上したくない」

「ああ、なるほど……」


 神殿の権威の強いこの街では、ジルディアスはできるだけ目立たないようにふるまっている。闘技場と言うだけで若干嫌な予感がしないこともないが、このままだとシスが無罪のまま処刑される。そんなことは絶対に嫌だ。


 俺はジルディアスに確認する。


「__なあジルディアス。大会まで休息なしで訓練すれば、俺はどれだけ強くなれる?」

「ふむ……魔剣、お前の身体は聖剣である以上、筋トレのような肉体増強系の訓練はまるで身にならないだろう」

「……っ!」


 あっさりと紡がれたジルディアスの返答に、俺は小さく息を飲む。

 光魔法の通用するアンデットならまだしも、俺は対人戦はまるでできない。さらに、闘技場ならばいつものように自殺特攻することもできないはずである。


 しかし、奥歯を噛みしめた俺に対し、ジルディアスはニッと笑みを浮かべると、言葉を続ける。


「だがしかし、逆説的に言えば、貴様は体を作るための基礎訓練を飛ばして実践練習をすることができる。ついでにスキル熟練度は時間が無ければ練習できない。睡眠も呼吸も休息も魔力回復すら必要ない貴様なら、詰め込み方次第で青天井の成長性がある。__あの女祓魔師を救いたいなら、死ぬ気でやれ」

「……! わかった!」

「悪いがウィルド。お前も手伝え。お前等二人は飲食なしでも生きて行けるだろうが、俺はそうはいかない」

「いいよ。ずっと本を読んでいるのも、飽きたから」


 ジルディアスの指示に、ウィルドは笑顔で首を縦に振る。

 マジか、二人とも、協力してくれるのか……?


 俺は左拳を、ぎゅっと握り締める。この二人が本気で協力してくれるのだ。絶対に結果を出さなければならない。いや、絶対に結果を出す。


「ジルディアス。金貨10枚以上の報酬が確定しているのは、大会の何位からだ?」

「ベスト8に入った段階で、金貨20枚の報酬が確定する。予選はバトルロワイヤル形式で残った32人が本戦出場決定だ」

「えーっと、予選を勝ち抜いて、さらに二回勝てばいいのか……?」

「そうなるな」


 ジルディアスはそう答えながらも、ウィルドに視線で指示をする。ウィルドは一瞬きょとんとした表情を浮かべたものの、ジルディアスの意図が読み取れたのか、笑顔で頷いて、猛禽の腕を小さく広げ、神語魔法を発動させる。


精霊よ(ピクスタ)光を(ライア)ここに(エルス)


 短い詠唱の直後、柔らかな黄金の光が周囲に満ちる。穢れた大地が浄化され、簡易的な対アンデット結界が敷かれた。これで、アンデットに余計なちょっかいを出されることはなくなった。


 光魔法の満ちる空間に、光魔法が弱点であるジルディアスは少しだけ居心地悪そうにしながらも、ロッドを指輪に戻し、代わりに片手剣を取り出す。

 そして、口元に凶悪な笑みを浮かべたまま、俺に言う。


「構えろ。大会へのエントリーは当日名乗りを上げるだけだ。よって、予選が始まるまでの二日間……いや、62時間はひたすら訓練に費やす」

「ああ、マジでありがとうな!」


 こうして、俺は文字通り丸二日と半日間を戦闘訓練に費やし、付け焼刃の戦闘能力を身に着けた。

 ただ一つ、訓練を通じて言えることがあるとすれば、もしもこの訓練の機会がもう一度あるのだとすれば、好きな子の命がかかっている訳ではない限り、二度とごめんだということくらいだろう。





 大会の日の朝。付け焼刃の実力を身に着けた俺と、フードを深くかぶったジルディアス、それに、剣に変形したウィルドは、何日前かに見た闘技場の前に立つ。


 水晶の神殿のある海上。白煉瓦の円柱状の建築物。そこでは、多くの人々が戦い、血を流し、勝利をつかみ、そして、命を散らしていく。まあ地獄じみた場所だ。


 しかして、地獄すら生ぬるい丸二日間と少しを終えた俺は、吹き抜ける潮風を頬に浴びながら、刻印を刻み込んだ左拳を握り締める。

 新しいスキルは入手せず、ひたすらに今所持しているスキルだけを伸ばし続けた。と言うか、さほど器用でない俺はそう簡単に手札を増やしても荷物が増えるだけで、意味がないどころかマイナスになりかねない。


 なんかこう、控えめに言ってめちゃくちゃ強くなったような気はしない。だがしかし、ウィルドとジルディアスの全力な支援で、ゼロから1にはなったはずである。いや、0.5か?


 俺がそんな回想をしていると、突然背中を軽く蹴られる。相当軽く蹴られたため、全然痛くない。いや、これが普通なのだ。背骨折れるレベルで蹴るほうがおかしいのだ。


「さっさと受付して来い」

「へいへい。予選くらいは潜り抜けてくるよ」


 俺の背中を蹴った主……眠たそうに大あくびをしながら言うジルディアスに、俺は肩をすくめることしかできない。応援の一言もねえのかよ。

 そんな中、ウィルドは剣の状態のままで楽しそうに言う。


「四番目、多めに勝って美味しいごはん奢ってよ」

「ウィルドはたかる気しかないな? ジルディアスにおごってもらうか、自力で大会に出ろ……いや、やっぱやめてくれ。人体ミンチは流石に見たくない」


 剣の状態でもウィルドが楽しそうに目を輝かせたのが容易に想像できて、俺は慌てて言いなおす。残念ながら、ウィルドはそう簡単に手加減ができない。ジルディアスか俺以外の人間が戦った場合、瞬殺されミンチと化すことだろう。……ああ、俺は耐えられるわけではなく、復活できるということだ。あと、俺は聖剣だから、一秒以下でミンチではなく金属片に変わるだけだ。


 とにかく、金貨十枚。金貨十枚さえ集められれば、それでいいのだ。無茶をする理由はなく、()()()()()()()()()()()()()



 俺はニッと笑って、ジルディアスの方を見る。ぶっちゃけ()()()()()()()()。クソみたいな泥仕合を繰り広げ、観客から罵倒される未来しか見えない。それでも、俺は勝たなければならない。……矛盾しているって? していないんだな、これが。


 右手を軽く上げ、俺は言う。


「行ってくる」


 俺のその言葉に、ジルディアスは面倒くさそうに小さくため息をつくと、しゃべろうとしたウィルドを左手で握り締めておさえ、右手をひらひらと振った。そして、言う。


「……行ってこい」

「……へ?」

 

 結構強めな海風が吹き抜ける。

 え? マジ? 返事した??

 驚きのあまり口元に両手を当てた俺。そんな俺を見て、ジルディアスは不機嫌そうに舌打ちをすると、全力で俺の足を踏みにじる。畜生、スパイク付きのブーツでの足踏みは殺意しか感じられねえんだよ!




 大会へのエントリーを済ませれば、運よく……いや、運悪く、なのか? とにかく、俺は待ち時間も待機時間もなくすぐに予選のバトルロワイヤルに参加することになった。


 予選はバトルロワイヤル形式で、受付時に配られたゼッケンによって参加者全員が8つのリーグのいずれかに配置される。ちなみに俺は第一リーグの48人目。多いのか少ないのか今一つわかりにくい。


 ルールはざっくりとだけしか説明されなかったが、要するに殺さなければ何でもありと言うクソルールであるため、あっても無くてもそう意味はない。人権、もしくは、倫理って知ってる? この世界(プレシス)に足りないもの筆頭の思想なのだけれども。


 闘技場は先述した通り、海上ある。

 より詳しく言うなら、海に馬鹿でかい柱を何本かたて、その上にリングを作っている。見物席は闘技場のリングを取り囲むように設置されており、リングと見物席の間には海水が満ち満ちている。さらに、見物席は海面すれすれにあるリングよりも三メートルは高くなっているため、逃げても見物席にのぼることはできない。


 リングに移動できるのは、唯一闘技場の門から一直線に続く跳ね橋だけで、その橋が外されてしまえば、闘技場から逃げ場はなくなる。一応、大会は神前裁判とは異なり、基本死人が出ることをよしとはしない風潮であるため、跳ね橋は大会中は外されるものの、完全に陸から遮断されることはなく、海に落下した場合はそこから救出されることになる。


 海の真ん中のリングの広さは、少し狭めの体育館くらい。動き回るには十分以上くらいの広さだろう。魔法があることを考えると、若干狭く感じられなくもない。


 飛行魔法は使ってもいいが、闘技場の外へ出たらその時点で反則負け。

 地面に潜る? ここはポ〇モンの世界ではないため、リングの下は普通に海で、潜ったら多分窒息死すると思う。

 結局、地に足つけて戦うのが一番だ。


 ぞろぞろと第一リーグ開始が近づくにつれて、リングに人々が集まってくる。参加者の武器は自前で持ち込みであるため、結構気合いの入った武器を持ってきているものも多い。


 結構人数が多いため、立ち回りが難しそうだ。

 ふと、右隣にいたイケメンな騎士とぶつかる。鎧と頭がぶつかったため、割と大き目な音がした。


「おっ? 済まない、鎧がぶつかってしまったか?」

「あー、すんません。怪我はしていないです」

「……あれ、君、武器はどうした?」


 イケメンな騎士は割と親切なタイプの人だったらしく、心配そうに俺を見る。彼の手には、刃渡りが俺の身長とそう変わらないほどの大きさの大剣が握られていた。重くないそれ?


 俺は左腕に刻印があるため、念のためインクとペンを服の裏側に隠し持っている。後はもしもの時にごまかすため、右手に魔法の発動体にもなる指輪をつけている。普通に素手で魔法を発動させた方が魔法の変換効率いいから、多分使わないと思う。


 けれども念のため、軽く右手を掲げて赤髪の騎士に指輪を見せておく。すると、彼は納得したのか、小さく頷いた。


「なるほど、君は魔術師だったか。互いに残れると良いな」

「ああ。そういや、アンタ、でっかい剣持っているけど名前は?」

「……知らなかったのかい。私は__」


 騎士がそこまで言いかけたところで、試合開始の爆発音が響いた。やべえ、ボーっとしてた!!

 油断していたのは、騎士も同様だったのか、彼もまた目を丸くして、俺と目が合った。


 散発的に始まる戦いの音、気合いの声、早くも海へ落ちる水しぶきの音。


 騎士と俺は、目を合わせたまま半ば無言で協定を結んだ。何故なら、予選は8リーグ。本戦に出場できるのは32名。つまり、バトルロワイヤルでは1リーグにつき4人が残れる。裏切られる可能性はゼロではないにしても、協力できるのなら協力し合うに越したことはない。


「光魔法第四位【バイタリティ】……そこのアンタ!」

「! ありがとう、魔術師くん!!」


 即座に強化魔法をかけた俺は、その場にしゃがみ込む。俺の意図に気が付いてくれたらしい騎士は、ニッといい笑顔を浮かべると、馬鹿でかい大剣を一気に振り回す。頭上を通過した大剣は、いっそ面白いほどに強くぶん回され、近くにいた男たちを一気に弾き飛ばす。


「結構いいね。いつもより動きやすい」

「そりゃよかった。怪我したら回復魔法も使えるが、アンタは必要なさそうだな」


 こちらへ切りかかろうとしていたスキンヘッドのおっさんの顔面をグーで殴りながら、俺はちらりと騎士の方を見る。

 騎士は相当な手練れなのか、ことも無さそうに群がる敵を蹴散らし、おしはらい、吹っ飛ばす。ちょっと敵が哀れにも見えてくる。うわあ、死んではいないけど、絶対痛いやつだよあれ。知ってんだ俺。


 鼓膜を揺さぶるような男たちの声。剣戟の音。

 予選リーグは、始まったばかりだったというのに、もうすぐにでも、決着がつきそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 100話ですね!おめでとうございます。 ジル様が最近ちょっとデレてきてるのが尊いです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ