3/やせ我慢
どうもこんにちは、かいみん珈琲です。
昔からSFロボットやファンタジーが大好きでした。
でも、たまには現代を軸にした社会風刺も書きたい今日この頃。
――という事で今回のテーマは『家族愛』です。
プロット段階では、短編にするつもりでしたが……
つい楽しく筆が進み、もしくは世界観を膨らませすぎで、
軽い連載モノになりました。
気軽に楽しく読んでいただけると幸いです。
●柿本ミユの自宅(夜)
「――ああ、もうっ!」
柿本ミユ、携帯端末と10分間にらめっこした結果、通話ボタンを押す。
数回のコール音。
その後、父である柿本トシキがテレビ通話で映った。
『オ、オレだけど……なんだ? ど、どうしたんだ?』
と、赤面した表情がさらに赤く染まる。
照れくさそうにカメラから何度も目を反らすトシキ。
「ぷっ、くく」
と、ミユは不意に笑ってしまう。
それを皮切りに、柔和な表情に戻る。
「……さっき強引に切っちゃったから、さ。今、少し話せる?」
と、自然と声が明るく弾んでいる。
収録前の苛立ち、電話する前の力む様子はない。
「食事はどう? 私がいなくなってもちゃんと食べてる?」
『これでもしっかり食べてるよ。お前の方こそ、食べてるのか?』
「うん、ある程度ね」
忙しい時は簡単にすましちゃうけど、と苦笑するミウ。
『あまり無理するなよ? 夕方にもいったけど……身体は辛くないのか?』
「大丈夫、大丈夫。お父さんこそもう50過ぎなんだから、仕事もほどほどにしてよねー」
『…………そうだな。うん、気を付ける』
「お父さん?」
『あ、いや。なんでもない』
と、頭をかく。
『なんというか、その……お前が家を飛び出して、もう5年も立つんだなと思って、な……』
「そうだよ。今の私がいるのは、お前には無理だっていわれながらも飛び出して、めちゃくちゃ頑張った結果なんだから」
『たまには、母さんにも会いにこい。心配してるぞ、きっと』
「……うん、ごめん。今度、時間をつくるね……」
ミユの母親は10年前に亡くなった。
家出のように反感を買いながら実家を出てから、ずっと墓参りにいっていない。
喧嘩別れした父親への気まずさか。
それとも自分を周囲に認めてもらう事で必死だったのか。
いまさら理由はどうでもいい事だろう。
××××× ××××× ×××××
たわいもない会話が続き、日を跨ぐ時間になった。
翌日を心配した父親に諭されてから、携帯端末の終了ボタンに指先をかける。
「おやすみ、お父さん。今日はその、心配してくれてありがとう」
『……ああ、おやすみ。ミユ』
5年ぶりの父と娘の会話にしては、上出来だろうか。
お互いに感情的にならずに済んだ事は、5年前と比べて信じられない進歩だろう。
「っもう、慣れない心配ばかりしちゃってさ。ホント不器用なんだから」
と、頬が緩むのは仕方がない。
「さて、と」
机の棚から大学ノートを取る。
ペンも手元に置き、ページをめくった。
「途中の作詞をぱぱっと片付けちゃいますかッ!」
左右の紙面には、すでに文字や記号があふれている。
今夜はこれを修正していくようだ。
「――とその前に眠気覚ましのコーヒーを」
ミユ、空のコーヒーカップを持って立ち上がる。
ふと、机の棚にあるCDの列が視界に入った。
透明なCDケースの中、焼けて赤黒く変色したカセットテープがある。
そのラベルには『お父さん ありがとう』と書かれている。
「初めて作った曲を聞いてくれた、最初のファンに恥ずかしくないように書かないとね」
ここまで読了ありがとうございました。
個人的には、ちょっと中身がなさすぎな印象がありますが……
「不器用な父親」と「夢にまっしぐらな娘」とのぎこちない仲を楽しめましたのでヨシ。
今後、物足りなければ他の作品で世界観共有してみようと思います。




