1/親子の仲
どうもこんにちは、かいみん珈琲です。
昔からSFロボットやファンタジーが大好きでした。
でも、たまには現代を軸にした社会風刺も書きたい今日この頃。
――という事で今回のテーマは『家族愛』です。
プロット段階では、短編にするつもりでしたが……
つい楽しく筆が進み、もしくは世界観を膨らませすぎで、
軽い連載モノになりました。
気軽に楽しく読んでいただけると幸いです。
●柿本ミユの部屋
柿本ミユこと、新鋭作曲家であるミュート。
2LDKのマンションの1室を借りている彼女の部屋には紺色の統一感がある。
寝具やカーテン、ソファやカーペット、小物。
それらは、淡い色から濃紺まで取り揃っている。
特段、高額なモノは置いてはいない。
だが、小綺麗に整っている居間を見渡す限り、どこか落ち着いた雰囲気が漂う。
ミユ、居間の隅に置かれた机に向かっている。
机上にはパソコン、そしてミニカメラが設置されていた。
「よし」
と、のぞき込んでいた手鏡をたたむ。
パソコン画面には、ミーティングアプリの映像が映っている。
その下には、小さなミユの姿。
気持ちばかり、画角のズレを直してミニカメラの位置を調整する。
「――これから始まるリモート収録は夕方3時から5時まで。それが終わったら、再来週に食い込んじゃった仕事のスケジュール調整だから」
と、カメラの死角にはスタンドに立てた携帯端末がこちらを向いている。
そちらに映るのはスーツ姿の男性。
聞きなれた番組のラジオのように残りのスケジュールを発信している。
「了解です。あ、マネージャー。その調整が終わったら、今日はお終いですか?」
そうだね、とマネージャーが頷く。
「それと、ミユちゃん。次の曲の事だけど――」
マネージャーの言葉に被さってくる、通話のアイコン。
ミユ、『お父さん』という表示に表情がぎこちなくなる。
「ごめんなさい、マネージャー。ちょっと父から電話が……」
と、携帯端末に指先をあたる。
しかし陰鬱な気持ちが邪魔をしているのか。
細い指先は一向にフリックしない。
「……本番まであと20分だから、手短にね」
「はい、わかっています」
マネージャーの姿が、灰色の人型シルエットに変わる。
テレビ通話ではなく、音声通話のようだ。
向こうにいる声の主、咳払いを挟んで開口する。
「や、やぁ久しぶりだな、ミユ。あれから元気でやってるか?」
正真正銘、5年ぶりに聞く父親のしがれた声だった。
「……うん……まぁね」
「仕事もどうだ? あれから父さんも少し頭を冷やしてな……毎回じゃないが、父さんもお前が出演する番組を見るようにしてるんだ」
「そう、なんだ……ありがとう……」
と、辟易した返答。
「こんなご時世だ。色々と大変な事もあると思うが……父さんも、その、応援してるから、な……」
「……うん、大丈夫。気にしないでいいから……」
柿本ミユの父、柿本トシキを一言で表すならば、不器用な人間である。
有り体にいえば、融通の利かない頑固親父そのもの。
そして、家庭よりも仕事を優先する気質だった記憶がある。
――いや、母が亡くなってもなお、未だそうなのだろう。
テレビ電話や自宅からのリモート収録が当たり前になった現代。
まだ、こうして音声通話をしてくるあたり、時代の流れに乗れない所がうかがえる。
そしてタイミングが悪い事に、そろそろ収録の本番。
せっかくの盛り上がった高揚感もかげってしまう。
5年ぶりに話す娘との会話にしては、抑揚のない無難な言葉が続く。
まさに中身のない会話だった。
生返事をする中、右指の5本がせわしなく机で弾む。
「――お父さん、ごめん。今からテレビの収録だから切るね」
「そうか、こちらこそすまん。また……その、かけなお――」
と、最後の言葉を待たず、電話を切る。
時計の針は、本番の5分前を指している。
ミユ、深いため息を漏らす。
重くなった肩もズンと下がっていく。
気づけば足を投げ出し、浅く腰かけてしまっていた。
「いけない! いけないよ!」
と、頭を左右に振る。
そうして暗い気持ちや雑念を飛ばしたおかげか。
5分後の収録には柔らかい表情が浮かぶ。
『本日のゲストはこの方。時代や若者ときめかせる、新鋭作曲家! ミュートさんです!!』
「はい、どうもー! よろしくお願いします!!」
ここまで読了ありがとうございました。
個人的には、ちょっと中身がなさすぎな印象がありますが……
「不器用な父親」と「夢にまっしぐらな娘」とのぎこちない仲を楽しめましたのでヨシ。
今後、物足りなければ他の作品で世界観共有してみようと思います。