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五十一話 サーノの歌?を聞こう

『よーぉ未来あるクソガキ共! お楽しみかァ!?』


 サーノがステージに躍り出た。

 爆破魔法が派手に轟き、観客を身体の芯から震わせた。

 先日のロックンロールなパフォーマンスが知れ渡っているのか、サーノが出てきただけで会場の熱気は一気に最高潮である。


『こないだのファンキーなナンバーだけどな、発禁だとよ! 楽屋でこってり絞られちまった! だから今日はお子様向けにお行儀よく……なーんて、言うと思ったか!? 医務室暖めとけよ姫さん!! テンションブッ壊してくからなこんにゃろーっ!!』


 実に獰猛な笑顔で、観客の期待を煽るサーノ。

 今日のサーノは鮮烈なワインレッドのツーサイドアップ。頭部はピンクの星型アクセサリーで飾り立てられ、左頬には星のタトゥー。服装はレザーのジャケットにタイトスカート。

 クールで辛口の仕立てである。小麦肌がちょっぴりアダルティー。


『そんでは一曲お聴きくださりやがれ! 「敵襲アラーム」最大音量!!』


 この街のアイドルが持つマイクは、あらゆる楽曲をタイトルひとつで再生できる高性能アイテムである。

 曲というのは、民謡や童謡、伝統音楽すらも、所持者の記憶からメロディーを引き出し再生するのだ。

 曲の体を成していないような警報すら、高音質で再生可能である。

 けたたましい警報。自動で動くライトが律儀に反応し、本来はアイドルを大写しにする巨大魔力光モニターが真っ赤にライトアップされた。


『見えるか、若者! 乱闘のお時間だ!!』







 アリコーの外、雪原。

 魔力が散らされた、「魔力の真空」とでもいうべき地帯に、転移のルートが開かれた。

 魔王軍が魔法で開けた、金色のふちの、鏡のような見た目のポータル。向こう側には岩盤の不毛の大地が広がっている。

 そこを通って、次々と魔王軍の亜人たちが現れた。

 転移ゲートは次々と開き、亜人たちの種類も数もどんどん増えていく。


「ガキを殺せぇぇぇっ! 人間の貴族令嬢に報復せよぉぉぉ!」


 先陣を切るオークが、魔王軍印の旗を高く掲げ、雄叫びを上げた。







『とまあこの調子で! なんか知らんが、敵だぜ!』


 サーノは巨大魔力光モニターに雪原の様子を映し出していた。

 遠見の魔法である。


『今から転移魔法を使うからよ、とっとと行って運動してこい! おさわりオッケー時間無制限の握手会とシャレこもうや!!』


「え、えーっと……」


「これ、どういう演出……?」


 観客は状況についていけず、互いに顔を見合わせている。


『ブオォォォォォッ!!』


 モニターに映ったオークが、画面に突進してきた。


『ボサッとしてるなよ!』


 サーノが転移魔法を発動する。

 フレームも何もない、飾り気ゼロの転移ルート。

 それがステージ中央に開き、


「──オオオォォォオオオオウ!? どこだここは!?」


 急ブレーキをかけて、モニターのオークが壇上に出現した。


「厄介ファン一号様だっ!」


 オークは状況を把握する余裕もないまま、サーノの容赦ない延髄蹴りを叩き込まれた。


「ブモオオオ!?」


 巨体が観客に向かって吹っ飛んだ。


「きゃあああ!?」


「や、やべぇ! やべぇ演出だ!」


 観客たちが逃げ出した空洞に、どんがらがっしゃん、と座席や簡易機材を圧し潰しながらオークは落下した。

 キックと共に流し込まれた不意打ちの痛覚活性魔法で気絶していた。


『盛り上がってるか反骨の若者ども! 立て! 武器を持て! にっくきテロリズムの魔王軍が、てめぇらの街を蹂躙しに来たんだよ!』


「え、これ本当に魔王軍の旗……!?」


「じゃあ、今街の外には、魔王軍が……!?」


 どよめく観客。


『やっぱさ、歌ってのはひとりで歌うのを眺めてるのは性に合わねぇ!! みんなでガラガラ声になるまで叫んでナンボだ! ステージに上がってこい!』


「なんなのよアンタは!? 本当に!!」


 学園一の強気、リドレア嬢がステージに真っ先に上がり、サーノを糾弾した。


「いきなり何のパフォーマンス!? こんな滅茶苦茶な……」


『一番乗りと来たか、灼熱お嬢さん! 切り込み隊長は任せるぜ!』


 サーノはリドレア嬢にマイクを投げ渡した。

 リドレア嬢の背後に転移ポータルが作られる。


『え、ええっ!? と、とんだ無茶ぶりね!?』


「できるだろ、学園一なんだろ!?」


『やっ……やれるに決まってるじゃない! ステージ、乗っ取らせてもらうわ!!』


 リドレア嬢は挑発に弱かった。

 マイクを持ったまま、リドレア嬢が転移ルートを通り、雪原へ飛び出す。

 その様子は魔力光モニターに映し出され、中継されていた。


『えっ、ほ、ホントに魔王軍じゃない!? 警報! 街に警報鳴らして!』


「今日はステージにみんな集まってるだろ?」


 サーノは拡声魔法で、観客に呼びかける。


『親衛隊諸君! 街と彼女を助けてやれ!』


「う、うおおおお!」


「リドレア様あああ!! 俺が助けます!!」


 リドレア嬢のファンが、彼女に続いて転移ゲートを潜った。


『え、ええっと……うふふ、ありがとみんな♡』


「おおお! 今俺に目配せを!!」


「馬鹿野郎俺にウィンクしたに決まってる!」


 リドレア嬢のファンサービスで、彼女のファンの士気は天井知らずになった。

 我先に魔王軍へ切り込んでいく。


『健気ね! じゃあ、応援歌を歌わせてもらうわ! 「震える愛の谷底で」!』


「リドレアちゃんにばっかり活躍させたらダメよ!」


「ええ! 私たちの持ち歌だって聞いてもらわなくっちゃ!」


「『キューティフル・パフ』、突撃よー!」


 続いて三人の少女が登壇し、ゲートへ突進する。


「陰口三姉妹! お前らの曲、そういや聞いたことねぇや! こっちにも聞こえるように、持ってけ!」


 サーノが遠隔操作魔法で予備のマイクを三本、一気に三人娘へ投げ渡す。


「空中キャッチ! 華麗に着地!」


「そのまま激しく歌い出し!」


「洞窟エルフさん、見ててね!」


 サーノは会場に声を張り上げる。


『めちゃくちゃ広い野外ステージだぜ! 子供は風の子、思いっきり身体動かしてこい!』


「おおお!」


「私だって!」


「ぼ、僕も!」


 我先にと、転移ルートを通る学生たち。

 武器が必要な者は、普通に会場出口へと走っていく。そのまま直接外へ出撃するだろう。

 誰もが街を魔王軍の攻撃から守るべく、動き出した。


「へへ、これが傭兵のステージってヤツよ」


 観客席に誰もいなくなったことを確認すると、サーノは最後に残ったオークを雪原に戻し、転移ルートを閉じた。

 やりきった表情で。







「く、くそおお!!」


 駅員兼門番は、武器の剣を振り回し、学生たちと共に魔王軍と戦っていた。

 子供たちに任せていては大人の面子が丸潰れ、と勇んで出撃したものの、


「結局! 結局、こうして厄介事になるのか!! 今年も!!」


 やけくそ気味にゴブリンを切り裂く。

 駅員兼門番は、少し泣いていた。


「もっとこう、穏便に人生を! 送りたいのに!! 学生は生き急いで!!」


 今回は学生にあまり非はないのだが、そうとは知らない駅員兼門番である。


「ゴガアアア!!」


「ぐうっ!?」


 駅員兼門番の背中に、巨大な拳が叩き付けられた。


「ぐはっ、うう……な、なんだ!?」


 ごろごろと雪まみれになりながら転がった駅員兼門番の前に、石の亜人・ゴーレムが立ち塞がった。


「……殴り潰す」


「くっ……」


 ゴーレムの拳が再び振り降ろされる。

 駅員兼門番は死を覚悟した。


『諦めないで!』


 駅員兼門番が叩き潰される直前に、ゴーレムは火だるまになった。

 本来燃えないはずの石の身体が、蒸発するほどの火勢。


「グオオオーッ!?」


『立てる?』


 駅員兼門番に、リドレア嬢が手を差し伸べた。


「……き、キミが燃やしたのか」


『ええ、さすがでしょう? ……あら』


 そこでリドレア嬢は何かに気付き、駅員兼門番の顔を覗き込んだ。


「うっ? な、なんだい?」


 アイドルをやれる端正な顔立ちのリドレア嬢が急接近し、駅員兼門番は反射的に後退った。顔が赤くなった自覚がある。


「……六年前、アリコーにいたお姉様が言ってたのですが……」


「え、な、何のこと?」


「酷い怪我をさせてしまって気がかりだった、と。駅員の方ですよね?」


「あ、えっと、うん。え、お姉さん?」


「はい、人形と一緒に追い詰めたけど、あそこまでしなくてよかったかも、と。私から、代わりに謝らせてください」


 ぺこり、と。リドレア嬢は頭を下げた。


「……あー、まあ、それくらいは……危険手当、出たし、別に。お姉さんは? 元気?」


「はい、元気でやってます。今も南の島で……」


 そこで、リドレア嬢目掛けて矢が飛んできた。

 棒立ちで話し込んでいれば、魔王軍に狙われるのは当然である。


「危ない!」


「きゃっ……」


 駅員兼門番が、剣の腹で矢を叩き落とした。


「……元気なら、それで十分だよ、って。そう伝言してほしい」


「……あ、えっと……はい」


 何故か頬を赤くするリドレア嬢。

 駅員兼門番は今、とても戦意が高揚していた。


「子供たちが元気でいてくれることが、私たちの仕事だ。それだけで、私は戦える!」


 駅員兼門番が、魔王軍へ突撃する。

 彼女・・の後ろ姿を、ぼーっと眺めていたリドレア嬢だったが。


「……はっ。ま、マイクのスイッチ切れてるわ。入れなおさなきゃ」


 そういう場合ではないと思い出して、戦いに臨む。

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