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三十九話 巨大ロボに乗ろう

「では、え~……」


 オリヴィアは、潜水艦の椅子で、ほんのり顔を赤らめた。


「……本当に言わないと、この機能解除されないのかしら? 子供っぽいと言いますか……お父様のセンスを疑いますわね。とはいえ……」


 躊躇するオリヴィアだが、眼前には相変わらず巨大で暴力的な容姿のクジラがいる。


「この場にわたくしだけだったことが幸いでしたわ。恥ずかしいですが……やるときはやりますわよ、わたくし。ゴホンゴホン」


 わざとらしい咳払いをしたり、身なりを整えたり、ちょっと時間稼ぎをしてみた。

 クジラの咆哮で、潜水艦が吹き飛ばされたので、すぐにそれどころではなくなったが。


「あら、らっ……きゃあーっ!?」


 渦を巻く衝撃。

 渦巻のど真ん中で、オリヴィアの潜水艦は翻弄された。

 当然、中身もシェイクされる。


「痛っ……こ、こんなところに机のカドをつけたの誰ですの!? わたくしでしたわ!」


 肘の痛い部分にクリーンヒットした痛みで、うずくまり震えるオリヴィア。

 今度はその身体が、背後に吹っ飛ばされた。


「あっ!?」


 慣性の法則で、オリヴィアは壁に叩き付けられた。

 潜水艦が海底の岩にぶつかったのだと、メインカメラでわかった。


「がっ……も、もう、野蛮ですわね! 潜水艦は精密機械ですのよ!」


 痛む身体をさするオリヴィアだが、その目の前には既にクジラの大口が迫っていた。


「ううーっ! お父様、帰ったらしばらく口聞きませんからね!!」


 リモコンのボタンを押すと、リモコンが一瞬でマイクに変形した。


「けっ、堅丈がったーい!」


 オリヴィアの言葉をマイクが認識し、潜水艦が変形を始めた。

 手足が生え、どこからともなく飛来したパーツが頭部になり、スクリューだったものがウィングに。

 最終的に生まれたのは、赤青黄色の原色バリバリな人型。


「デラックスキングオリヴィア号-っ!」


 潜水艦が、あっという間に巨大な人間の形になっていた。

 オリヴィアの父親は、この巨大な人型兵器を、「巨大ロボ」と呼んでいた。

 父親のこだわりにより、デラックスキングオリヴィア号は変形完了と同時に、大変カッコいいポーズと背後のライトを駆使したアピールを自動的に決める。

 余韻の操作不能な時間に、クジラが口を閉じた。

 大口に飲み込まれ、姿を消すデラックスキングオリヴィア号。

 しかし、クジラの口はぐぐぐ、とこじ開けられた。

 巨大ロボは両手を伸ばし、凄まじい馬力で踏ん張っていた。


「デラキン号、魚雷発射」


 涼しい顔をしたオリヴィアが指令を出す。身なりが少々乱れていたことに気がつき、そそくさと直した。

 だがデラックスキングオリヴィア号は、クジラの口を支えるばかりで動かない。


「……ちょっと、デラキン号? 今がチャンスですわ」


 オリヴィアはぺちぺちと床を叩いてみたが、デラックスキングオリヴィア号に反応はない。

 どころか、ついにクジラの力に負け始めたのか、ミシミシという音がし始めた。


「あらら、あら? 正式名称じゃあないと反応しないのかしら。で、デラックスキングオリヴィア号! 魚雷発射ですわ!」


 リモコンのボタンを乱暴に押しまくりながら指示を出すオリヴィア。

 潜水艦のボディに何らかの負荷がかかっているのか、歪んだ壁から穴が開いて浸水が始まった。


「……パパのバカァ!」


 オリヴィアは恥ずかしさで真っ赤になりながら、目尻に涙を浮かべて技名を叫んだ。


「デラックスキングオリヴィア号ッ、スペシャルオリヴィライズ超ダイナマイト発射ーっ!」


 ロボの胸部から魚雷がふたつ発射された。ちょうど乳房が発射されたような形だった。

 クジラの口内を走り、喉奥の暗闇に消えていく魚雷。


「な、なんでわたくしの名前を、こんな恥ずかしい武器に! お父様、絶対許しませんわ!」


 すぐに過剰な光量が海底を塗りつぶし、派手な爆発音が聞こえた。


「ごがあああああっ!!」


「あっ!?」


 デラックスキングオリヴィア号はクジラの口の中にいたのだ。

 クジラの悲鳴は、直に潜水艦内に響いた。


「がごあああぁぁ! ががぁぁああああ!!」


「ああっぐ、うぅっ! こ、後退ですわ!」


 オリヴィアは声を出したつもりだったが、ちゃんと自分の口が開いたのかわからなかった。

 デラックスキングオリヴィア号は、苦痛で暴れるクジラの口から逃げ出した。


「ああっ! な、何も聞こえない!? 嘘でしょう!?」


 オリヴィアは、聴覚が失われたことにパニックになっていた。

 激しい揺れを短時間で何度も体験したせいもあってか、ふらふらと足もおぼつかない。


「爆進さん! サーノとペペの反応に急いでくださいまし! すぐに逃げないと……ああ、ちゃんと聞こえていますか!?」


 青い心臓は、デラックスキングオリヴィア号をマニュアルで動かし、サーノ達の反応があったポイントへ向かう。


「くうぅ、何も聞こえない! これ結構不安ですわね! 不安というか、屈辱ですわ! あんな巨大な生物の悲鳴に耐えられないなんて!!」


 心底の屈辱を噛みしめながら、オリヴィアは壁を殴りつけた。


「鼓膜を鍛えてまた来ます! せいぜい養生なさいな!!」


 オリヴィアの捨て台詞は、本人含め誰にも聞こえなかった。







 サーノ達は、まだ牢屋の中にいた。


「それで、どうやって逃げるんですか?」


「わからん」


「ええー……」


「仕方ねーだろ。魔法は使えず、姫さん特製の義手はハイテクだけど魚人はそれ並みの武器をたっぷり揃えてる。こっちは子供ふたり。ペペは制限時間あり」


「それなのに唐突に脱獄したんですか!?」


「このまま牢屋で寝てても、どうせ処刑されてたし……でも確かに、焦っちまったかもなぁ」


「そんなぁ」


「けど策はあるぜ」


「なんだぁ、流石はサーノ様! ちゃーんと考えてるんじゃあないですかーエルフの悪い」


「ペペ、そこのマーマンの中身を急いでくり抜くぞ」


「えっ」


「そして皮を着ろ! マーマンに成りすませ! ちょっと魚臭くなるけど命のためだ!」


「ええーっ!? 嫌です! 死体を被れとか正気ですか!?」


「こっちは義手くらいしか武器がないんだ。こいつが隠れたらなんも抵抗できなくなる」


「さ、さっきの口からビームは?」


「ビームじゃねぇ水鉄砲だ。そんで、ダークエルフの胃袋で魔力を無理やり吸収して放ったわけだが、結構キツイ」


「どのくらいキツイんですか?」


「逆立ちして棒高跳びするくらい」


「……私、やっぱりここで死んじゃうのかなぁ」


「馬鹿野郎、諦めるな。弱気になったら本当に死ぬぞ」


「じゃあ、なんか強気になれるようなこと言ってください」


「……ゴメン、確かに弱気になって当然だわ、この状況……」


「なんで認めちゃうんですか。気休めでいいから頼もしいことお願いしますよぉ……」


「傭兵なので計算に希望的観測は含めないのだ。ご愁傷様」


 サーノも途方に暮れていたが、とりあえずマーマンの死体は利用することにした。

 マーマンが死んでいることを確認していると、ペペが何かに思いついたような声を上げた。


「……あっ」


「どうしたペペ? 海の中で催したか?」


「話の振り方がおじさん臭いです。そうじゃあなくって、サーノ様が変装すればいいんですよ」


「話聞いてたか? それだと武器が使えないって……」


「マーマンではなく、マーメイドにです」


「え?」


「メイドを名乗る悪人にです」


「そこは聞き直してない」


 サーノはマーマンの死体に目を落とした。


「……これを、マーメイドに? 無理だろ、マーメイドの魚部分は下半身だぞ。マーマンこいつは上半身」


「任せてください。本物のメイドの、驚愕のお裁縫技術を見せて差し上げます」







 縫い針はマーマンの小骨を利用した。深海の水圧にも耐えるよう進化してきたもので、古くは武器にも加工されていた、由緒正しい針である。

 ヒレや鱗を、布団を分解した糸を利用して縫い合わせる。

 即席のマーメイド下半身が、あっという間に完成した。


「やるじゃねぇか!」


「えへへー。私、やっとメイド技術でお役に立てましたね!」


「ああ、今のペペは輝いてるぞ!」


 サーノはペペの頭を撫でたが、ペペは笑っているような泣いているような、複雑な表情を返した。


「……でも……死体遊びに慣れていってるみたいで、罰当たりな自分が悲しいというか……」


「遊びって言うなよ、こっちまで申し訳なくなるじゃん……言い出したのペペだしさ。生きるために仕方なかったって思え」


「思えませんよぉ! もう私、お刺身とか食べられる気がしません! 絶対一生引きずります!」


「じゃあ末永く後悔するためにも脱出しような」


「傷心のメイドに、なんだかフォローが雑じゃあないですか!?」


「そろそろこの、いっつも汽車でやってるようなバカ騒ぎ止めようぜ。なんとなく戦いにくいよ、気分的に……」


「吐きますよ!?」


「魚人連中に言えよ。もっとなりふり構え。陸まで我慢しろ。なんでお前は、せっかくクールな針仕事で上げた評価を、ピーチクパーチクと下げることに余念がないんだ……」


「子供になんてひどい対応を!」


「……そういやお前まだ子供だったな。悪い悪い、姫さんと比べてちょっぴりオトナだから忘れてた」


「そうですか? えへへー、褒められちゃいました!」


「心配になるくらいのオトナっぷりだぜ、ホント……」


 ため息は気泡となった。

 そんなこんなで、サーノはマーメイドの下半身もどきを装着した。

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