表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/66

三十八話 ドンパチ暴れよう

「おぉぉっ!?」


 突然、ベッドからサーノが弾き飛ばされた。

 水中マスクが外れている。


「ごぼっ、ごばっ!?」


 水中をぐるぐる回転しながら、鉄格子に叩き付けられるサーノ。


「どうした! マスクをどこにやった!」


 マーマンが、サーノの様子に慌てて寄ってきた。


「ごべばっ、ぼばぁっ!!」


 サーノは必死に呼吸をしようともがくが、どこにも酸素はない。


「もうひとりの人間! 何をしている!」


 天井の逆さま布団から、ペペが顔を出した。


「わ、私ひとりなら、ここから逃げるくらい容易いので! このマスクはもらっていきます!」


 その手には、サーノの水中マスクが握られていた。


「裏切りか!」


「ばぼはっ……!」


 サーノの口から大きな気泡が吐き出された。


「海底の掟では、裏切りは死刑だ!」


「じゃあ何が死刑じゃあないんですか!?」


「我々は多産なのだ、疑わしきは死刑で全て解決できる!」


 マーマンは三又の鉾を振り回し、鉄格子を斬り飛ばした。


「牢獄の静寂を破る人間! 死刑だ!」


「ひ、ひえーっ!」


 ペペは身をすくませて布団に潜り込んだ。


「ぼふぁあっばっふぉぇ!」


 サーノの義手が展開する。

 腕からスクリューがせり出た。

 高速回転。


「ぼべぇぇっ!!」


「ごがあぁぁぁっ!?」


 義手が加速し、サーノの身体が一回転。

 無防備なマーマンのアゴにアッパーを食らわせた。

 マーマンが怯んだ隙に、サーノが口を開いた。


「ぼぁぁぁぁ──っ!! (こうだぁぁぁぁ──っ!!)」


 暴れるふりで飲み込んだ赤い水。

 魔力と海水に分解し、魔力で圧縮、加速。

 マーマンと魔法の構造は少し違うが、水鉄砲の真似事である。


「ばぱふぁ」


 水中で威力が落ちているとはいえ、至近距離で放たれたのだ。

 マーマンの堅いアゴから、脳天までが貫かれた。

 血飛沫は赤い海水に混ざって、すぐに見えなくなった。


「ぼべっ、べべぶぇっふぇっ」


「サーノ様!」


 ペペが慌ててサーノの元へ泳ぎ、マスクを装着させた。


「ぶっふぉ、ごほっごほっ!!」


「大丈夫ですか!? ま、魔力を一気に飲んじゃうと、危ないんじゃ……」


「ごっほ、ふぅっ。は、鼻の奥がつーんとする。水が鼻に入った」


「ひ、ひええ! それは苦しいですね!」


「ええい、そんな慌てるな。まだまだ作戦は続くんだぜ。脱出だ」


 サーノは、マーマンの死体から三又の鉾をもぎ取り、ペペに投げ渡した。


「え、これは……」


「蹴り飛ばす演技は上出来。次は実戦」


「そ、そんなぁ。メイドは戦いませんよぉ。仲間割れしたふりして騙し討ちも、ホントはやらないんですよ、メイドは! こんなことばかり上手くなっちゃいますね、サーノ様やオリヴィア様といると!」


「うーん、その主張は汲んでやりたいんだが……今回は本気で状況が切羽詰まってるからなぁ。すまない、護衛として力不足だった」


「そ、そんな。謝らないでください」


「別にいい? じゃ、そういうことで。なるたけ自衛な」


「雑な揚げ足取りはやめてください!」


「ていうか、よく考えたらオリヴィアの護衛は金もらってるけど、ペペを守るのは別に契約にないんだよな」


「えっ、そ、それじゃあこの宝石あげます! これで守ってください!」


「ぎええ! そいつは宝石の真似したヤドカリじゃねぇか! なんでそんな気持ち悪いもん水着にしまってたんだ!」


「焼いたら美味しいかなって!」


「ええい、くっつけるな! 鳥肌立つわ! わかった、わかったから! 脱出までやれるだけ護衛する!! ただの冗談だよ、流石に見捨てたら寝覚め悪いって!」


「あ、ありがとうございますぅ~!!」


「なるべく守る、守るからそのヤドカリは捨てろ! あと、海中ってフィールドが圧倒的に不利だから、どうしてもって場面は覚悟しといてくれよ!」


「はい! メイドとして頑張って隠れますね!」


「ヤドカリを水着に戻すんじゃあねぇ! 何で気に入ってんだよ!」


 そんなこんなで、サーノとペペは脱獄を果たした。







「こちらに向かってくる魔力熱源体を発見」


 魔王軍の海底前線基地。

 オリヴィアの潜水艦の反応をキャッチし、魔法の地図に刺々しいオブジェクトが現れた。

 魔法の地図は、海中の生物に注入された魔法ナノマシンによって形成されている。

 サーノ達が観光した時計塔の地球儀の、小規模で精密なバージョンとでも言うべきか。

 無数の生物を中継地点とした、海底の蜘蛛の巣である。


「ゆっくりとこちらに向かってきている」


 魔法の地図を生成・監視するマーメイドの報告を受け、海底前線基地指令室は警戒態勢へと移行した。


「同士砲十三・十四、魚雷発射」


 魚人はせっかちである。怪しいと感じたら即攻撃する。

 魔法の地図上に、新たに剣のオブジェクトがふたつ現れた。

 潜水艦のオブジェクト目掛けて、ゆっくりと一直線に突き進む、剣のオブジェクト。







「あら、揺れました?」


 爆発音と振動。

 オリヴィアはモニターに、外のカメラの様子を映し出す。

 深海を見渡すためのライトも点灯。


「……何もありませんわね。あ、いや……」


 オリヴィアは何か、海底の岩が動くのを見た。


「……大砲?」


 岩陰から現れた大きな筒は、大砲にしか見えなかった。

 そこから、大量の気泡とともに、何かが撃ち出された。


「……えっ、これは?」


 腹に爆弾を巻いた大型の魚だった。

 一直線に潜水艦へ突撃してくる。

 再び爆発音と振動。


「おぉっと……あら、あらら? しばらく海底探検をサボっていたのがよくなかったのでしょうか。わたくしの敷地に何やら物騒なものが……」


 三度、爆弾巻いた魚が激突した。


「きゃ。もうっ、爆進さんったら! はやく迎撃なさいな」


 椅子から転げ落ちたオリヴィアは、イライラとリモコンを無茶苦茶に押しまくった。


「庭掃除はペペの役目なのですが、今回は致し方ありませんわね」


 潜水艦の、三六〇度あらゆる場所から、大量の武器が現れた。

 機関銃、大砲、魚雷といったオーソドックスなものから、ノコギリやら一〇〇tハンマーやらまで。


「お父様のチート技術と、わたくしの美意識。束ねてご覧にいれますわ」







「同士砲全滅!」


 オリヴィアの潜水艦は強かった。


「魔力レーザー、転移機雷、対消滅弾、冒涜化反転エネルギー、海底マグマ誘引システム、その他諸々! 次々と我々の兵器が沈黙していく!」


「なんという極悪! 深海爆撃艇、全機発進せよ!」


 無人戦力では抵抗できないと判断し、魚人達の潜水艦が、次々と飛び立った。







「どなたか存じませんが、潜水艦対決ですの? なんと無謀な」


 オリヴィアの潜水艦が急加速し、魚人潜水艦の間を一瞬で通り抜けた。

 一拍遅れて、一気に多数の魚人潜水艦がバラバラに解体され、爆発。


「わたくしの船は騎士道精神も嗜んでますのよ」


 サーノがいないので、ツッコミは特にない。


「……うーん。一生うちにいてくださらないかしら、サーノ」


 やっぱりちょっぴり寂しいオリヴィアであった。

 手持無沙汰だったので、とりあえず青い心臓にドーピングを追加した。







「わ、我々の技術力が敵わないだと!?」


 一方的に返り討ちにされていく戦力達を目にして、魚人の指令室は騒然としていた。


「あ、ありえん! 地上の者が、このような……!」


「狭い大地でしか生きられぬ者どもが……!」


「う、うろたえるな! 狼狽は死刑!」


「うっ、うむ!」


 しかし、繰り出した攻撃があまりにも速攻でいなされたのを見て、魚人達は不安を抱き始めていた。


(我々の戦力でどうこうできる相手なのか……?)


(ここは逃げるべきでは……?)


 いつしか、彼らは誰かが撤退を言い出すのを待っていた。

 最初に逃げようなどと言ってしまうと、臆病は死刑と言われかねないだからだ。

 心が折れかけている魚人達の間に、神々しい咆哮が響いた。


「!?」


「こ、この声は!」


「リヴァイアサン四世の雄叫び!」


「まさか、御身で我らをお救いなさると!?」







「あらら、これはこれは……」


 オリヴィアの潜水艦の前に、巨大なクジラが現れた。

 眼玉が潜水艦より大きい。

 神々しいタテガミや、神々しい長い牙など、とても攻撃的な姿だった。


「……うう、これは……流石に“あれ”をやらねばならないでしょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ