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二十八話 遊園地で遊ぼう

 レストランにて。


「肉が美味ぇ!!」


 サーノは歓喜して、串焼きのワーム臓壁肉にかぶりついていた。

 入院から二週間でのスピード退院である。


「五年は魔法を使わずに安静にしてないといけないほどの狂い具合だったハズなんですが……」


 ザミーラは食欲旺盛なサーノの食いっぷりに呆れるやら、感心するやらだった。


「サーノは丈夫ですから」


 オリヴィアは適当にコメントしつつ、砂漠ネズミの刺身パンを上品にちぎった。

 カレー牛乳に浸して食べる。


「ご令嬢、サーノさんは……」


 ザミーラは何やら伝えたいことがあったようだが、


「良いのです。サーノは私の護衛ですわ」


 委細承知、とばかりにオリヴィアはザミーラのグラスにワインを注いだ。


「わああ、サーノ様見てください! この大嵐風砂利パスタってなんでしょうか!? 注文していいですか!?」


「おう! フォレストエルフの嬢ちゃんのおごりなんだから遠慮すんな!!」


 サーノとペペはすっかりはしゃいで、サンドワーム胎内鉄道独特の珍味を片っ端から注文していた。


「……た、食べきれるんですか?」


「姫さんの汽車には冷蔵庫があるんだぜ! 氷も魔力も使わない奇天烈マシン!」


「おかげで旅先で残したものはタッパに詰めて持ち帰れるんですよね! あっ、こっちの砂漠ゴリラの南風っていうの何なんでしょうね!? あははは、面白そう!」


「全然想像つかねぇや!! 姫さん、どんなのだと思う!?」


「ふふ、さあ? どういうのでしょうね?」


「ウェイトレス! ゴリ風一丁!」


 暴走するサーノとペペ、咎めずマイペースに優雅な食事を勧めるオリヴィア。


「……帰りたい」


 ザミーラはお金はほとんど使わないのでたくさん持っていたし、そうでなくともサーノとご令嬢は命の恩人なので喜んでおごっただろう。加えてこの高級レストランはスティンバーグ社爵令嬢権限で貸し切りなので、他の客の迷惑でもない。

 でもなんとなく居心地は悪かった。







 食事を終えて満足した四人は、街中で見かける謎の看板に導かれて、謎のエリアにやってきた。


「ワームランド!?」


 遊園地である。


「ワームランドだって! オリヴィア様! 行ってみましょうよ!!」


「ふふふ、それはもちろん。ザミーラ様も、わたくしが遊興費を持ちますわ」


「え、ええ、ありがとうございます……」


 妙齢の人間とエルフ、子供のダークエルフと人間。血のつながりがあるようにも見えない四人組は、人影のまばらなレジャーランドでも目立っていた。


「すげぇ、血管ウォータースライダーだってよ!? ペペ、ここ行こうぜ! 競争だ!」


「負けませんよ! オリヴィア様にかけっこで勝ったことありませんから!」


 完全に暴走列車と化した子供ふたりは、あっという間に姿を消してしまった。


「ふふ、楽しそうにはしゃぐ子供は良いですわね」


「は、はぁ。ご令嬢は子供がお好きなのですか?」


「ええ。転んで泣きじゃくる子供、おもちゃが欲しくて駄々をこねる子供、怖い話を聞いてこの世の終わりみたいな顔をする子供……ふふふ、子供はいろんな表情をしてくれますもの」


「それは……好きとはなにか違うような……」


 オリヴィアと既に疲れた表情のザミーラは、のんびりコーヒーカップに乗って子供達が帰ってくるのを待つことにした。


「ひっ」


 コーヒーカップの意匠が、砂漠オクトパスの吸盤だったことで、ザミーラは若干トラウマを呼び起こされたが。


「あらあら、やっぱり痛かったのでしょうか?」


「ええ、とっても。地中を引きずり回されて、よく無事だったなって、今でも思いますね」


「では、B.G.Fは辞めてしまわれるのですか?」


「まさか。あのくらいの死線はむしろ武勇伝、酒の肴です」


「ふふ、ご立派ですわ」


 ゆるゆるとカップを回すオリヴィア。

 ザミーラはふと、今ならふたりきりだと気づいた。


「……そうだ、ご令嬢。お話があります」


「なんでしょうか」


「サーノさんの魔力中毒のことです」


「取り返しがつかないところに踏み込みかけているそうですわね」


 さらりと、言おうとしていたことをオリヴィアに先に言われてしまった。


「それは……理解しているのなら、護衛を続けさせるのは……」


「サーノはわたくしの護衛ですわ」


「そんなことを言っている状態では……!」


「サーノが戦えるうちは、護衛です」


 オリヴィアは変わらない調子で、コーヒーカップを回し続ける。


「魔力中毒で戦えなくなれば、また別の分野での護衛として雇えばよいでしょう?」


「……そ、そんなの、まるでサーノさんを道具みたいに……」


「まあ、廃人と化したサーノをゴミのように捨てろとおっしゃいますか?」


「そうは言ってません」


「ご心配せずとも、サーノは壊れませんわ。強くてたくましい、わたくしの護衛ですもの」


「……現実はそううまくはいきませんよ」


「ふふ、エルフのあなたには理解できない感情かもしれませんわね」


 はじめての棘のある返し。

 ザミーラはスポンサーを苛立たせたと考え、慌てて頭を下げた。


「……す、すみません。出過ぎた真似を」


「あら、わたくしやサーノのためを思っての言葉でしょう? 謝らずともよいではありませんか」


「しかし……」


「ところで、ザミーラ様。B.G.Fの仲間の方々のことは、どう思っていらっしゃるのですか?」


「え、ええ?」


 藪から棒に質問を返され、ザミーラは戸惑う。

 しかし簡単な質問だったので、即答するのは難しくなかった。


「それは……素晴らしい仲間です。長命の私たちエルフですが、彼ら・彼女らの名と顔を忘れることは一生あり得ません」


「それはそれは……やはり、サーノはわたくしの護衛で良いみたいですわね」


「……はい?」


 ザミーラが聞き返すと同時に、オリヴィアはカップを立った。


「料金分の時間が来ましたわ。ふふ、それとも延長なさいますか?」


 オリヴィアの柔らかいほほ笑みは、終始絶えることはなかった。







「ハロー、お嬢さん方! ボクの名前はミトコンドリアちゃん!」


「わー、マスコットですよサーノ様! 風船ください!」


「おおお、なんだこのモフモフしつつテカテカヌルヌルな毛質!? 触りたくねぇ! デカイ蛇に食われた時の姫さんみてぇだ!」


 サーノとペペは、着ぐるみに風船をもらったり、魔法念写での記念撮影をしてもらったり、ワームランドをエンジョイしまくっていた。

 極めてテンションが高い。


「うわぁ、お化け屋敷だぜペペ! 行くか!? 行って眠れなくなってみるか!?」


「やだぁサーノ様ったら! 行くわけないじゃあないですかー、寝不足はメイドの天敵ですよぉ!」


 職員たちは、全身全霊で楽しんでくる子供ふたりをとことん甘やかした。


「やあ、アタイは十二指腸の妖精ジュニー! 血糖りんご飴いるかい?」


「四本くれ! 姫さんとフォレストエルフの嬢ちゃんのぶんも!」


「オリヴィア様、りんご飴喜んでくれますかね?」


「んー、姫さんならこういう屋台の食いもんは衛生的じゃないからって嫌がるかも」


「そうでしょうか? 郷に入ってはゴーイングマイウェイって言ってましたから、喜んでくれるかなって」


「それは間違ってるのか発言者含めて正しいのか、ちょっと判断に困るな……」


「じゃあ五本もらいましょうよ。オリヴィア様が喜ぶか、どうか賭けです!」


「賭けっこはペペが勝つに決まってるじゃねーか! 仕方ねぇ、実質一本おまけだぞ!」







「帰ってきましたね」


「あらあらうふふ、ペペったら。すっかりはしゃぎ疲れて眠そうですわね」


 ペペはサーノにおんぶされて、りんご飴を口にしたまま舟をこいでいる。

 サーノは、四本のりんご飴をオリヴィア達に差し出した。


「あら?」


「食うか?」


「……あ」


 オリヴィアは何かに気づいたようで、ハッと目を見開く。

 それから、何やら感極まったようにサーノの手を両手で握り込み、


「もちろん! もちろんいただきますわ! サーノったら、あんな昔のことを覚えていてくださるなんて……!」


「ちっ、また負けだよ」


「へ?」


 邪険に舌打ちされ、思考が停止するオリヴィア。

 その手から、りんご飴を一本抜き取るザミーラ。


「ありがとうございます、サーノさん。楽しんでいただけたようでなによりです」


「サンドワームの胎内って聞かされたときは、心底驚いたけどな。いやはや、思ったより愉快だね」


 ペペの手に一本りんご飴を掴ませながら、サーノはぐちぐちと続ける。


「けど、姫さんがこういうの食えるタイプとは思わなかったぜ。またペペに負けちまった」


「えへへ~……」


 ペペはむにゃむにゃとだらしなく微笑んだ。

 サーノは最後に残った一本をかじってから、改めてオリヴィアに向き直る。


「んで、姫さんどうしたよ。さっきから微動だにせずさ」


「……こ」


「こ?」


 オリヴィアは真っ赤に顔を紅潮させると、


「このおたんこなす!!」


「はあ? タコとかナスとか急になんだ?」


「すっとこどっこい! 思わせぶり! ええカッコしいっ!」


「むぐっ」


 自分のりんご飴をサーノの口に突っ込んで、ぷんぷんと怒りながら去ってしまった。


「……? あの、サーノさん。ご令嬢はいったいどうされたのでしょう?」


「ごりごり……ごくん。んー……なんだろう? 昔のことがどうって……」


 疑問符を浮かべて顔を見まわせるエルフふたりであったが、


「あ」


 サーノは遅れて思い出した。


「いつぞやの縁日だな」


「縁日?」


「姫さんの命をつけ狙う輩をとっ捕まえてたら、りんご飴とか金魚とか買ってくれって頼まれてたのを、今の今までド忘れしてた」


「はあ……それはいつのことで?」


「そりゃ、姫さんがまだ片手で足りるくらいの年のことだし……よく覚えてるもんだぜ。人間の記憶力っておっかねぇなぁ」


「そうですね。私たちには、そのくらいの頃の記憶なんて綺麗さっぱりですもんね」


 りんご飴を舐めながら、種族間ギャップを感じるエルフ達であった。

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