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二十二話 砂漠に突入しよう

「砂漠じゃねーか」


 サーノは次の駅までどのくらいの距離なのかを聞いたのだが、オリヴィアが指差した地図の一点は砂漠のど真ん中だった。


「そうですわね。大陸の四分の一を占める広大な砂漠地帯の中心部に、次の駅はありますわ」


「ひょっとして、オアシス近くの街とかか?」


「そういったところは、魔物の住処にも近いことが多くて危険なので、そもそも線路が通っていない自治区なのだそうですわ」


「そういうもんなのか」


 サーノは座席に寄りかかって、ため息をついた。


「……実を言うと、砂漠にはあんまり来たことないんだよな」


「あら、そうでしたの?」


「魔法がかき乱されて、うまく扱えないからな。自分の身を守れそうにないから、深く入ったことはない」


「かき乱される?」


「魔物の殺意で満ちてるから、どうしようもないんだろうよ」


 そこまで言ってから、サーノは思い出したように付け加えた。


「ああでも、義手もあるし、オリヴィアの護衛はきっちりやるから安心してくれ」


「ふふ、頼りにしていますわ」


「話を戻すぜ。つまり、万全ではないから、砂漠を突っ切るってなら、ちょっと考えなおすか、あるいは覚悟したほうがいいって話なんだけどよ」


「それもご心配には及びませんの」


「へぇ。あの青い心臓や、汽車に備え付けの武器でどうにかできるのか?」


「ふふ、サーノをびっくりさせたいので、多くは語らせないでくださいまし」


「姫さんのお茶目は心臓に悪いって自覚ある? もったいぶるんじゃねーよ」


「ひとつ言えることは、確実かつ絶対に安全な仕組みがあるのですが、けっこう生理的に厳しいかもしれませんわね」


「……生理的に? なんだそりゃ」


 本気で理解できないサーノは、疑問符を頭に浮かべる。

 同時に興味も湧いてきた。


「人類の発明した新しい何かか? 名前も知らないような」


「そうですわね、もしかしたら知らないかもしれませんわ。では、楽しみはあとにとっておきましょう」


 汽車が地図にない森に突入したのは、二時間後のことだった。







「こんなところで出会うとは。これはどういうことなのでしょうか?」


 オリヴィアが、案内役の亜人に改めて質問する。

 サーノとオリヴィアは、汽車を降りて数分の場所にある、木々の開けた広場で、目の前の亜人から説明を受けていた。


「ここは、私たちB.G.Fの前線キャンプです」


 説明の亜人・ドリアードのターニャが、たくさんのテントが並んだ光景を示す。

 テントを出入りしているのは、ばらばらな種族の亜人達。

 一番多いのはドリアードで、次に多いのが白い肌のエルフや小さな身体の妖精。他にもヤギ頭や、極めて少数ながら人間の姿もある。


「ざっと数えて、三十種は亜人がいるな」


 サーノは百人以上の雑多な集まりを見回す。

 どの亜人も人間も、はつらつとした雰囲気で動いていた。


「私たちはこの砂漠地帯を緑化するべく、ここを開拓前線のひとつとしています」


「ここにキャンプがあるという話は、王都付近では聞きませんでした」


「一か月くらい前に新しく生まれたキャンプですから。情報が入れ違いになったのでしょう」


「ひとつってことは、他にもあるのか?」


「現在十六か所から砂漠への侵攻を行っています。我々ドリアードの住む土地を広げるべく、誰もが使命感を胸に戦っているのです」


「健気だなぁ。魔王軍にちょっかい出されたりしてないわけ?」


「度々参加の要請は来ますが、魔王軍は人間の住む場所をどうにかしたいのであって、砂漠を自然あふれる大地に塗り替えたいわけではありませんから。主義が違う以上、我々は魔王軍には興味などありません」


 ターニャは力強く言い切った。

 ドリアードの頭には花が根付いていて、感情を豊かに表現している。今のターニャの頭の花は「心配するな」とばかりに茎に力こぶを作っていた。


「……どういう仕組みになってるんだろうな、その花……にしても、いろんな種族がいるみたいだけど」


「皆、魔物に支配された不毛の大地を奪い返すという目的に賛同してくれたのです。仲間が多いのは、とても心強いです」


「なるほどなるほど。頑張れよ」


 サーノとオリヴィアは、こそこそと話し始めた。


「……緑化団体が活動してるとは聞いてたけど、まさかここまで派手にやってたとは思わなかった」


「わたくしは慈善事業で寄付などをたまにしていますので、存在は知っていましたわ」


「だから、姫さんカラーの汽車を見ても驚かなかったんだな」


「うーん、ですが困りました」


 内緒話を中断して、オリヴィアはターニャへ質問する。


「やはり、通してはくださらないのでしょうか?」


「今、木々の城壁でギリギリ抵抗を防いでいる状態なので、壁に穴を開けるのは危険なんです。ごめんなさい」


「何が待ち構えてるんだ? 線路を隠すほど茂った森の先に」


「砂漠ゴーレム、砂漠オクトパス、砂漠ライオン……とにかく様々な砂漠の魔物達です。自分たちの住処を脅かす存在として、私たちを敵視しています」


「え、出てすぐに? ホントに待ち構えてんの?」


「はい。二十四時間、休まず攻撃してくるのです」


「どいつもこいつも、元気有り余ってんなぁ……」


「サーノ、手伝ってあげることはできませんか?」


「言うと思ったよ」


「手を貸してくれるんですか?」


 ターニャの頭の花が期待感で満開したのを見て、サーノは気まずそうに目を逸らした。


「あー……まあ……どうにかしないと通れないのは確かっぽいし……けど、そっちだってフォレストエルフの仲間がいるなら、知ってるはずだろ」


「……やはり、あなたもですか」


 落胆したように、今度は花がしおれた。


「土地の魔力が魔物に吸われていますから、確かに魔法の精度は下がります。完全に使えないわけではないんですが……」


「だよなぁ。そうなると、どうしても姫さんに頼るしかないわけだ」


「わたくしに、ですか?」


「そう。頼むぜ、とびっきりの魔改造」


 サーノは左腕を取り外し、オリヴィアに渡した。


「ここを突っ切る以外ないんだろ? やるしかないなら、手持ちの手札でなんとかするさ。それが傭兵の護衛仕事だぜ」


「……お任せください、サーノ! 最高級に可愛らしく仕上げて差し上げますわね」


 オリヴィアはうきうきとスキップしながら、汽車へと戻っていった。


「え、別に見栄えはどうでもいいんだけど……おーい姫さーん」


「ジョークだと思いますよ。出会って間もない私でもわかります」


 ターニャの言葉を、サーノは否定する。


「今日会ったばっかだからわからねぇだろうけど、ジョークに聞こえたの?」


「じゃあ、本気でキュートな一本を作るつもりなんですか?」


「最低最悪な一品をこしらえる気なんだよ、姫さんは。上機嫌だもん。やっぱお目付け役はしばらく続きそうだぜ……」







「皆さん! 三日後の日の出とともに、警戒区域内の魔物の掃討を行います!」


 ターニャは早速、キャンプ中のメンバーを集めてサーノを紹介した。


「こちらのサーノさんと、ここにはいませんがオリヴィアさん! おふたりの乗った列車を、線路に着くまで援護することになります!」


(もうひとりいるんだけど、勘定に入れなくても多分無傷で無事だろうし、いいか)


 サーノはペペののん気な笑顔を思い浮かべた。


「さっきのスティンバーグ社爵の汽車に乗ってきた方々ですね?」


 ひとりの妙齢のエルフが、手を挙げて発言した。


「はい、我々にとって大恩あるスティンバーグ社爵のご令嬢と、その護衛をされている方です! 我々は日頃の様々な支援に報いる義理があります!」


「異論はないけど、どこまで守ってあげればいいんだい?」


 今度はヤギの頭の女性が、サーノに対して聞いてきた。


「その辺はオリヴィアに聞いてくれ、砂漠ははじめてなんだ」


「どこまでっていうのは、距離じゃなくて、あんたの戦力のことだよ。何ができる?」


「魔法がそこそこ。あとは雑多な戦闘の技術を平均点程度に」


「そこそこって、砂漠は魔力がジャミングされてるんだよ。つまり殆ど生身の女の子じゃないか。腕も片方ないし、足手まといにならないかねぇ」


「へえ。そう思うかい?」


 サーノは挑発的に笑って見せた。


「そう言うあんたに試してもらおうじゃねぇか。周りの奴らも、実際にやってるとこ見た方がいいだろ?」


「いいねぇ、私もそれ言おうとしてたのさ。ターニャ、そういうわけで。いい?」


「いいでしょう。サーノさん、キリミさん、大きな怪我がない程度にお願いします」


「そいつは保証できないぜ。魔法頼りの戦法が使えないなんて、何百年ぶりかわかんねぇし」


 サーノがキリミと呼ばれたヤギ頭の亜人の方向へ、ゆっくり歩き出す。


「じゃあ、レクチャーしてやるよ。砂漠での戦い方をね」


 剛毛に包まれた腕が、力強さを誇示するように盛り上がる。

 B.G.Fメンバーたちは、決闘のリングを形作るように円になって、野次を飛ばす。


「やれーキリミー! 俺達がただの植林屋じゃないってところを見せてやれー!」


「洞窟エルフの方! 決して油断なさらぬよう!」


 サーノとキリミは三メートル程度の距離で立ち止まり、言葉もなくお互いを睨みつけた。

 ヤギ頭は強敵への期待感で、満面の凶暴な笑顔。

 ダークエルフは、敵を油断なく見据える睨み顔。

 空気がピリピリと張り詰めていく。


「勝負!」


 ターニャが手を叩き合わせた音が、広場にパンッ! と響いた。

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