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十八話 メドゥーサと決着をつけよう

 詰所の中庭。


「……あれって、まさか」


 到着したサーノが見たのは、巨大に進化したデミスンが、大きな卵を愛おしそうに撫でている場面だった。


「いや、まさかって言ったけど、なんだろうな? 何してるのか全然わかんね……」


「……これはね」


 デミスンが、サーノに妖艶な眼差しを向ける。

 その表情は狂気的に笑っていた。


「私を哀れんだ罰よ」


 言うなり、デミスンは思いっきり尻尾を振りぬいた。

 先程の巨大蛇並みな太さの尻尾は、卵にジャストミートした。


「っ!」


 サーノは防壁で身構えたが、卵は遥か頭上を越えて飛んで行った。


「……は?」


 明らかに街の城壁も越えていくような軌道だった。サーノや街への攻撃ではない。

 首を傾げる。


「意味わかんねぇ……」


「意味なんてないのよ!」


 もう一度尻尾が振るわれる。

 魔力の防壁は巨大な尻尾をしっかり受け止め、わずかに震えただけだったが、防壁を張った本人は意味不明な行動ですっかり気が抜けていたので、


「おわっ!? くそ、不意打ちにしちゃ本気のホームランだったが……目的を気にしてる場合じゃあないらしいな!」


 かなり驚いて、気合を入れなおすことにした。


「サーノ! はやいな、もっと時間がかかると思っていたが!」


 デミスンを挟み撃ちにするように、フィラヒルデも遥か向こうの扉を蹴破り現れた。


「流石は英雄殿だ!」


「てめぇも死んでねぇんだな! 人間でそれなら大したヤツだぜ!」


 位置が遠いので、会話は叫ばざるを得ない。


「うぐがががぁぁぁぁーっ!!」


 咆哮を上げるデミスン。

 頭の子蛇も、デミスンと同様巨大化していたが、数は八匹まで減っていた。


「うむ? さっきまではもっとうじゃうじゃとしていたような……」


 フィラヒルデが八匹の巨大蛇頭の違和感に気づく。


「……再生の際に束ねたのか? そこまでの余力を残していたとは」


 感心しているフィラヒルデに、尻尾が振り下ろされた。


「くっ」


 回避しつつ、レイピアで切りつけたが、鱗が一枚剥がれた程度で、大したダメージは与えられない。


「……流石に太い」


「しかも硬いな! さっきのデカイだけの蛇はそこそこ柔らかかった!」


「硬さは当然、魔力を補充したからよ」


 巨体に相応しく響く声で、デミスンは自信満々で種を明かしてきた。


「ベルラ、可哀想な子」


「……! てめぇ、ベルラを食ったのか!?」


 サーノは恐ろしい可能性に思い当って、後退りした。

 デミスンは肯定するように舌なめずりする。


「あら、同族を食べられて怒った?」


「い、いや……つまりもう一匹ダークエルフが目の前にいるし、そいつも食おうとしてるのかな、と」


 サーノの表情は半端な笑顔に引きつっていた。

 その受け答えに、デミスンは目を細める。


「……ふぅん? ホントに魔力中毒なのね」


「う……ま、まあ、今のところは受け答えに支障ないし、まだイケると思うんだけど……やっぱわかっちゃうか?」


「ええ、あからさまに。こうして敵と会話しちゃうくらい、集中力ないもの」


 次の瞬間、デミスンの瞳が光った。


「! サーノ!」


 フィラヒルデの眼前で、サーノは魔力の防壁を産んだ。

 真っ黒に染まった、深い闇のような防壁だ。


「……うう、やりづれー」


 透明な防壁では光は防げないから、と防壁に色を付けたのだが、生成した端から石になって崩れていくのを感じる。

 やりづらい理由は他にあるのだが。


「アハハハハハ! サーノ、あなたの魔力もいただくわ! 魔力中毒でいつ魔法が暴発するかわからないでしょうから、残さず吸い尽くしてあげる!」


「ハンデが見抜かれちまってる……どこでバレたんだ?」


「サーノ! どういうことだ、魔力中毒とは……」


「フィラヒルデ! 流石にこのデカさの怪物相手には人間じゃあ手に余るぜ!」


 心配して声をかけてきたフィラヒルデを、サーノは目で押しとどめる。


「素直に隠れてろ、気になってやりづらいんだよ!」


「そうはいかん、私は街の安全の為にここにいるのだぞ!」


「じゃあ無視する、せいぜい石にならねぇように気をつけやがれ!」


「魔力中毒なのに、ずいぶん魔法の操り方には迷いがないのね!」


 デミスンの頭の蛇たちが、ぎちぎちと力を貯めている。


「反射的な防御は完璧! いったいどれほど長く魔法に浸かって生きてきたのかしら!?」


 八匹の蛇がしなった。

 空気を切って八方から襲いかかってくる蛇を、


「ええい、軟体動物こんちくしょう!!」


 サーノは辛うじて、防壁でいなしていく。

 毒液、噛みつき、巻き付き、さらには絶え間ない石化光線。ときおり尻尾を利用した殴打も加わる。


「ハハハ! ヤマタ・アタック、堪能してちょうだい! 英雄サーノ! 本来はあなたが倒した坊やが実行するはずだったのだけれど!! 坊やの恨みも晴らさなくっちゃよねぇ!!」


「……そうか! 彼女の目的がわかった!」


 手も出せずに眺めるしかないフィラヒルデは、デミスンの言葉でようやくベルラの作戦の全容を悟った。


「ここをあの巨大蛇の住処にするつもりだったのか! メドゥーサが住む廃墟には、手下であり子供である巨大な八つ首の蛇がいるという! この街を廃墟にするつもりだったのだ!」


「その通りよ、軍人さん。難攻不落の要塞を作るつもりだったのだけれど、肝心なところでベルラがドジ踏んだのよね!」


 肯定するようにデミスンは勝ち誇って叫ぶが、攻めの手は緩んでいない。


「本来一か所に落ち着かなくてはまともに生き永らえられないの、首が多い坊やは! サイズが大きくて移動がままならないのよ!」


「ベルラは八つ首の蛇が侵入しやすいように城門を開く手筈だった! しかし我々は蛇が育ち切る前に正体を看破してしまった! 故に、育成不十分な巨大蛇も、無理を通して実戦に投入せざるを得なかった……急な展開に手数を準備する余裕などなかったから!」


「……最初から街に侵入しても、メドゥーサの下半身も頭の上も目立ちすぎるから、十分に蛇を育てる時間が持てない……そもそもそれなりのサイズになった時点で発見される……であれば、太刀打ちできないサイズにまで育った時点で、堂々と正門から侵入しようって魂胆だったか! 地べたを這う程度なら、空を飛ぶよりずっと簡単かつ少ない魔力で補助できるもんな!」


 サーノも納得がいったが、しかしふたつ疑問が湧いた。

 防御で手一杯なサーノの代わりに、フィラヒルデが問う。


「しかし、であるなら! ベルラは決行寸前に侵入した方が効率的だったはず……いや、違う!」


「こいつらが山にいるのを軍人に見つかったら本末転倒だろ! だから先におびき寄せて捕らえた! あとはそれとなく入山規制とかしてたんじゃあねぇか!?」


「……う、うむ。熊が出没するから危険だと、王都で聞いていたのでな」


 思わぬ相手からの懺悔に、危うくサーノは防壁ごとずっこけるところだった。


「熊ごときで!? なんで敵に塩送ってんだよ!?」


「し、仕方あるまい!? 私は本来、対人・対亜人の為に訓練を受けてきたのであって! というか、野生の熊は危険なのだぞ!! 人を食うんだ! ドラゴンに勝るとも劣らない脅威だ!!」


「奴ら臆病だから手ェ出さなきゃ食われねぇし、対策は地元民のが詳しいだろうが!」


「お、臆病? 血を見ると狂喜して襲い掛かってくるのでは……」


「都会っ子ねぇ! ご協力ア・リ・ガ・ト、巨乳サン♪」


「お、おのれ蛇女!」


 フィラヒルデは激昂したが、サーノは防御に専念しつつさらに問い詰める。


「なんで山でこの蛇野郎見たってとこまでわかってんのに山狩りもしねぇのかってちょっと疑問だったけど、てめぇがビビッてたのかよ!! 本来ベルラがする行動だったんじゃねぇのそれ!?」


「め、面目ない! 初日に山へ向かおうとするご高齢の集団を見かけたので、バリケードで道を塞いでしまってそのままなのだ!」


「もういいよ! フィラヒルデがしなくてもベルラがどうにかしただろうし、田舎の暮らしにはおいおい慣れろや!!」


 サーノはフィラヒルデのことはとりあえず置いておくことに決め、二つ目の疑問をデミスンに投げた。


「それよかメドゥーサ! てめぇがそんな下準備必要なうえ一旦はじめたら後戻りできない作戦を、いきなりここで発動したってことは……」


「そうよ、サーノ! もう私に後はない! 死に物狂いで、ここを廃墟にするほど暴れなくてはいけないの!!」


 デミスンが腕を、詰所二階の武器庫に突っ込んだ。

 一軒家よりも大きい手で掴み取りした大量の武器を、


「あなたは邪魔なの! 私のためにも、今死んで!」


 魔力を流して圧縮、鉄塊にした。

 凄まじい重量を得た鉄塊を、サーノの防壁に投げ落とす。


「うおお!?」


 サーノの両足が地面にめり込んだ。

 今の防壁は破壊力は防げても、単に重いだけの鉄塊は十分には防げない。重い物には持ち上げやすい魔力の編み方というのがあるのだが、そちらに切り替える余裕はなかった。

 なにせ、変えた側から石になって崩れていくのだ。石化光線の照射は絶えていない。

 音を立てて削れていく魔力の防壁。


「あっ!?」


 薄くなった防壁に、ついに小さな穴が開き、サーノの左腕を小さな光が貫いた。


「さ、サーノォッ!」


 叫ぶフィラヒルデの目の前で、完全に石になった防壁が、鉄塊に押しつぶされ粉々になった。

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