遠吠え
(どれだけ……おぞましいんだよ……こいつら)
――とも思ったけれども。ネルに言わせるなら、きっと「食べるためだったら、仕方が無いじゃない?」そんなことを口にするようにも思えないでも……無い。
けれども自身が、その食べられる側になってみると、まるで――ネットで目にして、わずかに顔をしかめる程度で済んだ、歴史上の拷問を目の前で実演されるような、生々しい湿度を伴う 恐怖感に襲われた。
「……ハナシ……ツカレタ」ワーグの長の話は終わっていた。
「……イマカラ……キサマラ……ノ……メス……ト……コヲ……オウ……イッピキ……モ、ノガシハ……セヌ……。……ハグレヲ、アツメ……マタ、ムレヲ……フヤサネバ……ナラ……ヌ」
3頭のワーグが、俺たちに向かって進み出る。2頭は、ツォンカパの両腕を咥えて、1頭は俺の腰回りのベルトを咥えて引き摺る。
ワーグの長は俺たちを、他の息のあるオークたちのそばまで、運ばせると――その3頭にも、何か唸り声で指示しているかのよう。
どうやら村に残る他の『肉』たちも、残さず集めるように指示したらしい。
俺達は ほとんど皆、息こそあったにもかかわらず、縛られもせずに、ただ放置された。
もっとも縛ろうにも、ワーグたちにそんな器用な真似は、できなかっただろうけれども。
今も、身体に止まって、ぶすぶすと全身のあちこちを突き刺し続けるナアス蠅の毒は、反抗の意志と、体力を根こそぎ奪い取るほど強力だっただけに――その必要も無かった。
少しの時間が経つと――村に残る、他の年老いたオークたちも、引きずられるように運ばれて来た。動かないところを察すると……蠅に刺されて、既に命を落としていたのかも知れない。
ワーグの長が勝利の遠吠えを上げ、それに倣って、他のワーグたちも遠吠えを始めた。




