さばへなす
けれども、燃える村から、飛び出して逃げた、ワーグたちを見て安堵したのは、俺一人だけの様。
他のオークたちは、ツォンカパはいわずもがな――臨戦態勢のまま、警戒を怠る者は、一人も居ない。
(こいつらの戦闘民族っぷりが、本気で怖い)
ワーグたちの事もそうだったが――今は、ごうごうと燃え上がる、この村も今や脅威と化しつつあった。
「ツォンカパ……。この火……」
「心配無い」
ツォンカパは短く、断言。正直――心強いこと、この上ない。
「村の周囲の下草には、定期的に火入れを行っている。この程度で森に燃え広がることはない。日が昇った昼過ぎには、恐らく雨も降る」
ツォンカパの言葉に、空を見上げる。空には大して、雲が立ち込めている訳では無かったが……。このオークが言うことだ。この手の知識に関してだけは、信頼できた。
「……追い払えたと思うか?」
「分からん。それなりの数は獲ったが……。引き際が良すぎたようにも、感じられなくも無い。先に逃がしたメスと子の方に、狙いを変えたとも考えられる」
「それ、マズいんじゃ……」
その場合、例えワーグの群れを追い払えたとしても――それは、ツォンカパの頌の部族が、滅んでしまうことに他ならない。
突如、森の奥深くから、獣の遠吠え。ワーグの遠吠えで、間違い無い。
あれほど恐ろしかったワーグが、まだ諦めていないのだと知った途端、先ほど頭をよぎった最悪のイメージが払拭され――少しだけ安堵。
「ツォンカパ。さっさと片付けちまおう。森に燃え移る心配が無いのは分かったけど、やっぱり火は、早く消した方がいい」
「……そうするとしよう」




