四方八方から毒矢の雨
夜の空気を切り裂いて、四方から矢が放たれ、次々に、ワーグたちの身体に突き刺さっていく。
オークに伝わる毒を、その身に受けたワーグは――すぐに、沼田打ちだす。
「ひっ!?」
俺の足元にも、毒に浸された流れ矢が飛んで来た。
その薄い鏃が、硬質な音を立てて砕け散る。
「ちょ……ちょっ! 待てぇ! 周囲からバンバン、矢が飛んで来るじゃねぇか!」
俺はあまりの恐怖から裏返った声を上げていた。
今、村を取り囲むように樹に登ったオークたちが、ひとり30本ずつ分配された毒矢を放ち続けている。
車座になって、ワーグが集まった村の中央に目掛けて、集中させて矢を浴びせるように指示してある。矢を射るオークたちから、身を隠す場所なんて、屋内くらいしかない。
つまり篝火に照らされた餌役の、俺たちの周りに矢が降り注ぐのは、自明。
ワーグの長は、最初の矢が仲間の身体に突き刺さった瞬間、近くの小屋に飛び込み、難を逃れていた。
「ツォンカパ! 俺たちも早く建物に逃げ込むぞ! 死ぬ! 死んじまうから!」
背中をカバーするつもりで、背負っていた円盾を手に持ち直し、掲げて――みっともなく叫ぶ。
「ハッハッハッ♪ なにを慌てたフリをしているツモイよ! これを指示した、お前が慌てふためいてみせた所で、白々しいばかりだぞ」
ツォンカパは心底楽しそうな様子で、降り注ぐ毒矢の雨の中、腕を組んで立っていた。
現代日本で――それまでフツーに暮らしていた学生の俺に、水も漏らさない作戦の立案が、できると思うなよ?。
俺に出来ることと言えばコンパの場、居酒屋の白魚の踊り食いで……偶然、会得した。
3回に2回は失敗して、そのまま消化しちゃう……人間ポンプと――




