……こ、こんなにデっカいの?
「……もう、それ。何回も何回も、説明させられたからな? 人間の俺は、夜目が利かないから、木に登っても、弓なんか当てられねぇんだって。そもそも、あんた……俺に弓を教えたことあったか? 無いだろ?」
「無かったか?」
「……ねぇよ。お陰で、俺にできることって言ったら、後ろの小屋で臥せってるじーちゃん、ばーちゃんと、血の気がやたら多い あんたと一緒に、狼たちを引き寄せる、餌役くらいしか仕事も無ぇんだよ。も~ホント、ふざけるなって感じだ」
俺の小姑じみた小言を、笑みを浮かべて聞き流していた、ツォンカパの顔から笑みが消えた。
「――ようやく、客がみえたようだ」
村を囲む森の空気が――それまでとは、打って変わって静まり返る。
森の中で、必死に自分の縄張りを主張していた、フクロウのテリトリーコールすらも、鳴りを潜めていた。風に乗って四方から、獣独特の臭い。
周囲に植えられた逆茂木を飛び越えて、黒い影が幾体か、村に侵入して来たのが、俺の位置からも確認できた。
樹上のオークたちの弓は、まだ発射されない。
ワーグたち全てを村に招き入れてから、一斉に、弓矢で始末する手筈になっていた。
村に立ち並ぶ、木組みの骨組みに、屋根として草を葺き、木板で囲っただけの、オークたちの粗末な小屋を縫って――ワーグたちは、ゆっくり近づいて来る。
「デ……デカい」
――デカいなんて、ものじゃなかった。
ツォンカパに聞いたワーグの大きさについての説明は、この数年で背が伸びた
「俺の背丈以上に、大きな獣」
てっきり「ワーグの全長が」俺の身長以上なのだと、勘違いをしてしまっていた。
正しくは「ワーグの肩までの高さが」俺の身長以上――これが、正解の様。
(う、牛以上にデカいぞ……コレ)




