戦を見て矢を矧ぐぞ
割る時に誤って、自分の指先を深々と切ってしまい、血が流れ出す。
その切れ味を目にしたオーク達は、驚きの声。
――切った指先を口に入れて舐めると、広がる鉄の味。
「ほら? 戦を見て矢を矧ぐんだから、さっさと動け」
俺はオークたちを急かし立てた。
* * *
初めて足を運び入れたツォンカパの村は、俄然活気に満ち溢れていた。
皆、それぞれに割り当てられた作業に――手を、身体を、動かして、愉し気な声で「コイツがワーグの腸を抉る瞬間が待ちきれぬ」だの、「ツモイが持って来た鏃をどう留める? 身体の中に残るように矢柄に甘く噛ませて結わえるか?」だの「毒ができた」だの……だのだのだの。
好戦的なのは、分かってはいたが……。ここまで楽しそうに、殺し合いの準備を始める周りのオークたちの様子に、さすがに少し引きつつ、苦笑い。
村は既に女子供を逃がした後で、残ったのはツォンカパ同様、年老いたオークたちを筆頭に、指の数本が無い者、足を患っている者、病に臥せっている者などを合わせて、30名ほどが残っていた。
「ツモイ、身体を測らせろ」「腕の長さを測らせろ」と度々、入れ替わり立ち替わり、オークがやって来ては、俺の寸法を縄で測り、粗末な小屋に戻って行く。なんでも、この俺もオークの栄誉ある戦いに、仲間として加えてくれるらしく、もののぐを仕立て直しているのだとか。有難いことで、本当に涙が出る。おうちに帰りたい……。
「……礼を言う」背後から、ツォンカパからの感謝の言葉。
他のオークたちが作業する中、ツォンカパは椅子に腰を掛け、しんどそうな様子ではあったが、村のオークたちの様子を、優し気な表情で眺めていた。ツォンカパを見た俺は――昔、祖母の家で飼われていた年老いた猫の、最後を迎える直前の様子を思い出す。




