忘れてた
「アンタぁ?!」
背景の一部くらいにしか視界に留めて居なかった、ネルからの思いも掛けない叱責。
驚いてそちらを向くと、血相を変えたネルが顎には「うめぼし」をこさえて、こちらに向かって猛烈な勢いで駆け寄って――俺の首根っこにラリアート気味に腕を絡めると、義妹たちから俺を引き離しにかかる。
「痛ってぇよ! なにすんだよ! いきなり、オメーはよ?!」
非難の声など、どこ吹く風と言った様子で、ネルは俺の顔を両手で、がっしと掴み――自身のチャーム・ポイントと喧伝して憚らない、泣きボクロを――俺の目に押し付けんばかりに近づけて来る。
顔にかかる彼女の甘い吐息。
「……何回、おんなじこと……やらかす気なのよアンタは……前にも言ったわよね? アタシたち獣にとって、求愛の際には~……さん、ハイっ? なんでした……か?」
ネルの言葉に臓腑は氷点下を突破。
「……オ、オスが……メスに……食べ物や、巣を差し出したり、歌、踊り、オス同士の闘いの勝利を捧げる……だった……でしょう……か…………」
「よく……できまし……た」ネルは強張こわばったままの顔「それなのにアンタは……また、あの子に何、手渡そうとしてたの? ……えっ? なに? アンタ、食べ物でアタシたちが簡単に釣れると思って、それで味でも占めちゃったの? 今まで必死にチーズこさえて来たのは、そのためなの?」




