謎過ぎる事物
鑑定結果の記録は、オーサに陶片を握って貰いトキノに丸投げ。俺たちは主のお許しを戴いて、勝手知ったるとばかりに、ホールにテーブルを運んでのおやつの時間。
それもあらかた片付くと、暇を持て余したデシレアとトーヴェは仲良く、オーサのピアノで、愉し気な曲調の連弾に興じ始めた(仲良いなぁ……あの2人)。
「……これ……は」
鑑定を頼んだ山を眺めて回る義妹が足を止めた。
先程の様子もあって気になった俺は、お茶を注いだカップを手渡すついでに席を立つ。
彼女が視線を注ぐ先に在った物は、高さ1メートルほどのブロンズのオブジェ。モチーフにしたものはなんの変哲もない、てんとう虫数匹が、木の棒に群れて――その内の一匹が、棒の先で羽根を広げて、今まさに飛び立とうとする躍動感溢れる瞬間を切り取ったもの。
「……在る……訳が……無い」
「……?」
オーサの言葉の意味が、良く分からない。カップを手渡し、御説明が戴けるのを期待して、傍で静かに待つ。
俺とオーサが、見入るナニかに興味を持ったのか――ルチェッタさんも席を立って、こちらへとやって来た。
そして、そのオブジェを見るなり彼女は、恐怖に顔をゆがめて、城中に悲鳴を響き渡らせた。
腰を抜かして、半狂乱と言った感じの彼女に
――いつか俺も嗅いだ、甘い香りの気体をデシレアが嗅がせて、何事か分からない内に眠りに就かせる。
「……この子、一体どうしちゃったのかしらね?」
興味でも湧いたのか、俺とオーサが前にする、緑青の浮いたオブジェを見にやってくるネル。
「あら♪ 可愛い。てんとう虫さんたちじゃない。近代芸術って感じで洒落てるし、なんだか素敵♬」




