死の眷属にタカられて
「義兄様……気を遣わせてごめんなさい」
乱れた長い黒髪を手櫛で直し、先程の涼し気な表情を取り戻したオーサが、小さく詫びる。
「それはイイけど……」俺の視線の先には、号泣するネルと姉を必死になだめる様に、よしよしと頭を撫でるトーヴェの姿「アレは一体、全体……どうしたの?」
「……さぁ」何を言っているのか、分からないわ? とでも言いたげな――そんな小首の傾げ方。
「アンタああぁあぁーーーっ」
号泣して抱きついてこようとするネルの頭を、片手で押し退ける「やめろ、寄り付くな。余所行きの服に鼻が付く」
「オーサが! オーサがぁ! ア、アタシに月魄を……月魄を……けしかけるのよぉ」
(……月魄?)
すまし顔のオーサの様子から察するに――訊ねても無駄そうなことは理解できた。そばに居たデシレアに視線を向ける。
「……おねーちゃんには善い薬。月魄ってのは、オーサちゃんの眷属でね。視ただけで生き物の寿命を100年~200年単位で吸い取る子たちなんだよ。おにーちゃんも、ルチェッタも、居なくて本当に良かったかも」
(……ほ、ほんとうにね)
日頃、姉に対して溜め込んだものを吐き出すように、説明を口にするデシレア。
人類であれば、出遭っただけで命を取られる存在にタカられたらしく、泣き止む様子を見せないネル。
俺は義妹の言う『おねーちゃんには善い薬』と言う言葉に、もっともだと言うものを感じて、オーサに訪れた用向きを伝えることにした。
「ちょっと、見て欲しいものがあるんだけどさ?」




