豆しば 対 アメショ
しばらくすると今度は、ノックも無しにネルが部屋に入って来た。おまけに扉も閉めやしない。
「ヴィルマが真似をする」
と、そのことに口を尖らせようかとも思ったが――今更の感もある。そこは目を瞑ることに。
「で? あのエルフさんはどうなのよ?」
容体を聞いてみると「怪我も無いし、興奮して落ち着かないみたいだったから、アンタが御執心の夢魔の3人が、眠らせたわよ」相変わらずの――含むものがある御様子。
溜息をついていた。椅子から立ちあがると、ネルに歩み寄る。
胸の下で腕を組んで、憮然と睨み返すネル。
「……おう、コラ」
「なによコラ」
俺とネルの背後に――豆シバと、アメリカン・ショートヘアを象る闘争の空気が渦巻いて、雌雄を決しようと鳴き声を上げる。
「人の頭……覗きっ放しで、ヤキモチ焼く余地もねえクセに……ブー垂れてんじゃねぇぞコラ」
「『ソレ』は当然の事でしょ。夢魔の娘をアタシが毛嫌いする理由は、別モノでしょうがコラ」
「調子に乗ってると……チューするぞコラ」
「やれば? こちとら最近、御機嫌斜めなのよコラ」
「なんだか……鬱陶しくなるほど、イチャついて、いらっしゃるところ……申し訳ございませんね? ご主人様、奥様。ちょっと、急ぎなものでして」
いつの間にやって来たのか、悪魔が珍しい表情。
「夢魔の娘たちが……ですね? 眠るエルフの娘から『見えた』と言うものを……お耳に入れようかと、来た次第なんですけど……どうしましょう? 私、出直しましょうか?」
その気も無いクセに、気を使っているそぶり。
ネルの小さな頭を掴んで、その唇に無理矢理、頬を押し付けると――悪魔からの報告を聞くことにした。




