ロキシーちゃ~ん♪
――鏃を調達する目途は立った。昔、ネルと2人で出掛けて、量販店で購入した100枚入りセットの工作用カッターナイフの替え刃。
コイツをひとつひとつ折り目に沿うように折って、刃と反対側の辺の、切っ先と真逆の側を垂直に、ノミか何かで断ち落とせば……鏃として、獣の皮を貫き、肉に突き刺さる程度の切れ味は、期待できるだろう。
あとは……矢のケツ部分は、とりあえず置くとして……矢羽だ。
ツォンカパの部族は、結構狩りには出掛けていたようだ。ひょっとすると、心配するまでもない可能性はあった。……が、やはりまとまった数が、都合良く確保できるかどうか分からない以上、こちらで手を打っておくのが、得策に思える。なにより……もう、時間が無い。
食事を済ませると、先程のハグからの流れるような突然のちゅ~に、気を良くしてくれたネルは、上機嫌で洗い物を持って、泉に出かけて行った。
銀色に光る、龍と蛙が向かい合う紋章が刻まれた指輪を外して、テーブルに置くと、家の裏手に回る。
――正直、ここまでせずとも。これは頼めば、どうにかなったかも知れなかったけれど……。断られた時のことを考えると、こっそりと、済ませてしまうべき事のように、この時は思えた。ネルの気配が遠ざかったのを、しっかり確認した後でそっと、足音を忍ばせ……。
暗い家の外。麦わらで作られた巣で……そいつは眠っていた。そっと……近づく。……が、気づかれた!
我が家の食卓にのぼる卵の生産を、一手に担い続ける牝鶏のロキシーは、鳥目じゃないの? と、聞きたくなるほどの機敏さで、家の周りを縦横無尽に走り回った。おまけに信じられないほどの高さで飛ぶ。
家の屋根に飛び上がったロキシーを箒を振り回して、屋根から降ろして、俺とロキシーの追い駆けっ子が、夜の闇の中で繰り広げられる。




