白いカエル
座席に腰掛けたままぐったりしていると、ハッチをノックする音。
ゆっくりとハッチが開くと、有栖川さんが、お出迎え。
「お疲れ様でした。百千万憶様、お嬢様」
疲れをまるで感じさせない義妹。座席を立つのも辛い俺。タラップの手摺りを、掴んでよろよろと降りる。
騎士の足元へと降りたところで、デシレアが振り返って騎体を見上げていた。
「如何でした?」ご機嫌な様子を漂わす主人に、お伺いを立てる有栖川さん。
「拾い物だったかも♪ 元にした、このガベルとか言う騎体。余程優秀な設計だったみたい。遺っていた『記憶』によると、これが造られた当時は、拡張性も高かったらしくて、色々なバリエーションもあったみたいだし。わたしが、何から何まで別物になるまで弄ったのに特に問題も無さそう。もう少し、つめてみよう……かな?」
話し込む2人に、膝をつきそうな俺。早く座りたい……。
* * *
そんな俺に、美貌を向ける執事さん。
「それで……この騎体のお名前は、如何なされます?」
(正直……凄く、どうでも良い)
とは、おくびにも出せなかった。いや、この場に居る2人のこと、それはすぐさま察してしまっていただろうが――俺は、素早く切り返す必要に迫られていた。
「えっと……ゲシュ……パキアド……とか、どう?」
シルウェストリスにおける上位古代語で「白亜の神像」または「白の偶像」――そして、今は見られなくなったと伝えられる「白いカエル」
(生物学の命名則って、ホント適当だもんなぁ……。世界が変わってもこの辺、一緒かよ。なんで突然、「白亜の神像」「白の偶像」と続いて、カエルを置こうと考える? 差し控えろよ。遠慮しろよ)
と、くたびれた頭で自身の出した名称候補、その語彙の意味する所に呆れていると――。




