「アレ」!? 「アレ」はどこだ?!
俺を気遣って、食事をさせたいのだろう。
気遣いが透けて見える優しい脅迫。
――が、今はそれどころでは無かった。
なんせ俺の頭の中に、珍しいことに突如、一筋の光が差し始めていたのだから。
「……アレ」
「あれ? なに?」
ネルが、俺の頭を瞬時に読み取り、家の屋根に目を向ける。
「屋根のアレ……お前、以前……なんて言ってたっけ?」
「スレートのこと?」
シルウェストリスに やって来たその日。
――初めて……いや、生前住んでいた俺の家だったとの話である訳だから、そうでもないのか? まぁ、そんなことは、今はどうでもいい。
兎に角ネルは、その時点において
俺が見慣れていなかった。小屋の屋根に葺かれていた建材「スレート」について――こう説明してくれていた。
『粘板岩とか言って、一定方向に簡単に劈開する石が使われているのよ』
「一定方向に簡単に……劈開する……劈開……割れる?」
俺は、前に立っていたネルを押しのけ――家に飛び込んでいた。
突然の俺の反応に、ネルが驚いた声を上げていたが、今は、それに構っているどころではなかった。
「ちょっと! 今度は、いきなりどうしたってのよアンタ! ちょ! なにタンスの中身ひっくり返してんのよ! なにがどうしたの!? ねぇ!」
ネルの声に構いもせずに――
家中の物を、ひっくり返して探しまわり……ようやく、それを見つけ出したところで
背後からネルにグーで力一杯、頭を叩かれた。
「……説明をなさい。説明を。それとコレ」散らかした家の中の物を、ネルは指を指して「ちゃんと片付けるんでしょうね……」憤慨しての仁王立ち。
そして散らかった物の中から、俺が探していた品を目にするなり――。
「あら? ……妹のペットのおやつに買って来たお土産じゃない?(……これを食う、お前の妹のペットって、一体……なんなんだ)こんな所にあったの?」
――いつもの調子で、そんなことを。
思わずネルを力一杯に抱きしめると――ネルの方も、なんだか分からない様子ながらも、満更でも無さそうにしていた。




