バイト代が、ぶっ飛んじゃう
背中を向けるデシレアのお顔を確認する術は、俺たちには無かったが。きっと、いつもは、おしゃまさんな……そのお顔に――姉のネルが時折、見せるドヤ顔めいたものを浮かべているに違いない。
再び彼女が踵を返すと同時に――騎士は轟音を上げて、バラバラとスクラップの山へと姿を変えた。
* * *
「で? いくらになった?」
甘い香りが立ち込める厨房で、戻って来た悪魔の気配に訊ねる。
「結構、頑張って洗車したんですけどねぇ……元々が、あまり状態の良い中古車とは、言い難かったものですから……」
背後の調理台に悪魔が、そっと差し出した紙幣と硬貨を首だけ巡らしてみると――1万円札1枚と、百円玉が4枚。
「……マジか」
「マジですとも」
先日、足代わりにしたオフロード・バイクは、どうやらバイク屋の主人に買い叩かれるだけ買い叩かれたのかとも思ったが――事前にトキノに、予想させた下取り価格の、どうやら適正価格の範囲内。諦めるしか無いらしい。
「数時間乗って、10万円近くが飛んだぞ。痛いなオイ」
ガスコンロのフライパンに、視線を戻すと――ざっくり、混ぜ合わせた生地が、ふつふつと気泡を浮かべ始め、表面が乾いてきた。
取っ手を握り、手前にあおる様に動かして、パンケーキを宙に放り上げると、綺麗に引っくり返して受け止めることに成功。
「流石に、これだけ焼けば上手くもなるもんだな……味の方は知らんけど」
噛み殺す様な笑い声を上げる、悪魔の声を背後に聞き、皿を用意するように言っている所へ、満足気な表情と気怠そうな疲労感を顔に浮かべ、デシレアがやって来た。脚にまとわりつくように、しがみつく彼女。
「もう、できたぞ? ちょっと待ってろ」




