指先ひとつで
色めき立つ屋敷の皆。もののぐを手に、うきうきとした表情を浮かべるオークの娘たち。既に興味も消え失せた表情を見せる義妹2人。
抱っこしていたペットの、ぴむぴむくんを妹トーヴェに任せて一人、騎士に向かって、ゆっくりと歩くデシレア。
トーヴェに預けられ「ぴっ?!」と、驚いた鳴き声を上げた、ぴむぴむくんは――彼女に喰われるとでも思ったのか……。
デシレアが腕を組んで仁王立ちしたのと同じタイミングで、バリバリと繊維を引き裂く音を立て、騎士は戒めから解放された。
それを見据え、斜に身体を構えて、可愛いお鼻を親指で「ぴっ」と弾くと、リズム良くステップを取り始める義妹
(ブルース・リーごっこが……してみたかったのかな?)
相変わらずの狂い様を、見せつけようと騎士がデシレアに、その腕を伸ばした瞬間。
「ほああぁぁぁぁぁぁああぁあ~~~っ♡」
まるでヴィルマが、好物を茶棚から見つけた時に上げる、感嘆符のようなものを上げて、彼女は巨大な騎士の頭部まで、ひとっ飛びの跳躍をみせた。
「と、跳んだ?!」
そのお嬢様な外見からは、想像もつかない、有り得ない身体能力に驚いて、見上げる屋敷の住人一同。
可愛らしいドロワーズを、仰ぎ見る皆に披露し、彼女は次々と、その小さな お手ての人差し指で
「あったぁ~っ♪ あった♡ あったあったあったぁ~♬ 有ったぁーっ☆彡」
愉し気にしか聞こえない声に合わせて触れ――そして着地し、騎士に背中を向けた。先程までの威圧感も嘘のように静まる、機械仕掛けの騎士。
数歩、こちらに向かって歩き、思い出したように騎士に人差し指を向ける彼女。
――固唾を呑んで見守る俺たち。
ゆっくりと、静かな口調で、彼女は騎士に向けて言い放つ。
「部品番号EAー561から、EAー3までのナットを突いたわ。そこは既に……ストレスが、限界に来ている……」




